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第214回、T刑事の奇妙な取り調べ事件簿 その3


長年刑事を続けていると、奇妙な事を口にする容疑者に出会う事がある。
今日も、取り調べ刑事(デカ)の前には、一人の奇妙な容疑者が座っていた。

容疑者「だから自分は、ストーカーなんかじゃないんです。ただ自分の嫁に会いたかっただけなんです。刑事さん、自分でなくて嫁を監禁している教団の方をきちんと取り締まってくださいよっ!!」

T刑事「すまんが、どういう事なのかもう一度一から話してくれんかな?」

容疑者「だから自分の嫁が、新興宗教の教団入信してしまったんです。
それ以降、嫁は教団の宿舎に監禁をされて、今も教団の元で毎日生活をしているんです」

T刑事「その妻というのは、確か年齢が‥」

容疑者「妻ではなくて嫁ですっ。17歳ですが、それがどうかしたんですか?嫁と言っても、精神上の上での事です。自分だって、女性の結婚可能年齢が2022年の4月1日から18歳以上になったのを知っていますよ。今の彼女とは婚姻関係を結べるとは思っていないです。でも僕達は互いに心が通じ合っているんです。
自分は彼女が18歳になるまで、きちんと待つつもりでいますっ!」

T刑事「いや、あんたの年齢は確か‥」

容疑者「48歳ですが、それがどうかしたんですか!?元々は前世で彼女とは同い年だったんです。それが転生時間のずれで、現世で31年のずれが生じてしまっただけなんです。年齢差なんて自分は全く気にしてなんかいません。彼女だってそのはずです」

T刑事「そのはずって‥その彼女さんには、確認をしていないんですか?」

容疑者「自分が前世の記憶を取り戻した時には、彼女は既に教団に入信してしまっていたんです。彼女はまだ覚醒をしていないので、前世の記憶を取り戻していないですが、自分に会えば、会って手を握る事さえできれば、彼女もきっと、前世の記憶を取り戻せるはずなんです」

T刑事「あなたの言っている事は、にわかには信じられませんが‥ 
しかしその彼女がいくら教団に入信していると言っても、彼女さんに会って手を握る事はできるんじゃないですか?」

容疑者「確かにその機会はあります。教団の配布する教典の購入をすれば、彼女に会って手を握る機会が与えられるんです。自分もその教典を購入して彼女に触れる事で、前世の記憶を取り戻したんです。
でも巫女である彼女に接触できる時間は、物凄く限られているんです。
その時間だけでは、彼女の記憶を取り戻す事はとてもできないんです」

T刑事「それで彼女の後を付けて、彼女に接触をしようとしたのだと‥」

容疑者「そうです。ですが自分の嫁に会う事の、何がいけないんですか?」

T刑事「正直、あなたの言っている事の半分も理解が出来ないのですが‥
あなたもその教団の教典を購入しているのなら、教団の信者なのでしょう?それならば信者として、彼女に会いに行く事はできないのですか?」

容疑者「もちろん自分も信者です。いや信者を装って嫁に会おうしているのですが、その教団は、男性と女性では、信者の扱いが大きく異なるのです。
男性は、教団の提供する教典や崇拝物を購入する事までしか許されませんが女性は、その教団の巫女として、身を捧げる資格が得られるんです。
しかしその教団は、見た目のいい子だけを巫女に選んで、選ばれた巫女は、男性との接触を一切経たされ、新たな信者を獲得する為の教団の布教活動をさせられるんです」

T刑事「それで、あなたのその彼女さんも、その巫女に選ばれて布教活動をしていると‥でもまあ、巫女さんが男性との接触を禁じられているのなら、あなたもとりあえず安心なんじゃありませんか?」

容疑者「とんでもない。その教団の教祖はとんでもないエロ教祖なんです。未成年の可愛い子ばかりを巫女に選ぶばかりか、その巫女から、気に入った相手を見つけると、自分の嫁にめとってしまうんです。
自分の嫁は、巫女の中でもセンター級の可愛さがあります。いつ教祖の目にとまり、嫁にされないかと考えると、毎日不安で耐えられませんよっ!!」

T刑事「日本にそんな宗教団体があるとは、とても信じられませんが‥」

容疑者「その教団は、宗教法人を名乗ってはいません。だから社会的には、宗教団体とは認識をされていないんです。でもその団体は確かに存在して、日本の各所に支部を広げているんです。
数年前からは、とうとう海外にも支部を進出させ、今や世界規模での活動を行っています。
その宗教団体は、選挙活動による信者達の投票で、神に仕えし7人の巫女
選ばれるんです。自分の嫁もその巫女セブンの一人に選ばれています。

巫女セブンと言えば聞こえはいいですが、若い間だけ巫女としてさんざん
仕わせておいて、若さを失えば、数年で教団から追放されてしまうんです。
それがまともな宗教団体のする事だと思いますか!?

刑事さん、刑事さんが知らないだけで、日本はもうその宗教団体にとっくに支配をされているんです。
早くその宗教団体を摘発して、自分の元に嫁を返させてくださいっ!!」


その容疑者は、逮捕される事はなかったが、今後一切彼女に近づかない様に接近禁止命令が出される事となった。もちろんその宗教団体の布教活動にも出禁となった。

後輩の刑事「それにしてもあの容疑者、とんでもない妄想野郎でしたよね。無宗教、無信仰国家の日本に、そんな団体がある訳ないじゃないですか。
あれば自分達もさすがに、その存在に気が付きますよ」

T刑事「おい後輩、今日の勤務が終わった後、一緒に飲みに行かないか?」

後輩の刑事「先輩すみません。今日はこの後、推しのアイドルグループの
ライブがあるんです。今日は握手会もあるんで、どうしても行きたいんす。推しの握手券を手に入れる為に、どれだけCDを買ったかわかりませんよ」

T刑事「そんな団体ある訳がないか‥」

自分の娘も今とあるアイドルに夢中になり、将来自分もアイドルグループに入りたいと言っている。
今やアイドルはなる物ではなく、入る物になっているらしい。

T刑事は、日本はその宗教団体にとっくに支配をされているという容疑者の言葉が、いつまでも耳の奥に残って消えなかった。

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