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アサガオの育種

 植物の品種改良を育種と言う。それを仕事にしていた時期があったが、対象植物はきれいでもかわいくも好みでもなかった。仕事だった時期は別途プライベートで何か植物の育種をする発想もなく過ぎ去ったが、(中略)、アサガオをターゲットに決めた。当時、従来にないタイプのペチュニアがブレイクをかましていたのにインスピレーションを受け、咲いたら1日中、夕刻までしおれない花で、半蔓性のものを育種目標とした。

半蔓(木立)アサガオ

 半蔓性の既存品種はあったが、花が葉っぱに潜って咲いてしまい、観賞性はイマイチだった。他の花(植物種)でも、花が葉っぱの上に出て咲くアップライト性を売りにしている品種を見かけたこともあり、まずそこを目指した。素材は半蔓性の品種と草姿が一般種より小さめの「姫」という品種。

姫アサガオ

「花の交配って予想だにしない」と友人に意外に驚かれるので説明すると、一方の蕾からおしべをピンセットで除去する。これが母となる。もう一方の花はなんもせん。これが父となる。開花日の朝、父の花粉を母のめしべの先に心置きなくくっつけまくる。プロは確実性を高めるため袋をかける。受精に成功するとやがてタネができる。父と母の子供である。
 それは予想通りに進み、子孫を選抜して半蔓性の姫ができた。草姿、特に葉っぱが小型化したことにより、花が葉っぱの上で咲いた。
 続いて花持ち。どんだけ入念に、肥培管理を玄人にして、盆栽のように育てて咲かせて品評会で仙人になっても、花は午前10時には萎れ始める。江戸時代はそれを「あっぱれ」「にっぽん」「潔い」など「是」と捉えたっぽいが、きょうび、それではあまりに刹那的。キク仙人にはよく「アサガオもいいけれど、すぐ萎れるからねえ」と言われたが、御貴見の通りです。'80sだったか、日本アサガオと近縁のマルバアサガオの交配により、1日中萎れずに咲く「曜白」という新品種が大手種苗会社からリリースされた。

曜白アサガオ

ちょっとマニアックな話だがすぐ終わるのでお時間拝借を。アサガオの花はもともと花びら5枚以上のものがくっついて漏斗状になった「合弁花」と言う。その各花びらの繋ぎ目を「曜」と呼ぶ。上記近縁交配種の花は、予期せず曜が白く色抜けし、これは独特のコントラストになったのである。この曜白種を育種素材とし、先に育成した半蔓姫と交配した。ちなみによく見るアサガオ種で開花時間が最も長いのは西洋アサガオ、有名な品種はヘブンリーブルーだが、近縁種だが日本種と交配しないほどには他人の関係となっている。

ヘブンリーブルー

 さて半蔓姫と曜白種は交配に成功し、その後代集団をできるだけたくさん殖やした。「姫」は双葉時代に選抜できた。「半蔓」は幼苗時代に選抜できた。花持ちは・・・、当時σ(・_・)はまだ会社勤め人だったので、朝咲いた株をちっこいポリポットのまま会社に連れてった。花が萎れたらバイバイ。夕刻まで咲き残った株は合格。こうして初代「紅星(と命名)」が誕生した。

紅星1st

 駄菓子菓子、問題発生。アサガオ以外の植物種でも時々起こるが、タネが採れない。もともと、かなり交雑しにくい日本アサガオとマルバアサガオの交配種に由来するのと、アサガオが所属するサツマイモの仲間には、自分の花では受精しない性質があるが、アサガオ栽培種ではその性質が自然に減弱した、言い換えると園芸品種として代々栽培されている間に、自然とタネが採れる株だけ選抜された可能性がある。変な交雑がなければそのままだが、何らかの目的により、系譜の離れた品種を交配すると、その植物種が元来持っていた性質がバリバリに復活することが稀によくある。そのよーな事象にちょいちょい遭遇していた経験があったσ(・_・)は、タネが採れやすい性質を付与すべく、放っといてもじゃんじゃかタネが付く野良の日本アサガオを抜擢し、「紅星(初代)」と交配した。その子供株はラッキーにもたくさんタネが採れたので、後代を再び「姫」「半蔓」「花持ち」で選抜した。こうして「紅星(2nd)」が誕生。じゃんじゃかとはいかないが、頑張ればタネが採れる程度にはなった。この品種を「緋星」と改名した。

