ギルディングと金色塗料

ギルディングと金色塗料
ギルディングGildingとは金箔装飾を指しますが、銀や他の金属の上にオレンジ黄色塗料を塗って、疑似的な金装飾も含みます。錬金術時代の成果とも言うべきで、ドイツは技術としては進んでいました。これはボナーニの著書で、イタリアに神聖ローマの軍が攻め入ったときに、多くの試料本が流出したことの記述がありました。ローマからビザンチンとイタリアに残されたいろいろな技術は、ドイツ、オランダ、フランスで研究されて今日の化学の基礎となりました。
Sebastian Trautner "Neue und wohl-approbirte Haus- und Kunst-Ubung"
「新しい認可された家庭の芸術と実践」1715
この本にある金色の塗料は、後にヴァイオリンの下地としての隠し処方となりました。

金色の塗料
sadaraca 1pf.
aloepatica und colophonii jebes 1pf ,saffran 1 loth.
亜麻仁油を6ポンド。サンダラック1ポンド
アロエと松脂各1ポンド、サフラン1ロット
Pfはドイツポンド。lothはLotで1/32ポンドだそうです。
(1 Pfund = 16 Unzen = 32 Lot = 128 Quentchen = 512 Pfenniggewichte = 1024 Hellergewichte)

特にドイツの本はフラクトゥール(ドイツゴシック文字の原型)で読みにくく、綴りも今と違っています。なんとか処方部分は解読できました。マダーレーキの最高の製造方法も、黄金の下地もドイツ文献にあるようです。しかし読みにくさは格別てす。2017-06-16 20:11

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金色のニス"Valuable secrets concerning arts and trades"から
Valuable secrets concerning arts and trades, 1795 著者不明 

発行Thomas Hubbard
芸術と商業に関する貴重な秘密:または最高の芸術家が認めた手法:黄銅、銅、または鉄の様々な彫刻方法。金属とニスの組成。マスティックやセメント、シーリングワックスなど色彩と絵画、馬車の塗装用。紙に絵を描く。肖像画からの組成物。透明な色。スキンや手袋を染める方法。銅版印刷物を着色または塗装する。ガラスに絵を描く。オイル、水、クレヨンのすべての種類の色。ギルディングの技術。朽ちた木、骨などの芸術。モールディングの技術。ワインを作る芸術。様々組成の酢。酒類および精油。製菓芸術。あらゆる種類の錆や汚れを取る。

金色のニス。
1.カラーベ(琥珀)(註1)またはアンバー8オンス、ガムラック(シェラック)2オンスを用意します。非常に強い火の上で、ヴァーニッシュ用土鍋またはアレンビックのレトルトで、カラーベを溶かします。これが溶けたら、ガムラックに投入してこれを同じ方法で溶かします。その後、火を消して冷やします。すべてが滑らかな流動性を持っているかどうか、観察します。8オンスのテレピン油を入れてそれを混ぜておいてください。(註2)ヘパティカアロエ(黒いアロエ)で着色された亜麻仁油をおよそスプーン一杯で薄めてシロップ状の濃さまで薄めるために所要量のテレピン油を混ぜて、アナトー(rocou)(註3)で着色します。
2 .上記の目的のために、ヘパティカアロエで亜麻仁油を調製する方法。
ヘパティカアロエで亜麻仁油を調製し、これに粉末4オンスを1ポンドの油で混ぜます。非常に厚いシロップの粘度になるまで、火の上で加熱します。オイルはスカムが発生して膨らむのを確認します。それから、布を通して冷やして、それを瓶詰めし、上記の使用のために保存します。
3.上記のワニスの組成で使用される、アナトー抽出液を作る方法。
アナトー抽出液を作るために、4オンスをテレピンの油に入れてください。(註4)アレンビックのレトルト(註5)で、これを穏やかな火の上に置きます。油が沸騰し始めたら火から取り除きます。滑らかになるまでよくかき混ぜ、それを濾紙で濾過して、前の指示どおりに使用します。

(註1)アンバーの黄色いものをKarabeカラーベと言ったらしいのですが、確証はありません。
(註2)テレピン油と亜麻仁油の順序が逆である気がします。火災の危険があるので、テレピン油は必ず、系を冷ましてから最後に添加します。
(註3)ロコウ、ベニノキ、アナトーと同じとあります。これも確証がありません。アナトーは熱には強いのですが、光退色します。
(註4)記述にはテレピン油の量が不明です。
(註5)アレンビックは蒸留器、レトルトは簡易蒸留器でかなり古くから存在しました。

