見出し画像

Die Meistersinger von Nürburgring

 こちらは、ドイツ南西部にある森の中にあるサーキットで年一度、24時間かけて行われる、スポーツカーによる耐久レースである。 このサーキットは距離も長く、山間部であるが故天候の急変もあり、過酷なレースとしても名高い。 しかしそれでも毎年多くの参加者を集め、総合優勝を狙う者たちも、長年観客を虜にする愛らしい車を運転する者たちも、「グリーン・ヘル」を走るのである…

---------------------

 15:30 にレースが始まると、予選でポールポジションを獲得した、ローヴェレーシングの1号車がホールショットを決めた。 曇り空で少し雨が降る中行われた長いレースの幕開けである。 しかし、開始から15分で、69号車のポルシェのマシンが炎上してしまう。 その後雨足は強くなり始める。 
山あいにあるサーキットでは途中で天候が変わるのは何も珍しくない。それが耐久レースであれば尚更。 ここが他と違うのは、一周がとてつもなく長いということ。 だから雨が強く降っていても、乾いている路面もあれば濡れている路面も存在するのだ。 事実、雨が強くなって行くにつれ、コース上でスピンしたり、クラッシュしたりするマシンが続出した。 まるで、森奥に住む怪物が牙を剥いたかのように。 けれども、長い長いレースははじまったばかりにすぎない。
 多くのチームがレインタイヤに変えて走り、開始から3時間が経過したころにはすっかり落ち着いていた。 それでも総合優勝を狙うチームは激しく争っていたし、実際実力者が乗っていたマシンも不運に見舞われリタイアしている。

 このままずっと同じようなレースが続くかといえば、そうはならないのも、このコースならではだろう。 昨年は大雨に見舞われたが、雹が降った年もあれば照りつける日差しが襲った年もある。 
そして今年は―濃霧に見舞われ、赤旗が振られた。
 この霧が、長くレースを止めざるを得ない要因となった。 夜22時を迎えるかというころに、翌朝6時までレースは一旦中断となった。
 ドライバー達にとってはしばしの休息となっただろうが、メカニックにとってはマシンをメンテナンスする大切な時間だ。 その作業には、もちろんマシンを丁寧に磨き上げることも含まれている。 
 昨年とは違い、朝まで中断とはっきりアナウンスがあったからか、パドックではインタビューも行われていたし、日付が変わる頃にチームメンバーの誕生日を祝ったところもあった。 

---------------------

   ノルドシュライフェは、朝を迎えた頃更に濃い霧に包まれていた。 この過酷なレースでは、怪我人が出てドクターヘリを飛ばすことが必要なときもあるだろう。 この霧の中ではとても不可能に思えた。 
 

画像1

  事実、この霧はなかなか消えず、ピットオープンの時間は小刻みに延長されていった。 ピットオープンしたのは観る側もレースをする側も痺れを切らしかけていたであろう9時30分頃のことである。それでも霧はやはり晴れなくて、レースがようやく再開されたのは11時近くのことだった。 当然車が並んでからレースが再開されるまでは時間があったわけだが、ドライバーはどうしていたか。 インタビューに応じるところもあり、リラックスして談笑するところもあり、キャッチボールをするところもあるという具合。 
 このレースの特徴としても挙げられるのが、参加チームの数が他の24時間レースに比べて圧倒的に多いこと。 総合優勝を狙うSP9はワークス系のドライバーも多いが、それ以外のカテゴリには様々なチーム、ドライバーがいる。 過酷なレースであることには間違いないけれど、ふと穏やかな時間が流れるのもこのレースならではかもしれない。

----------------------

    14時間半という長い中断を得て、ようやくレースが再開された。 残りのレース時間は3時間半。 これが意味するもの、それは残りレースがスプリントレースになるということだ。
 実際、赤旗が振られた時点でトップにいたチームで、再開直後からトップ争いが繰り広げられ、マシントラブルでピットインを強いられるところもあり、波乱があった。 その中でも、7号車、ゲットスピードのメルセデスAMG GT3と44号車、ファルケンスポーツのポルシェ911GT3 Rが、1時間以上に渡って3位争いを繰り広げていた。ゲットスピードが追い抜いて3位に浮上したのは、レースが終わる10分前にことだった。

 深い霧に覆われ、どうなるかと思われたレースは開始から24時間後に無事チェッカーフラッグが振られた。 走行周回数は59周で、これは歴代最小となった。
そんなスプリントの様相を見せたレースで優勝を飾ったのは、911号車、マンタイレーシングのポルシェ911 GT3 Rだった。 このチームが優勝したのは2018年以来のことだという。 特筆すべきは、ここは予選では11位であったこと。レース開始直後に猛烈に追い上げてトップに躍り出たことで、最終的に優勝にもつながった。 そのスタートとゴールの時点でハンドルを握っていたドライバーの名前ははケビン・エストレ。
 彼が着用していたヘルメットはマシンの色と同じく、黄色と緑を基調にしたもので、表彰式の間マシンの上に静かに佇んでいた。

画像2


---------------------------

     ポルシェは、「耐久王ポルシェ」とも言われた通りの見事な活躍を見せた。ライバルとも言われるアウディーが続々不運に見舞われたのとは対象に。

 今年のここでのレースは、中断時間が長くなったが、それでも濃密なレースが繰り広げられた。 願わくは、次回こそ夜間のレースも観ることができるようになることである。 


------------------------

(この記事のタイトルの元ネタ:ワーグナーの「ニュルンベルクのマイスタージンガー」 単なる文字遊び)

実はいいね、って登録してなくてもできるのよ