弊社ヴァイオリン塗装システムについて。

以前よりヴァイオリンニスの塗装の手順と、そこに起こる問題点の解決についてご質問が多くありました。ここで、塗装システムの説明と解説をします。以下すべてオイルニスについての記述となります。
Koen Paddingの論文による現代の塗装システムは以下の図に示されます。

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この図は"Violin Varnish notes and articles from the workshop of Koen Padding"の4章"A look at Sacconi's Varnish reserch"に掲載された図式です。
1.Brandmair and Greiner,2.Sacconi's system, 3.Byzantine System(Magiste:Koen Padding)
この三つのシステムです。
O:Wood木材の仕上げた表面を指します。
A:Wood Preparation 木材の表面に何らかの処理をした。ここが問題の部分です。
B:Colourless Varnish 無色の下地ニスの層 Ground:フィラーによる目止めを含みます。
C:Coluored Varnish 着色したオイルニスの層
Magister社の製品がどれに相当するかは過去の訳を参照してください。
問題のAのSealerとPrimerです。実際に、具体的に何を指しているのかは、実は明確ではありません。Magister社の製品"Imprimatura dorata"と「にかわ水」処理が現実としてあります。その他コカの色素によるシーラーの記述がありますが、「着色」目的なのか「シーリング:封止」なのかははっきりしません。
現実として白木のヴァイオリンにまず塗装の前に行うのは研磨とにかわ目止めです。にかわ処理の意味については前に書きましたが、再度述べます。
『木材にオイルニスが染みこむと音質を損ないます。』これは乾性油が木材に浸透して網の目構造に付着・固化して弾性を生じ、音の波の位相を狂わす弾性体になる現象を避けるためです。
『オイルニスが木材に染みこまない方法は』これはいく通りかあります。木材の性質が親油性ではなく親水性に変えてしまう処理です。
1.アルカリで洗浄する。硼砂処理ですが、最もお勧めできない方法です。木材はアルカリに溶けるのです。板自体薄くなります。酷いときは陥没します。
2.燻煙処理。熱をかけて木材の表面にある樹脂、油脂を分解します。効果は期待できます。実際に行っていてその木材を販売しているメーカーもあります。
3.木材の表面にシールドできる親水性のコートを塗装する。これはにかわ処理です。またシーラーとしてアルコール性の染料を塗装したり、濃度の低いシェラック溶液も使用できます。Magister社"Imprimatura dorata"、弊社"Imprimitura Doratura"も同じ作用があります。これらの処理によって、最初に塗装したオイルニスは0.1から0.2mmの浸透で止まれば最高の音質が得られるはずです。ストラディバリウスのヴァイオリン分析の要旨はそうでした。さらなる問題は、現実として木材の導管を埋める「目止め」はどうするのかということです。パミスを混ぜたサンダラック/胡桃油のオイルニスまたは珪酸アルミニウム(白土)や石英、硝子粉末を練り込んだオイルニスを塗装する図のBの部分の話になります。実験からは「無機粉体」の練り込みは音質を損ないます。
大前提として『音波の経路が二つ以上あってはいけない』つまりビールの泡が入ったコップと水の入ったコップを叩いたときの音の差と同じことを意味します。
とは言っても、現実に木目が埋まらなくては、ヴァイオリンとして完成しません。表板の木端の部分が特に難点です。私は比較的音に影響のない方法として珪酸アルミニウムとリコポディウムの使用をお勧めします。粉体のミクロ構造が「多孔質」でなければ良いでしょう。
その上の層は無着色のオイルニスとなります。現在、ストラディバリウス時代に実際に使用したということを前提に「生松脂」からグリークピッチを作り、亜麻仁油とで作った、マルチアナ・ヴァーニッシュを製造しています。これはシンプルなニスですがね「二色性」があり、その上に塗布する着色ニスの色に影響します。飴色よく見ると黄色と緑の二色の光沢を持ちます。赤紫のレーキ顔料を練り込んだニスを塗装すると、緑と赤は打ち消し合い、黄色と紫も打ち消し合い、その結果として赤い色に落ち着きます。ここは是非理解して頂きたい部分です。赤い塗装は赤は塗らずに紫を塗るということです。
残るいくつかの問題として、
1.結局のところベースになるのはサンダラック/胡桃湯か松脂/亜麻仁油かということですが、私の結論は後者の松脂/亜麻仁油です。二色性はこれしか考えられません。
2.硬化の遅いニスへの対処。処方には光明丹(酸化鉛)を加えてありますが、紫外線硬化を速くするにはシッカチフ。クルトレ(白くない茶色)を少量加えてください。硬化は必ず速くなります。
3.硬化時のブリード現象。泡の発生。これは日光に直接あてたときによく起こります。熱で気体が発生すると思われます。紫外線ブラックライトで行うか、硝子ごしに硬化させてください。
4.テレピン油で希釈して塗装した場合、溶剤が揮発するまでブラックライトおよび日光に暴露しないでください。テレピン油(αピネン主成分)は蛍光を発します。青白いのですぐに分かります。ヴァイオリンヴァーニッシュ・コロホニウムはオレンジ色、ピュアアンバーははじめは白く後にオレンジ色、サンダラック/胡桃油(製品名ヴァイオリンヴァーニッシュ・グランド)は白と蛍光色は決まっていますので、これを参考にして、乾燥してから紫外線に晒してください。(溶剤に溶けた状態のオイルニスは硬化はしない性質がありますが、実際には部分的に硬化したりしますので注意してください。)

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塗装の方法をまとめますと。
①にかわ水塗布2回
②Imprimitura Doratura(アロエ、ダイオウ)ガンボジ・アロエ、紅茶タンニン酸やモルダントなどの着色シーラー処理。
③目止めグラウンド・シーラーのヴァイオリンヴァーニッシュ
④ヴァイオリンヴァーニッシュ・コロホニウムまたはロウ・パイン(ダークブラウン)
⑤ヴァイオリンヴァーニッシュ・コロホニウム・レッド(パープルのレーキ顔料)
以上ですが、新しくヴァイオリンヴァーニッシュ・コロホニウム。グラウンド・シーラーを販売ことになりました。これで一連の塗装システムとします。2019-10-29 16:34





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