"A Perfect Red"完全な赤 Amy Butler Greenfield

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この本は大航海時代の赤い染料コチニールの獲得を題材にした文です。
英語版ですが日本語翻訳版も出ています。
コチニールはサボテンにつくカイガラムシの分泌物から採れます。
コチニールカルミンと呼ばれます。carmineカーマインです。
ラック色素も同様なカイガラムシの分泌物でねアジア原産です。
古くは正倉院の保管品にもあるということを聞きました。
有機物で真っ赤となるとこの二つとドラゴンズブラッドの他にはそれほど材料はありません。
ドラゴンズブラッドはイエメンのソコトラ産のヴァイオリンニスに使用できるものと、ボルネオ産の中国漢方で使用するもの(ヴァイオリンニスには使用不可です。)星の刻印があるもので、光退色して無色になります。
コチニールとラックは光退色は強い方です。2015-12-31 14:04

A Perfect Red 「完璧な赤」 2(コチニールをめぐる歴史)
A Perfect Red 「完璧な赤」
Cochineal(コチニール)について
この本はアステカやインカで使用されたコチニールカイガラムシを、スペインがメキシコのウチワサボテンで養殖して巨額の利益を上げた16世紀の事情の話が主体です。
この本では同じ赤染色の色素として有力候補のラック色素はアジア産なので、インド経由で輸入されましたが、しかし、赤く染める染料としては色が定着しにくく鮮やかさも劣るのでコチニールには及ばなかったとしています。
コチニール、ケルメス、カルミン、ラック色素、これらはすべてカイガラムシの分泌物由来の赤色素を指す言葉です。カーマイン(Carmine:カルミン)とクリムゾン(Crimson)は元々同じ語源で、Kermesのことです。Kermes Vermilionとも言います。「赤」指す単語にはまた、スカーレットScarletとヴァーミリオンVermilionがあります。深紅色Crimson、緋色Scarletと朱色Vermilionと日本語では訳されます。
ヴァーミリオンはvermiculm(ラテン語の小さい虫)が語源です。
ケルメスKermesはアラビア語の虫から採れる赤Kirmizが語源です。
カイガラムシの種類によって赤の色に違いがあります。古くはポーランドケルメスやアルネニアレッドといったケルメス系の赤色素が使用されていました。それぞれポーランドカイガラムシやアルメニアカイガラムシが存在したのです。
これに対し大航海時代前のヨーロッパやビザンチンでは西洋茜を赤色に染める手段として使用していました。マダーと灰汁(アルカリ)錫媒染による定着です。しかしこれはあまり鮮やかではなく、作る度に色が異なる製造上の難しさもありました。最初に作られた米国の星条旗の赤は、茜とコチニールで染めたということです。

実際の染色ではコチニールはややクリムゾン色に、西洋茜はやや朱色に染まります。これに対してラック色素は薄いピンクになります。すおう、ブラジルウッド(ペルナンブーコ)の方が鮮やかに染まるでしょう。ラック色素はアルコール可溶性ですが、水に対してはそれほど溶けません。

ストラジバリの色はコロホニウム亜麻仁油のオイルニスに、少量のコチニール亜鉛・パープルを加えたものです。これは分析結果ですが、マダーを使用していないところが意外です。これはベースの色を生かして、必要最小限の顔料で赤を得るということで合理的な処方です。2016-01-04 16:02

