虫かごのお金さん、暴落する
投資をしている。
8年ほど前、会社を辞めて専業作家になるとき、将来への不安が大きすぎてはじめた。
だって売れなくなったらお金なくなっちゃうし。
スランプや病気になって書けなくなったらお金なくなっちゃうし。
疾病手当も福利厚生も厚生年金も、なんのセーフティネットもないし。
大企業の正社員を捨てて、ギャンブラーになる。
これはね、不安しかないわけです。
そんなとき、「金持ち父さん貧乏父さん」という本を読んで、「お金に働いてもらう」という概念を知った。
なるほど、自分が働けないときは、お金さんに働いてもらえばいいのかと。
もう僕は、組織に守ってはもらえない。
でも支えがなければ、お金さんに支えてもらえばいいのである。
僕は投資の本を2冊ほど読むと、あまっていたお金さんを虫かごに入れ、「僕がやばいときは、どうか支えてね」と、餌を与えはじめた。
お金さんはせっせと働いてくれて……。
ここ数年、働きすぎている。
収入の多寡でいえば、僕の肩書きはすでに小説家じゃなくて投資家になってしまった。
べつに特別な投資はしていない。僕がやってるのはよくあるインデックス投資で、ほとんどはオルカンか、S&P500かNASDAQ100に連動する投資信託かETFに突っ込んでおり、個別はほとんど手をひいた。コロナショックで火中の栗を拾いにいったやんちゃなBDC銘柄が2つだけあるが、全体から見れば無視できるほど小さい。
単純に、僕がお金さんを飼いはじめてからの相場が堅調すぎたというか、コロナショックも金融緩和ですぐに癒えたし、2022年が通年で下回った以外、ちょっと上がりすぎなくらいに上がっていて…。
こんなん、共同幻想だろ。
僕は投資をやってはいるけれど、わりと、「お金っていうのは、自分の手を動かして稼ぐものだ(汗水流して、だと小説家の仕事もエンジニアの仕事も当てはまらないのでそこはね)」という意識がある。
そんな僕のとなりで、お金さんは、この1年間だけでそこそこの家が買えるくらいの金額を稼ぎ、今回の暴落でまあまあな家が買えるくらいの金額を失っている。
僕は部屋の隅の虫かごでガサゴソやってるお金さんを見やりながら、きみらはいったいなにをやっているんだい? と思うばかりだ。
やばくなったら支えてね、とは言ったけど、僕より稼いでくれとは言っていない。
おれの勤労意欲を奪うんじゃねえぇ…。
ちょっと上がりすぎだよなぁと思っていたので、下がってくれて、うん、まぁ……と思っている。
そんなわけで、朝起きたら900万吹っ飛んでた記念。
勤労するぞ、勤労。
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