Rubia Tinctoria製法のマダーレーキ

Rubia Tinctoria製法のマダーレーキ(2013.12.25)
マダーレーキは西洋茜から赤色色素を抽出し、明礬でレーキ化したものですが、レーキ化はアルミニウムまたは亜鉛金属の塩(salt::「エン」と呼びます)にします。
茜の色素はアリザリンと同一の色素部分と糖質がエーテルで結びついた分子構造をしています。アリザリンと同一とは、元々アリザリンは茜色素の人為合成ですから当然同じと云えます。糖質部分は色に無関係(本当は関係がある)ですので、ここはコピーしなかったわけです。マダーレーキは少し暗い朱色ですが、アリザリンレーキは赤紫成分を少し持った赤です。マダーでは色素の持つ紫と黄色がぶつかって暗くしているようです。アリザリンレーキは黄色要素がないので濃いピンクから紫に見えます。
茜の発酵
茜を何もせずそのまま苛性ソーダや苛性カリウムで抽出したり、そのままエタノールで抽出すると、色はあまり良くない黒ずんだ色になります。より鮮やかにするためには、酢酸水で発酵させてアク抜きした後でエタノール抽出します。
酢酸を入れるのは発酵のためではありません。元々茜と水だけで発酵しますが、水に色素が溶け出すのを防ぐ必要があるからです。
抽出して濃縮した茜色素エタノール溶液をTinctureまたはTinctoriaと呼びます。
「チンキ」という語の語源です。
ブラックライトの蛍光色も明るいオレンジ色です。ここは大きなメリットです。ただの染料では蛍光は不活性で暗く、ブラックライトの下では黒色か違う色、例えば青紫に見えるというのはあまり良くありません。
この 茜Tinctoria にアルミニウム明礬溶液を加えてレーキ顔料にすると、とてもヴァイオリンにふさわしい色になります。このレーキは不透明ですが、他のレーキよりは透明性はあります。現在完成間近のオイルニスは完全透明にしたものを使用しています。
しかし、この顔料は大量の茜から少量しか採れないので、価格が高くなり悩みの種です。
また発酵の手間とレーキ化の手間と時間もあります。
Rubia Tinctoria方法で作ったマダー色のオイルニスは売るのが惜しくなるほど良い色でした。これを量産化するのが仕事なのですが。作るなら最高のものをということです。

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ミネラル。グラウンド(2011.2.12)
無機物の顔料で下地処理する場合の「ミネラル・グラウンド」の材料が入りました。
1.イタリアン・ゴールドオーカー
2.イタリアン・ロー・シェンナー
3.ヴェネチアン・レッド
4.フレンチ・バーントシェンナー
の4種です。これらはイタリアやフランスのある地方で採れる「土」です。
古くから絵画の顔料に使われてきました。
ヴァイオリンへの使い方は、ヴァイオリンヴァーニッシュ・グランドにこれらの顔料を混ぜて塗布して、硬化後研磨します。ペースト化はそのうち販売できるようにします。
パミスよりは当然色付きですので、良い目止めとなります。

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古典的レーキ顔料の作り方 (2014.3.25)
Saggio analitico chimico sopra i colori minerale mezzi di procurarsi gli artefatti, gli smalti, e le vernici 1816 Marcucci, Lorenzo, 1768-1846
鉱物顔料を製造する方法と化学分析論 エナメルとニスについて。ロレンツォ マルクッシ
という本があります。
図ですでに濾紙の折り方が現在と同じです。
イタリア語のため翻訳に時間がかかっています。
マダーレーキは絵の具用に販売されている日本国内品はありません。
オランダのメーカーのものを輸入しているわけですが、ヴァイオリンニス用としてはあまり良くありません。
透明ではないし色も薄いのです。
チンクトリア手法で作れば必ず透明でヴァイオリン色のマダーレーキができます。
現在、製造できる量は一日10g程度で、量産にむけて改良しています。