紅星2nd改め緋星

 さて自分が会社勤めに向いていない派なことを遂に認識した2010年代の中頃、会社勤めに向いてないなら、会社を創ればいいじゃないとチャチャッと起業した。できるものは何にでも着手しておいて、儲からないと判断したら切ればいいじゃない。なので最初に育成品種「緋星」を品種登録した上で、タネを販売した。品種登録には申請書類に加え、タネを4000粒(うろ覚え、今は1000粒となっていた)添える必要があって、それを数えるのが最も労だった。カラーバリエーションとして浅葱(あさぎ)色の「涼縞」も育成できていた。

涼縞

web販売を整え、絵袋も印刷。他社の相場に合わせ、1袋310円。注文が多かったらバイトとか要る?とか思っていたが、とんだ皮算用。アサガオは夏の風物詩。タネ播き適期は5月頃。注文はあったとしても月に数件。5月を完全無視して月に数件。何なら晩秋〜真冬にも月に数件。は?そもそも、日本に最初にアサガオが導入されたのは奈良時代、遣隋使が種子を下剤として持って帰ったとか。σ(・_・)が知らないだけで、便秘薬として使うとか???
 2年目も若干数量は増えたものの、全然売れなかった。むしろ、他の業務を進めているところに、ポツリポツリと注文が入るため、その都度1袋ずつタネを数えて入れて、シーラーで袋を閉じて、第四種郵便に取りまとめ、ポストに投函。ある日そこからUターンする際、電柱で車の後ろがぐちゃっとなって、心折れた。これはイカン。儲からないどころか、他の業務に差し障るし、物損で電柱が無事だったからまだいいが、それよりおおごとになる危険性すらある。品種登録の初年度更新料6000円すら、もはや出費する意味がないと判断。web販売サイトもとっととに閉じた。ご購入されたお客様がた、その節は大変お世話になりました。タネは採れにくいものの、頑張れば承久に世代を繋げます。
 以後時々アサガオ交配が夢に出て来るが、起きるたびに自分に言い聞かせる。あれはイカン。儲からないどころかダメージが大きい。また初めて記述するが、きもいでかいイモムシが付く。スカシバ?だかスズメガ?のアオムシらしいが、でかいのがきもく葉っぱを食いまくるにはまだ被害は小さい。最も重篤なのは、交配仮定のさく果の中身をまるっと食害されること。マルバアサガオという近縁多種の遺伝子が混ざっているためか、花Aと花Bで授粉させても、さく果が実らないことが多々ある。毎朝続けてやっと実が育っても、中身は喰われてスッカスカ。浸透性の殺虫農薬をぶっかけても、さく果の中にいるイモムシは守られるし耐性付くので対抗できない。当時は相当口惜しかったが、今やもういい。儲からないから。次いで、生長点にホコリダニだかがたかって生長点が止まる。殺ダニ剤散布とか、普通に雨降っただけでもダニは落ちると言うが、しぶとかった。アサガオって、育てるのこんなに難しいっけ?と思ってみたり。でもこれももういい。(略)
 以下に曜白姫半蔓の育成種の画像をupします。初動でブレイクしたら、増殖して販売する予定だった、夢幻の品種です。

手前は「桜縞」
白地に色スプレーしたような模様「吹掛絞り」
半蔓姫吹掛絞りの浅葱色
絵の具を刷毛で塗ったような「刷毛目絞り」
育成者の好みにより浅葱色が多い
紫星
吹雪のような白抜け
碧星
碧姫

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