染料の蛍光

アルコールニスは蛍光が暗く、オイルニスは蛍光が明るいとは本当なのでしょうか。
染料別に蛍光の試験をしてみました。
紙に染料を含浸させてねUVブラックライト照射をする試験です。
白い紙はほとんどの場合白い蛍光漂白染料を含んでますので、蛍光の無い薄黄色の画用紙を使用しました。
染料のリストは
一列目:亜硝酸ナトリウム(後述)、クルクマ、ガンボジ、カマラ、ドル、カテキュー

二列目:サンダロ、ドラゴンズブラッド、ラック色素、茜、ペルナンブーコ、アナトー
三列目:アッカロイド、カトラーメ、アルカンナ、ミルラ、アロエ、モルダント
以上です。モルダントとはタンニン酸塩の水溶性茶色の染料です。
最初の蛍光の強いものは、クルクマ、ラック色素、ドル、ミルラです。やや強いのが亜硝酸ナトリウムとアルカンナです。
最初の結果としては、クルクマの蛍光が強いのですが、クルクマは光退色をします。
インドではクルクマ/明礬/石灰を丸めて木の葉に包み、10日ほど地中に埋めて光退色しない染料を作るそうです。近いうちにやってみます。クルクマと明礬だけでは失敗しています。ドルはインドの黄色の実ですが、あまり一般的に知られていませんが、現地では染め物に使用するらしいです。派手な黄色ではありません。
ラック色素が良いということは、予想にはありました。近縁のコチニールとケルメスはどうなのかというところです。
亜硝酸ナトリウムは、木材を処理してUV照射をすると赤く染まることで利用されているのですが、蛍光は暗く期待はずれでした。

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「コロホニウムオイルニスの実験的特性および予備的な研究」ではロングニスの耐久性の良さを説いていますが、Filippo Bonanniと同時期のAngelo Maria Alberto Guidottiの"Nuovo Trattato di qualsivoglia sorte di Vernici Comunemente dette Della China"1704年「一般的にチャイナ(陶器)と呼ばれる塗料全ての新論文」では明らかにショートニスを使用しています。これについては、後日記載します。以前私が箸のメーカーに依頼されて、製作したマスティックオイルニスの場合はやはりロングニス処方から1:1の処方の耐久性が良かったという結果でした。2017-04-28 17:05

ボナーニの塗料に関する論文
Trattato sopra la vernice detta comunemente cinese
一般的にチャイナと呼ばれる塗料を超える論文
Filippo Bonanni(1638-1723)の1720年に発行された著書です。

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"Vernice d'Ambra"の一文を訳します。---------------------------
これはオーガスタに住む化学者から伝え聞いたことを記録しました。最初にそれの新しい搾りたての亜麻仁油とテレピン油を用意し、乾燥し良好な塗料を作るためには、素材自体が融けない銅または陶器の鍋で琥珀を融解する必要があります。
また、琥珀は少量で粉状で軽く、連続的に溶かさなければならないことに注意する必要があります。
他の化学者によれば、それはアレンビックの底のワックス状の琥珀はオイルに簡単に溶けると言うことですが、私は経験から何も知りませんでした。
クリストファー・ラブモーリーの本の処方539では、別の方法があります。肉眼で琥珀を確認し亜麻仁油に投入し、琥珀を濡れた石の上で黒くなるように、多くを加熱します。それは粉を少しづつ熱した亜麻仁油中に投入し、それはすべてが順調に液化加熱され、それを冷却します。
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"lambicco"ランビコ、英語で"alembic"酒の蒸留に使用する、"Still"釜と同じです。
レトルト蒸留フラスコを大きくした形が基本です。文字コードの2697はALEMBICの絵文字です。

ボナーニの著書は後にいろいろな作家が引用しますが、この人はイエズス会の聖職者で博識な学者でした。
塗料に関しては、次の時代まで主流となる、サンダラック、グリークピッチ、マステイック、ベンゾエ、アロエなどの処方が多く載せられています。頻繁に処方に出てくる"Oglio D'Aabezzo"はヴェネチア・テレピンの原型と思われます。Oglio=Oylio=Olio=Oil,Oylです。この辺は古語ですので、訳に苦労します。しかしながら、この本は有名なのですが、実際のところあまり読まれていません。もうこの時代には釜でオープンに樹脂と亜麻仁油を炊いてということはしていません。19世紀にも使われた、オイルニスの生産装置が既に原型を作っていたようです。このことは誰も触れる人はいません。この本の現存数は少なく、アーカイブpdfで見ることはできますが、活字の字体からだいぶ後で編集印刷されたと考えられます。この後のAngelo Maria Alberto Guidottiの"Nouvo Trattado di Qualfivoglia forte di Vernici Comunemente dette Della China"一般的にチャイナと呼ばれるあらゆる種類の塗料の新論文,Genaro Cantelliの"Tratado de Barnizes,y Charoles,en que se da mode"にボナーニの解説があります。2017-04-29 22:15

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染料の蛍光2
蛍光とUVブラックライト照射の試験は3日目ですが、変化がありました。
一列目:亜硝酸ナトリウム、クルクマ、ガンボジ、カマラ、ドル、カテキュー
二列目:サンダロ、ドラゴンズブラッド、ラック色素、茜、ペルナンブーコ、アナトー
三列目:アッカロイド、カトラーメ、アルカンナ、ミルラ、アロエ、モルダント

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光退色の大きいのはアナトーです。マルクマも退色していますが、木材の場合より軽度です。しかしこのまま色は無くなりそうです。亜硝酸ナトリウムの着色はあまり顕著ではありません。亜硝酸ナトリウムは還元剤かアミンのニトロソ化としてはたらくので、官能基がOHしかないセルロースには不活性なのですが、木材の何かの成分と反応すると考えられます。UV照射で着色があったのは、アッカロイドとアロエです。
特に、アロエは黄緑からオレンジ色に変化しています。アルコールで抽出してもそれほど色の付かないアロエですが、使い方としては、オイルニスで色の変化を利用するということです。蛍光の強さはあまり変化がありません。写真:Aloe 左がUV前、右がUV後です。2017-04-30 10:43

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