塗料と溶解度パラメーター

オイルニスの下地処理が重要な理由
ストラディバリウスのオイルニスは分析の結果、木材表面より中に0.2mmしか浸透していないということです。これはとても重要なことです。塗料の木材への浸透の結果、内部の網目構造の表面で固まり、弾性を持ってしまうこと、これを回避しなければなりません。
2015-04-17から引用
『その前に木材の表面状態について説明しなければなりません。
セルロースは本来は親水性ですので、油分ははじくはずです。従って油性の塗料を塗布すると浸透しません。表面で留まってくれるはずです。しかし、実際には浸透します。
これはどうしてでしょうか。木材の繊維の表面に油分と樹脂があるからです。
これらを除去する方法としては、

1.弱アルカリ性の水に浸けて溶かしてしまう。例えば「ほう砂:Borax」
2.長い年月放置する。微生物分解や揮発で除去される。
3.燻煙処理をする。水蒸気で乾留することと熱分解と直接熱で揮発する。

もし、木材を(上記の)処理をしない場合は、親水性処理をすることで解決します。これは「膠目止め」です。この点でアルコールニスと大きく異なります。
目止めとしてシェラックを一度塗布して、拭き取る方法もあります。この方法はあまりお勧めしません。シェラックはミクロ構造は鱗片状の層になっています。あまり強い層にはならないのです。』

アルコールニスが便利なのはアルコールが揮発しやすく「浸透」の問題が少ないので、とりあえず良い音が出るからです。(音の伝達と位相のズレ、天然樹脂と合成樹脂の違いについては、また別の機会に書きます。)

シェラックとエタノールは通常の組み合わせですが、実は溶解度パラメーター的にはサンダラックやベンゾエの他のアルコール溶解性天然樹脂より少し有機性にズレているのです。ここは重要です。
極性溶媒塗料の工業技術的な大前提として以下のことがあります。
1.最も溶けやすい溶媒を選ぶとき、言い換えれば「溶解度パラメーターが一致したとき」乾燥は最も遅く、膜密度は高くなる。しかし、完全に乾燥しなければ使用できない。
2.溶けにくい溶媒を使ったときは乾燥は速い。溶解度パラメーターとしては低い方が(有機性、親水性小)の場合乾燥は速い。
実際に導電性塗料の溶媒のSP値を変化させると、抵抗値変化は膜密度に比例するので、溶けやすい溶媒の方が抵抗値は下がります。しかし工程的に何時間と決められると、溶媒を変更して乾燥性を上げなければなりません。そこは、やっていけば答えは出てきます。

溶解度パラメーターは通常三次元のグラフで表されます。
Hansenの溶解度パラメータ (HSP)
HSPでは、分子に3つのHansenパラメータが与えられる。
δD: 分子間の分散力に由来するエネルギー
δP: 分子間の極性力に由来するエネルギー
δH: 分子間の水素結合力に由来するエネルギー
ここまでは教科書に出てます。3軸の図が出てますが、塗料で使う溶剤はδDの軸を抜いた、2軸で通常考えます。何故でしょう。
それはδDの大きく異なる溶媒があまりないからです。有機性の高い溶媒では差があります。過去にこの軸の違いで解決した例として、チタニウムアルコキシドまたはジルコニウムアルコキシドのゾルゲル膜で製品化した防汚塗料の溶媒。ジメチルシロキサン=シリコーンオイルの低分子量または、3か4量体の溶媒。とてもレベリング性がよく自動車塗装の保護膜塗料として商品化しました。
フッ素系溶媒の利用。これもレベリング性はよく使える手段です。
しかしヴァイオリンの古典塗料は16-17世紀当時の技術を再現する意味で、これらの方法は使えません。

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