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アルコールニスについて3
ヴァイオリン用のアルコールニスに関して、いろいろと不明確な事や疑問があると思います。
1.ヴァイオリン用アルコールニスの歴史
アルコールニスがヴァイオリンに使用される前にもアルコールニスは存在しましたが、サンダラックやアニメ(コーパル)マスティックが主成分でした。この時期のアルコールニスは乾燥が遅く膜の硬さが直ぐには出ませんが、経時的にかなり硬くなります。
そしてひび割れが出ます。
 18世紀の中頃からGomma Lacca即ちシェラックが使用されるようになり、作業のし易さは大幅に改善されました。
 当初アルコールニスはオイルニスの代替え品でした。Japanningには二つの手法が元々あったのですが、ヴァイオリンについてのみ云えばアルコールニスはオイルニスの「代替え品」です。しかし、シェラックニスは音質も良く色作りのし易さ、つまり表現のし易さから重宝され、すでに250年以上が過ぎました。
オイルニスは下地に染みこむことが弱点で、染みこまないで表層でニスが留まる手法を16-17世紀のヴァイオリンニス職人は持っていたのですが、これについては別の話となります。つまり、下手にオイルニスというよりはアルコールニスの方が音的に失敗がないということになります。
2.アルコールニスの作り方について
アルコールニスはシェラックが主成分ですが、シェラック単品では何故いけないのでしょうか。音に関してもシェラック単独はそれほど悪くはありません。良い方だと云えます。
シェラックは乾燥した状態では、ミクロに観察すると層状で鱗片状が重なっています。
この状態では層の間隙が埋まっていません。密度としてはバルク(完全な塊)より小さくなります。処方として何種類かの樹脂を組み合わせると、ポリマーブレンドのように比重が大きくなる組み合わせができます。リノキシンも少量でブレンド性に界面活性剤のような役割で結晶化や鱗片化を防ぎます。硝子状態となりバルク密度に近くなるのです。
 色付けでアルコールニスに適用するものは主に染料です。レーキ顔料や鉱物顔料はアルコールニスと反応(多分カルボン酸と多価金属の塩形成)して固まってしまうことがあります。クリアーニスにパミス粉末を入れて目止めにすることは私としては推奨していません。音についても無機物を通る音の経路と、有機物を通る経路の二つがあることは、位相として好ましくありません。2016-01-16 14:22

自社のオイルニス製品について3
ヴァイオリンヴァーニッシュ・コロホニウム
ストラジバリの作品の分析は2009年6月発行ストラッド誌によるステファン・ピーターグライナーの記事などで分析結果を知ることができます。
初期の作品は下地はロジン亜麻仁油系オイルニスで僅かに無機フィラーがあり、表面より0.6mmの深さに留まっているということです。浸透しないオイルニスの使い方で理想に近いと云えます。コロホニウム=松脂と亜麻仁油のオイルニスは分析上は「普通のもの」で何の変哲もないという結果ですが、ここが最大のポイントでした。
「変哲の無い」これは反射FT-IRの結果で、もっと詳しく物質の同定をしてみると或いは現在の松脂とは違う構造が見えたかもしれません。反射FT-IRとUV、蛍光分析の値はそれほど製品の謎にせまるほどの分析結果を与えてくれません。非破壊測定が原則なので、それ以上の情報が得られないのです。
この他にもいくつかのストラジバリの作品から検出される成分は、コチニール亜鉛レーキの紫の顔料やX線回折分析の結果に原子とおよその比率から類推される無機物です。
この無機物はある人はポッツォラーナセメントだと云い、ある人は鉱物を予想した配合で"Mineral Ground"としました。石英質を使用した可能性もあります。今のところ決定的なものはありません。

私の製品で評価の良いものはヴァイオリンヴァーニッシュ・コロホニウムですが、いろいろと色違いが出来るので、ブレンドして平均かするか、一定の「色」としてグレードをつけるか考え中です。
下地の問題はなるべく無色の下地で"Ground"を作りたいという方のためには、色の薄いオイルニスでリコポディウムまたは微細化したパミスでプライマーを作りたいと思います。
(一度無色の下地にすると、次の着色でやり直しが利くためです。)
最初から色の濃いオイルニスで、なるべく少ない塗装回数でという方には濃い色のオイルニスをということです。
 アリザリンロジンレーキ・パープルを少量使用したヴァイオリンヴァーニッシュ・コロホニウム・レッドの他にはDratura lakeも使用した少し明るい黄色系も作り、焦げ茶系の製品もライナップしたいと思います。ベースを販売してミューラーと硝子板、顔料を購入して各個人で色を作ってくださいというのは、多少メーカーとして親切ではないと思います。本来はそこが楽しいのですが。コバルトブルー、ビリジアン、ランプブラックの微量添加で「赤」の色はとても良く変化して「強い赤」や「渋い赤」に変化します。

サンダラックオイルニスとアンバーオイルニスに関しても製品の組み直しを考えています。もっと色と使いやすさの追求からの結論をつけるべきだと考えています。2016-02-01 14:34 

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