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マイケルマン・ヴァイオリンヴァーニッシュ 序文(2014.4.22)
VIOLIN VARNISH
A Plausible Re-creation of die Varnish Used by Old Italian Violin
Makers Between the Years 1550 and 17,50, A.D.
By JOSEPH MICHELMAN
U.S.A.copyright 1946,
Introduction
この本の出版は、多少無謀であったかもしれません。A.D1550-1750年までイタリアのヴァイオリン製作者によって使われたニスを8年も研究に費やしたましたが、化学的研究では結果として確証を得ることができませんでした。これは確証を得るための分析に対してニスのサンプルが十分に入手できなかったことによります。少しのニスのサンプルが実験的な目的のために入手しできなかったように、この時期のイタリアの達人によって製造
されるヴァイオリンはとても貴重で、十分ではありません。従って合成を分析に先行して行なわなければなりません...。そして、後者からの援助なしで。(分析の助けを借りないで)
これから、この本の副題を説明します:
「A.D1550-1750年の間でイタリアの製作者によって使われたニスの妥当な再現」
しかし、この調査の結果はとても論理的です、そして、とても深く膨大な量の納得のいく証拠で支えられて、本のその出版は適切です。最初に、調査結果を確かめます。巨匠の名作によって製造される本物のヴァイオリンから材料にアクセスすることにとって、幸運にも調査できました。確証する化学試験が提案され、特に、ニス中のある要素の存在を決定するための現代の微量分析手法により、それらは比較的単純でなければなりません。
第二にヴァイオリン塗装のいわゆる「失われた芸術」の確立の再発見は、最終的に結果として起き、おそらくこの結果は、他の人に示唆的になります。それは、自由にアイデアや情報を交換するこのポリシーは、一般的に存在しなかったことは残念です。ほぼすべてのヴァイオリン製作者は、大切に高度な秘密とした、ニスのための彼自身のプライベートの方法を持っています。古いイタリアの巨匠の「秘密」はおよそ百年の間、発見が無く、謎の解明に光を投げ掛けるどんな発表でもなされなければなりません。

第3に、結果は化学見地から面白い場合があります;調査される文献は、ことごとく色のついたニスへの言及を含みません。ニスは完全に透明です。そして、多くは非常に永久的なものです。そして、それはペイントとニス化学者に興味深い場合があります。コロイド化学の領域での研究者が議論されるオルガノゾルに興味があるかもしれません。この調査の結果は、最終的に確認されれば、それは生産中世のニス製作者は、独自の樹脂を合成したということになります。「合成樹脂」は、その後、16世紀の産物となり、これまで事前に想定し、これまで前提とされていた近年のものだということにはなりません。

