オイルニスまたは絵画メディウムとしての組成物の文献
オイルニスまたは絵画メディウムとしての組成物の文献
Theophilus Presbyter(1070-1125)"De diversis artibus""On Divers Arts"テオフィラスのラテン語をタンプロニがイタリア語に訳し、またメリフィールドが英語に訳しています。
多くの美術絵画のメディウムの資料としての出発点は、テオフィルスを引用しています。技術的には錬金術時代のJabir Ibn Hayyanジャービル・イブン・ハイヤーン(721-815年)バグダードの化学者や、エジプトのZosimos of Panopolis(300年頃)、マリア浴で知られる蒸留器の発明者メアリー・ジュエス(Mary the Jewess)(200年頃)などの錬金術師が伝え、8世紀頃ビザンチン文化として装飾、絵画の手法としてすでに大方の天然樹脂に対する試験は行われていました。テオフィルスの指す"fornis"がサンダラックなのか琥珀(Karabe)なのか、文の内容から推測するしかありませんが、琥珀ではない気がします。一方ビザンチンでは、すでに金箔の代用品として銀にサンダラックのオイルニスを塗装して自然黄変させた技術があったようです。ビザンチンシステムと題したKoen PaddingのMagister Varnishの解説にも出てきます。
Cennino Cennini(1360 - 1427)"Trattato Della Pittura""Treatise on painting" 1437
日本では「藝術の書」中村彝(1887-1924年)として訳されて出版されています。チェニーニは画家で実際にメディウムを造り、試験した人物としては貴重です。と言うのは聖職者が弟子たちまたは下働きに作らせて、それの知識だけをまとめた本がとても多く、実際の樹脂ランニングの装置と方法は全く伝わっていません。むしろConrad Gesner(1516- 1565)の博物誌に伝えられた、過去の錬金術の方法が理解しやすいと思います。
Leonardo Fioravanti(1517 - 1583?)"Capricci medicinali" 1561
フィオラヴァンチは時々名前の挙がるイタリアの医師で、"Del compendio de i secreti rationali"「合理的な秘密の概要」という本に処方が出てきますがあまり重要ではありません。
Théodore Turquet de Mayerne(1573-1655) "Lost secrets of Flemish painting: Including the first complete English translation of the De Mayerne Manuscript, B.M. Sloane 2052"
デ・メイヤーン文書(ド・マイエルン)特に重要な書籍で作者は医師でありスイスで生まれ、フランス、イングランドと渡った。具体的な作り方は載っていない。しかし、当時の楽器塗料と明言した処方があり、それによるとグリークピッチと亜麻仁油であることが分かる。
William Salmon (1644–1713)"Polygraphice, the Art of Drawing, Engraving, Etching, Limning, Painting, Washing, Varnishing, Colouring, and Dyeing" 1672
ウイリアム・サーモン 絵画の処方に関して初めて琥珀を使用したメディウムを紹介している。
Filippo Bonanni(1638-1723)"Trattato sopra la vernice detta communemente Cinese" 1720ボナーニ『チャイナと呼ぶ塗料についての論文』が有名で、幾度と登場しましたので、説明は省略しますが、グリークピッチの作り方の図解があります。
Pierre-François Tingry(1743-1821)"Traité théorique et pratique sur l'art de faire et d'appliquer les vernis"1803
ティングリーは私が思うに、最も過小評価された著者です。ティングリーは聖職者ではない技術者で、塗料造りのプロでした。アルコールニスもオイルニスも両方作っています。
Angelo Maria Alberto Guidotti "Nuovo Trattato Di Vernici Della China" 1764
アンジェロ・マリア・アルベルト・ギドッチ。ヴェルニス(ヴァーニッシュ)チャイナと呼ばれる(陶器面の光沢という意味)
Giuseppe Tambroni(1773-1824)"Di Cennino Cennini. Trattato della pittura, Tip. Salviucci" Roma 1821
Cennino Cennini.の研究家。
João Stooter "Arte de brilhantes vernizes,e das Tinturas, fazellas , ingredientes que ditos fe devem Compor: huma larga explicaçau , da origem , e naturezas ; propria para os mestres"1786
数多くの処方を記載している。
Mary P.Merrifield(1804 -1889)Marciana Msnuscript Preliminary Observation.マルチアナ文書に対する最初の所見。この時代は既にオイルニスの処方がストラディバリウス時代のニスだということが忘れられていた。多くはアルコールニスに置き換えられていた。その中で16世紀のマルチアナ文書を紹介した功績は大きい。
Achille Livache "Manufacture of Varnishes Oil Crushing Refining and Boiling and Kinderd Industries"1899
この作者は全く検索が不可能である。つまり法人なのか架空なのか実在しない名前である。しかし、とても重要なことは「オイルニスの作り方」工業的で大規模な生産が行われていた事実の書籍で、これを読まない人々がオイルニスを作るから小火災になってしまうわけです。
このように、時代的に神聖ローマ帝国のローマの劫掠(1527)で貴重な文献が盗まれ現在のドイツに錬金術時代の書籍が多いように、何度と戦争による文化の伝承が途絶えてしまった時期があります。ストラディバリウス時代のヴァイオリンニスの秘密は「秘密」ではなく、捨てられた技術なのです。人々は細々とその技術を継承していただけです。しかし、方法論を書籍にしなかったために「謎」となってしまったのです。
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