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周辺部の情報

 一時期、コーチングが流行しました。「答えは自分の中にある。コーチはその答えを引き出す」という主旨が多かった気がします。私は、スーパーマーケットの経営者、そのスタッフを対象とした仕事を30年ほどさせていただいていますが、「答えは自分の中にはない」ことを断言できます。

 ないものを探せと言われても見つかるわけがありません。見つからなければ「人間力」が足りないと責められます。大多数の人は諦めてしまいます。「天職」を求めて「転職」を繰り返す人もいます。パートナーが「理想の相手」でないと自分で決めたら、簡単に「離婚」します。次から次へと悩みが噴き出てきます。

 私は、困難にぶち当たったとき、危機が迫るとき、「周辺部の情報」を徹底的に探るようにしています。答えは「自分の中」にはない、「自分の外」にあるのです。

 業績がジリ貧、競合店の進出、従業員が集まらない、値上げラッシュで利益が出ない・・・。経営者の悩みは尽きません。30年間でダントツなのが「業績のジリ貧」ですが、ここ数年のコロナ禍での政府の“バラマキ”で悩みの本質を忘れているのが現状ではないでしょうか。現在圧倒的に多いのが、「値上げラッシュで利益が出ない」ことです。

 どんな状況でも、上手くいっている企業があります。誰もが思いつかないアイデアで困難を乗り越えた事例があります。一方で、マスコミは、「競合激化でスーパーマーケットの倒産件数が過去最高」「あの名物店が値上げに悲鳴」など面白おかしく、時には冷酷に報道します。「中心部」のショッキングな情報だけ伝えて、「周辺部」で起こっていることを知らないのか、知っていてもあえて報道しません。

 「周辺部」のどこかに、必ずヒントが見つかります。「周辺部」をしつこく、しつこく、じぶんの目で、自分の足で探るのです。かつて、スーパーフレック(千葉市)の創業者・雲田孝夫さんは、千葉県市川市のJR本八幡前に開業した店舗が思ったように売れず、金沢の近江町市場、大阪の黒門市場など全国の繁盛店舗を見て廻ったそうです。そして開眼したのが「フレック商法」です。当日朝仕入れた商品を全部売場に積み上げて、夕方には全部売り切る、「鮮度と活気の売り切り商法」です。

 商人なら、「利は元にあり」という言葉を知っていると思いますが、雲田さんは、「利は売りにあり」「利は他にあり」と加え、「利益の三原則」を語られていました。「本八幡店」「西葛西店」「高州店」「稲毛店」など何度も何度も数えきれないぐらい見に行ったものです。時々雲田さん自身がポケットから折り畳み式のフルーツナイフを取り出して、試食を頂いたことがあります。カッコよかったなぁ~。

 日経MJ新聞が、日経流通新聞だったころ、昔の経営者は、隅から隅まで、なめるようにして記事の中からヒントを探ったものです。ある青果店の経営者は、たった2行のベタ記事から人生の転機になる出会いがありました。ちょっとでも気になる記事があると、飛行機に飛び乗り、時には飲まず食わずで車を運転し、繁盛店巡りをしたものです。私もその片割れです。熱がカァッと上がって、居ても立っても居られなくなるのです。

実際に見に行って、お話を聞き、教えてもらったことがその時にはわからなくても、ある日突然他の事象と結びついて画期的なアイデアになることが多いのです。10年後、20年後、やっとその意味が分かることもあります。ネットを検索すれば、一瞬にして役に立ちそうな情報は見つかりますが、忘れるのも一瞬です。

 「周辺部」の情報でヒントを得たら、徹底的にそれを真似ることです。これを「構造の勝利」と言います。「構造の勝利」とは、モデルを見つけて、本質から細部まで模倣することです。大リーガーのイチロー選手になりたければ、フォームを真似するだけでなく、毎日バッティングセンターに通って1,000回、球を打てばいいのです。毎朝、カレーを食べる、妻の名前を“由美子”にすることも忘れてはなりません。

 ロサンジェルス・エンジェルスの大谷翔平選手になりたいならどうしたらいいか。身長の高さ、筋力と運動神経は真似することはできませんが、思考回路なら真似できます。「マンダラ思考」です。

 吉田松陰は、欧米列強に対抗できる日本国家をいかにつくるかを探求し、その目的のために命を賭して密航を企てました。自分の目で、黒船をつくる国を見たかったのでしょう。

 千利休の茶室「待庵」がある京都・大山崎には、油の製造・販売の拠点「油座」がありました。戦国時代は、戦国大名や寺社は、荏胡麻油を燃料に、器や灯籠の中で火をおこして周りを照らしていました。「油座」から、西日本に散った油売りは、諸国の情報を集め、千利休をはじめとする有力者に伝えていたのです。油売りも「正体」がバレたら命はなかったと思います。情報を集めるのはお金のためでなく、国を守るためだったのです。

 昔から国を守るため、会社を守るため、情報は最重要なのです。時間とお金を惜しんではいけないのです。情報を軽視する国、会社は滅びます。そして、無料の情報ほど怖いものはありません。

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