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最も初期のイタリアヴァイオリンニス  Joseph Michelman(2014.4.21)
最も初期のイタリアのヴァイオリンは茶色でした。それは最初にこのニスの処方を示すことが論理的です。およそ1550年代の最も初期のニスは後世のものより組成がシンプルだったというのが合理的な見方です。最も簡単な方法は、金属塩とアルカリ抽出液を沈殿させることで十分できます。
古いイタリアのヴァイオリン製作者は第IV章の3項に従って、すべての楽器で少なくとも2つのニス、複数のニスを使用していました。その後必要に応じて外側の色ニスと内側またはサブヴァーニッシュを区別するようになりました。それらは常に相互に関連しているので、両方のニスを同時に処方されなければならないのです。
サブヴァーニッシュ
沈殿したアルミニウムロジン酸カリウム(樹脂酸塩溶液およびミョウバンから作られる)から構成されるこのニス溶液を製作した後、生のアマニ油を添加し、テレビン油に溶解します。
この3つの構成物の製作には、サブヴァーニッシュを製造するために現代の実験技術と装備で必要とされる例えば吸引装置、濾紙のような器具の使用は必要ありません。
1.カリウムレジネート溶液の調整
1.0%水酸化カリウム溶液3000cc。
ガムロジン、WWグレード170g
ロジンは小さい透明片の形態であるべきで、空気や酸化にさらされている粉末状のロジンは使用できない。得られた溶液を容易に未溶解残渣からデカントすることができるようにロジンをわずかに過剰に使用します。水酸化カリウム水溶液は非常に希薄で(良質な工業グレードで約1.0%を使用)であります。
それを濃縮された場合、ロジンがわずかに過剰で未溶解のまま残るようにロジンを添加します。
すぐにケーキングし、これを密栓瓶の中に4-6日間放置した後、ほぼすべてのロジンが溶解し、琥珀色になります。
温水を使用した場合、苛性アルカリ溶液にロジンは急速に溶けます。瓶は、その後、カリウムの透明溶液として数日間放置することができます。樹脂酸塩は残留物をデカントすることができます。
2.アルミニウムレジネートの作成
カリウムレジネート溶液 200cc
5.0%明礬水溶液 110cc
ミョウバンは、Al2(S04)3K2S04・24H20結晶塩で鉄を含まない必要があります。沈殿を確実にするために5%溶液としてわずかに過剰に使用されなければなりません。(註1)
二つの溶液を密閉瓶の中に一緒に入れ、振とうします。
白色沈殿物は、アルミニウムレジネートです。完全に沈殿が生じたかどうかを決定する非常に簡単な方法-
瓶を約半時間放置します。ほぼすべての泡のが治まり沈殿物は上がります。そして透明な水相が見られます。沈殿が不完全な場合、溶液は濁って泡沫状のままになります。
同様の「予備試験」もできます。
混合物は、布で濾過します。明礬を濾液に追加してさらに沈澱を作ってはいけません。
カリウム樹脂酸塩溶液の明礬を濾液に追加は、明礬過剰な沈殿物を作ります。(註2)
白色沈殿物は、ガラスまたは磁器の漏斗または(筒に布を掛けて)濾過し、洗液を可能な限り完全に脱水し、水で3〜4回洗浄します。アルミニウム樹脂酸塩は、その後数日間乾燥し平らな板に移します。鉄とアルミニウムのロジン酸との接触は避けるべきであります。
3.サブワニスのの調整
アルミレジネート2.0g
テレビン油(蒸留した)5.0cc
生亜麻仁油3.0cc
完全に乾燥したアルミニウム樹脂酸塩は、鮮やかな琥珀色で、冷たいテレピン油に溶解します。亜麻仁油を最後に加えます。
そして、ニスをよくかき回し小広口ビンの首に布をかけてに濾過します。前述の手法は1つのヴァイオリンにニスを塗るのに十分で、中程度の粗さの刷毛で塗装できます。
註1)過剰な明礬は色を薄くし、また結晶を作り硬くなります。
註2)濾液にはまだ色が着いているので、明礬を入れると更に沈澱が出来ますが、正しい組成にならないので色の薄い生成物ができます。
しかし、1500年代当時でもコロホニウムと亜麻仁油のオイルニスは存在したわけですから、私はコロホニウム亜麻仁油のオイルニスがこの頃のベースだと思います。
ロジネートのニスが最もシンプルで古いというマイケルマンの主張は、この本を全部訳してから考えてみることにしました。

マイケルマン・ヴァイオリンヴァーニッシュの訳注(2014.4.23)
マイケルマン 「ヴァイオリンヴァーニッシュ」の発行は1946年です。
昔の楽器に何を塗ったかという疑問と、様々な憶測がありました。
しかしそれは単に憶測で根拠のない話でした。
例えばヘロン・アレンの著書の一節でストラジバリのニスは何かということで、チャールズ・リードの著書を引用しています。
1.ベースは琥珀で、当時のイタリアの人は琥珀を溶かす技術を知っていた。実際楽器からは琥珀の香りがするという説。
2.ストラジバリの頃の技術が未熟で、今の透明感は時代を経て偶然にそうなったという説。3.アルコールニスであるという勇気のある説。ストラジバリの楽器にアルコールをかけたら溶けるだろうという。
4.最も支持されているのはオイルニスだという説。同時代のニコラ・ガリアーノやガダニーニのアルコールニスの楽器と比較してもはっきり違う。
5.後世に塗り直したので分からなくなってしまったという説。
6.当時のクレモナやベネチアの職人は特別な樹脂を使用していて、現在では入手不可能となり分からなくなったという説。

