エオルゼアで出会った女の子と結婚するまでの話①
――2019年4月5日 春――
高校2年、17歳の頃から付き合い続けてきた彼女が家を出て行った。
交際期間約9年。同棲を始めてから約3年。
その日、仕事終わりに映画『運び屋』を観に行った僕がアパートに帰宅すると、部屋の電気が付いていなかった。
彼女もどこか出掛けているのかと思い、玄関をあがるとキッチンがやけに片付いていた。
そこら中にパンパンに膨れ上がったゴミ袋いっぱいに詰めた洋服などが転がっていて、「なんだ、凄い大掃除してたんだな」とそんな風に軽く考えて別段気にも留めなかった。
荷物を下ろし、着替え、ふぅとソファに腰を下ろした。
そんな僕の目に飛び込んできたのは一枚の紙切れ。
「家を出ることにしました。
このままだとお互いにとって良くない気がします。この家は引き払う事にしたので、私物の片付けをお願い致します。」
この時の紙一枚は、たしかこんなような内容だったはず。
なにぶん記憶が曖昧である。
思考回路が止まるとはまさにこの時の僕の事を指すんだろう。この手紙を見た僕は、視界が崩れ落ちるような感覚を覚えた。
思考回路が回復したころ、僕は共通の友人たちに連絡をいれた。「なにか事情を知ってる人はいるか?」と。
ほどなくして、一人の友達から「電話で話せるか?」と返事が来た。どうやら訳知りのようだ。
仕方がないので電話に出た。
その時の会話の内容はほとんど覚えていない。彼女は今その友人夫婦の家に居るとかなんとか……言っていたような気がする。
何を言っているのかわからない。
本当にわからない。
そんな感覚だけははっきりと覚えている。
まるで違う言語で話をされているかのような意味不明さだったので、僕は通話を切った。
真っ暗な部屋。
時計の音と心臓の音がやけにうるさかった。
うるさいからとりあえず頭から毛布にくるまった。すると時計の音は小さくなった。
ただ余計に心臓の音が煩くなった。
だからその足でキッチンに向かい、いつも自分が料理でよく使っていた包丁を胸に突き立てた。
でも最後の一押し。その切っ先を胸に押し込む勇気が出なかった。何度挑んでも恐怖が打ち勝ってしまった。
心臓が煩く鳴っていた。
玄関からガタガタと煩い音が響いた。
と同時にさっきまで通話越しで聞こえていた友人の煩い声が聞こえる。
何を言っているかはわからないが、こんな夜中に良い迷惑だった。
煩いので無視していたら、ガチャリと鍵が開く音がした。
あぁ、合鍵を持っているのか。彼女から預かってきたのか。なるほど、さっきまでの話は本当だったのか。
包丁を持っている僕を見て、やめろと言った。
その時の僕にはとにかく邪魔でしかなかった。
その声も、その言葉も、その行動も、何もかも。
だから僕は無視をして寝る事にした。
何か言っていた気がするが、全て無視した。
布団にくるまり、目を閉じる。
気付けば次の日の朝だった。
朝の陽射しが、とても煩かった。
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