この著書は1000もの処方を列記した本で、著者は不明です。英国と米国で出版されました。1795年の初版ですが、プリントの字体から1800年中ぐらいの製本だと思われます。2017-06-19 11:22

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自社オイルニス製品と下地処理
ヴァイオリン用のオイルニスとして、生松脂のコロホニウムオイルニスを復元してきました。ヴァイオリン用ニスとしては良い出来だと思いますが、全体としてのシステム、つまり下地からトップまでの塗装をどうするかということで試作をしてきました。
これまで金色の下地として記述された、塗料についていろいろな知書の訳文を紹介してきました。ヴァイオリン用オイルニスの下地システムの調査と、実際に塗装した結果はある程度貯られてきました。
金の下地塗料"Imprimitura doratura"「金色のプライマー」を探していますが、蛍光の明るさの点で満足なものがありません。最下層に塗布するとなれば、その上にオイルニスを塗装すると蛍光は明るくはなるのですが、現在調査と試験中です。
サンダラック/ウォルナットのオイルニスは「ビザンチンシステム」としてMagister社のシステムです。このシステムは5層とされています。
1. Priming プライマー
2. Sealing シーリング 
3. Ground グラウンド
4. Painting ペイント
5. Varnish ヴァーニッシュ
しかし内容的には
1. Priming プライマー"Imprimatura dorata"
2. Sealing シーリング"Imprimatura dorata" 
3. Ground グラウンド"Vernice Liquida Commne"
4. Painting ペイント "Vernice Liquida"Dratura,Rosso,Cremonese,Doratura Marrone,
5. Varnish ヴァーニッシュ 上に同じ、またはどれか選択。つまりPaintingとVarnishingは同じことです。
と要するに"Imprimatura dorata"で着色してcommuneコミュネ(またはパミスを練り込んだコミュネ)で無色塗装の目止めをして、上にDratura(黄色)Rosso(赤)または Marrone(茶色)で着色するだけです。
赤の薄い色が黄色であるという「二色性」ではないシンプルで巧妙な色が出るのが特徴です。
これに対しコロホニウム派(Marciana Varnish)は
1. シーリング 膠水塗布
2.グラウンド コロホニウム/亜麻仁油のオイルニス。目止めはパミス使用もある。
3.着色 グリークピッチ/亜麻仁油のオイルニスにコチニールレーキ(紫)を練り込んだもの。
という単純で明解な方法です。コロホニウム系オイルニスの「二色性」を利用した、黄色の上に紫で赤を作る方法です。いろいろ試験してみますと、オレンジ系のレーキはあまり効果がなく、ニスのベースに埋没してしまいます。同じ理由でマダーレーキもあまり効果的ではありません。ストラディバリの コロホニウム系オイルニスとコチニールレーキの組み合わせは最適だということでしょうか。
最初のシーリングで一番大切なことは、木材にオイルニスが染みこまない方法をとることです。
繰り返しになりますが、下地はまず最初に目止めするオイルニスが、毛管現象で下の木材に染みこむ物理現象と、木材のセルロースの繊維が樹脂やオイルで表面が覆われている場合、油性の塗料は深く染みこむという化学現象をいかに少なく抑えるかがポイントになります。表層から0.3mmの深さで止まっているという16世紀の楽器ですが、0.3mmという数字は結構大きいと思います。できれば0.1mm以下(100μm)です。ニスの膜の厚さは数μmから20μm程度です。繊維質表面を親水化してオイルニスが染みこまないようにする方法は、木材をアルカリ洗浄するか、燻煙して表面有機物を分解するか、膠などの親水性有機物を塗布する方法しかありません。アルカリ洗浄はナトリウムやカリウムイオンがセルロース中に残る弊害があります。またセルロースの水酸基がアルカリイオンと結合して、物理的性質が変わってしまう懸念があります。実際に木材をアルカリ処理して溶かして、酸で中和したものが紙です。
という理由で、今のところ膠水処理以上の方法はありません。木材へのダメージを考えると、実際に体積がかなり少なくなる膠という素材がベストです。燻煙も一つの方法ではありますが、長い年月寝かした木材では油脂分と樹脂分が微生物分解して、これも一つの同じ効果を持つ方法です。
今のところ「金色の下地」に関しては、まだこの先に研究していきますので、結論は出しません。従って、製品化もしない方針です。情報は提供致しますので、皆様独自の方法を試行してください。2017-06-22 14:32


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