ヘロン・アレンは1について考察しています。
琥珀は燃えやすくランニングすると純粋なものはオリーブグリーンになると言われています。しかしこれに成功した者はなく、曖昧な記述が誤解を招いているという主張です。
「琥珀色をしていた。」=「琥珀を使用していた。」という指摘です。
従ってアレン氏は琥珀説を否定しています。
また2-5の論は論理性も無く真実を見る目があまりにも暗すぎるという評価です。
私の意見としては2は論外です。過去にあった技術は相当しっかりしたものです。私や同業の先人達は、過去の技術の復元をしていった時に同じ驚きを感じたと思います。
3.もこれはいろいろな事実から全く否定されます。ストラジバリの買い物レシートや分析からも理解できます。
4.見た目で解るかということになりますが、実は解る方法も人もいたということです。
5.確かに現在では入手できない樹脂もありますし、名称が変化した事実もあります。
当時も原料の供給を考えなかったわけではありません。

アレン氏はこの後にオイルニスは着色が不可能なので、これも違うということを書いています。この論の1900年初頭ではオイルニスの技術が途絶えていたので、特に着色技術が伝わっていない時代でした。アルコールニス全盛期で、クレモナもたぶんアルコールニスが大部分を占めていたという時期です。

現在では楽器の非破壊分析として反射FT-IR(フーリエ変換赤外線分光)で有機物を、XMA(X線マイクロアナライザー:X線回折)で金属及び無機物の定性が可能です。
1600年代当時のヴァイオリンを分析した論文があります。
この分析からの情報は有機物はアビエチン酸とそのエステルつまり松脂、コロホニウムと脂肪酸エステルすなわち亜麻仁油であり、無機成分は鉄、アルミニウム、亜鉛が検出されたということです。他に染料成分とケイ素が確認されています。
マイケルマンは即ちロジン酸金属石鹸としたわけですが、私は単純に松脂と亜麻仁油のオイルニスベースに茜の金属レーキだと思います。
というよりはマイケルマンが何故エステル型オイルニスを支持しなかったのかが疑問です。オイルニスは今でこそ特殊で珍しいものですが、1500-1700年代には絵画技術では特に普通の技術でした。
マイケルマンの方法は鉄ロジネートやアルミニウムマダーロジネートと亜麻仁油とテレピン油をベースとしてそのまま塗布するという結構特殊なものです。
しかしこの著書が売れたために支持者が多く一般的な印象があります。これが標準だとするのにはかなり無理があります。
現在読むことが可能なヴァイオリンニスの本はマイケルマンとチャールズ・リード、ジョージ・フーチャー、ジョージ・フライだけです。ゲイリー・ベーゼの本は廃版ですので、むしろこの本が真実に近いのではと思います。この本の一部は公開されています。

マイケルマン・ヴァイオリンヴァーニッシュ序文の続き(2014.4.29)
最後に、これらの結果の公表の最重要性は、古いイタリアの制作家の楽器(チェロとバスを含めて)...のために確立された基準を満たすヴァイオリンを自由に、永遠にヴァイオリン奏者(そして、世界中の楽器の愛好者)が利用できるようにしなければなりません。これらの巨匠の楽器は、現在200-400才です。それらのヴァイオリンは完全に膠だけで接着した木から製造されて、永い時間による損壊に耐えられるかは予測できません。それからまた、より良い楽器は、より一般的にヴァイオリン奏者-学生ならびにアマチュアとプロ演奏家が利用できるようにならなければなりません。ふさわしい演奏家は、良質の楽器の長所をことごとく失い、興味と前進がほとんど無くなってしまった、病的で鈍感なヴァイオリンを使用することを強いられました。
現代のヴァイオリンの質の一層の改良が望まれます。また、その改良は巨匠によって確立されたスタンダードに近ずくべきであります。
特に理論的な面を考慮したとき、この本の内容は当然技術的になります。古いイタリアのニスの再発見に興味を持っている誰でも科学的演繹法と結論にも興味を持っているというわけではないと理解されます。というわけで、この章は、ニスがある材料の製作についてどうやって作ったかについてを述べます。ニスとその応用の方式は、最も単純な過程になります。数百年前生きいて、最新のテクノロジーの有利さを持ちえなかった巨匠はヴァイオリンに塗装するのに最も単純な技術だけを使用しました。
反対に、一見ニスの最終方法に関係がない研究についてのいくつかの章が含まれています。
しかし、これらの研究は必要で有益でした。巨匠の名作は、彼らのニスを合成する原料の限られた選択肢を持っていました。したがって、これらの原料によって示されるいろいろな可能性をつぶしていくには、最終的な条件に到達するために役に立ちました。
その熱心すぎるファンによって、一つにはより用心深い照会者によるニスだけに、そして、それの知識が明らかに、乏しいそれらによるニスへの部分でなく、古いイタリアヴァイオリンの音の優位さは、主にニスに起因していました。イタリアヴァイオリンの価値が100年以上前に最初に評価されから論争の的になっています。
。このテーマについての議論は避けられません。いくつかの章では、トーンの特性上、特に前処理のニスの効果を取り上げなければならなりません。
最後に、この調査の確固とした目的は、ニスを再生するか、最も深い研究の後に、それを終了することでした、人は視覚化するでしょう、巨匠によって最初に作られた時ヴァイオリンに現われます。
試みは、人為的な「アンティーク」にはしていません。それは、美しいニスは削られ、引っ掻かれ、ほとんど裸にされたりして、楽器が現代の状態では当時作者がどうヴァイオリンを塗装したかが非常に分かりません。
古いイタリアニスの再現は、少なくとも巨匠のニスに完全に一致した、そして美しいヴァイオリンに似ている可能なヴァイオリンを作るべきです。
それらは元々あったわけで、古いイタリアのヴァイオリンより合理的な概念は、一般的に楽しまれるべきであります。そこに、この本は有限の貢献として、その出版を正当化されるべきです。
そして、間違いなく、古いイタリアのヴァイオリンのニスは組成が全く異なっていたことを証明する必要がある場合、その仮定として不当なこの本で提案した作り方には、数多くの興味深い応用が可能であす。提案したニスとその現代的な修正は、特に木材のため、保護および装飾コーティングにおいて広範な用
途を見出す必要があります。同等の透明性、永続性や様々な色のこれまでなかったニス及びラッカーが使用できます。実際には、ニス及び樹脂、特に着色されたものが、最終的には仕上げのヴァイオリンのため以外の目的に多くの用途を見出し得るでしょう。
ここの点について、本が印刷される前に、透明なカラー樹脂の見本を載せることが心に浮かんだと言うことは、興味深いことであります。
極めて少ない人々が状態の良い古いイタリアの楽器を見たように、それはヴァイオリンの少なくとも4つのカラーの写真がありました。
しかし、平均的な印刷用インクは永続性の不確かさと、顔料と配合したときこれらのインクは、本質的にな透明性を与えることができなかったため考えは放棄されました。
その後の版では、カラー写真は印刷インキや、本書に記載されて着色されたニスを使用することが期待されます。

註)この時代は本に本物の顔料が塗った色見本が付いていたものがあります。

金色の下地 Imprimatura doratura(2014.5.5)
Imprimatura Doraturaまたは Imprimature Dorata という「黄金の下地」という言葉があります。
元々ギルディングの下地技法で、木の上に金色の着色をする方法としていろいろな手段がありました。
本来の金箔貼りのように実際に金を使うのではなく、金色に見せる技法が発達していたのですが、Vernice Liquidaもサンダラックと亜麻仁油のオイルニスを銀箔の上に塗装して、自然に金色に変色することを目的としていました。
1814年の次の本はイタリアのものです。いくつか処方があります。
Saggio analitico chimico sopra i colori minerale mezzi di procurarsi gli artefatti, gli smalti, e le vernici 1816
Marcucci, Lorenzo, 1768-1846
「鉱物顔料を製造する方法と化学分析論 エナメルとニスについて。」

金色着色に使用するオイルニス
olio di lino亜麻仁油1ポンド(339.07g )
terebentina di veneziaヴェネツィアテレピン4オンス(113.02g)
giallo di Napoliネープルイエロー5オンス(141.28g)
亜麻仁油、ヴェネツィアテレピンを加熱し、その後、ネープルイエローを全部添加します。
その他の着色塗料
olio di lino亜麻仁油4オンス(113.02g)
ocra giallaイエローオーカー2オンス(56,51g)
minio 鉛丹1オンス(28,25g)
Vernice copale sud*コパルニス2オンス(56,51g)
*south copal 南アフリカコーパル

註)1ポンド12オンスになっていて、英国ポンド単位と違っています。

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ヴァイオリンニスの作り方 改訂第3版ができました。(2014.7.31)
96ページ 送料込み 1,400円
アルコールニス
天然樹脂
染料
レーキ顔料
オイルニス

デ・メイヤーン・マニュスクリプト(2014.9.19)
De Mayerne manuscript (1620-46)
"Lost secrets of Flemish painting: Including the first complete English translation of the De Mayerne Manuscript, B.M. Sloane 2052"(Theodore Turquet De Mayerne )
「フランドル絵画の失われた秘密:デ・メイヤーン文書の最初の完全英訳を含む」には琥珀ニスの作り方が書いてあるそうなのですが、この本は6万円と高くて、まだ読んでません。
絵画技法の本ですので直接ヴァイオリンには使えません。
ニスメーカーのOld WoodやAlchemistは琥珀ニスをこの本から復元したと記載しています。
部分的には処方は解りますのでアロエのニスについて試作してみました。
松脂 1/2 lb
亜麻仁油 1 lb
アロエ 1/4 lb
という簡単な処方ですが、亜麻仁油がこれでは多すぎてヴァイオリンニスには適しません。
よって
松脂 400gを24時間加熱して200gにする。
これに亜麻仁油 200gを加えて加熱。4時間
温度を下げアロエ100gを添加して1時間
となります。
亜麻仁油の温度は260℃を超えると分解と酸化を初めます。このぐらいの温度です。
温度を設定することはあまり意味はないのです。大切なのはその状態です。
アロエは写真の上部のように黒く炭化してカリカリになります。つまり色づけには寄与しますが、樹脂的ビヒクルとしては何も寄与していません。
出来上がったオイルニスは赤く自然な色です。

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アロエが手に入りました。イタリア産で日本の税関で止められましたが、なんとか到着しました。
ワシントン条約で「種の保存条項」に抵触する植物は輸入できない規定があります。
そのため欧州産のアロエは輸入できないのです。よく調べると、「アロエベラ}(普通のアロエ)は対象外で輸入できます。それ以外の希少なアロエが対象ということですが、それがアロエベラかそうでないか、税関では判断する手段を持ちません。アロエなどどこでも栽培していますし、食用できる無害な植物です。
このアロエ粉末は茶色ではありません。緑茶色です。
時間が経つと日焼けして茶色になります。

アロエの処方は古い文章に出てきます。
コロホニウムとアロエを1:1でランニングして亜麻仁油を添加してオイルニスにすると赤茶色の良いニスができるそうです。胡桃油と反応させると写真のように赤くなります。
しかし、焦げやすいのでこれは問題です。入れた量のほとんどが焦げます。

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コロホニウムオイルニスアロエと蛍光(2014.9.26)
アロエとコロホニウムのオイルニスの蛍光を見ると、赤く塗布色と同系統の色に落ち着いています。
ストラジバリ分析の結果として顔料にはコチニールレーキとペルナンブーコかログウッドのレーキがごく少量ということです。何故マダーレーキを使用しなかったかということになりますが、使用しなくてもベースのオイルニスが十分に赤かったのではと思います。
顔料は最小限に使用すると考えると、ベースの色が一番のポイントになります。
この時代には赤いコロホニウムニスを作ることができたというのは、以前に書きました。
アロエは炭化して取り除かれるので、分析しても痕跡も出ません。
これは他の方法、砂糖や硝酸酸化と比べてみる価値があります。

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