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日本語教師的生活~WBCと日本語教育

今日は3月31日。球春到来!日本のプロ野球もメジャーリーグも始まりました。そして先週の侍JapanのWBC優勝は感動しましたね。普段、あまり野球を見なくても、今回ばかりはテレビにかじりついたという人も多いのではないでしょうか。私は子どもの頃から野球を見るのが大好きでスコアブックもつけていたほどでしたが、正直、最近は応援チームの低迷もあったり、他のスポーツを見るのが忙しくてあまり見られていませんでした。でも今回は、朝も夜の再放送も見ました。移動中もスマホで。アマプラ入ってて良かったわ~。
って、興奮冷めやらずで前置きが長くなってしまいました。

WBCを見ていて、日本語教師としてとても印象に残ったセリフがありました。それは解説の古田さんの言葉。日本チームが決勝に進んだ時のことだったと思いますが、「アメリカに勝つことも意味があるけど、アメリカで勝つことにも意味があるんです」と言いました。私は、おー!っと思って、すぐにメモを取りました。
何におー!と思ったかというと、日本語教師なら分かりますね。
助詞「に」と「で」の使い方です。

どちらも複数の用法を持つ格助詞ですが、「アメリカに」の「に」は、相手を表し、「アメリカで」の「で」はその行為が行われる場所を表しています。
まあ、正確に言うと「アメリカ(場所)でアメリカ(対戦相手)に勝つことに意味がある」ってことなんですけど。
ひらがな一つの助詞ですが、このように文の意味を規定する役割を持っています。しかし自分の母語に助詞と同じような働きの語がない学習者にとっては、習得するのがなかなか難しいものなのですよ。しかも、それぞれの助詞にいくつかの用法がある。例えば「に」は場所を表す場合もあります。
ローンデポパークはマイアミにあります。(存在する場所)
大谷翔平はアメリカに住んでいます。(存在する場所)
日本人のファンもマイアミに行きました。(移動の着点)
選手が球場に入りました。(移動の着点)
他には
試合は7時に始まります。(時間)
選手にサインをもらいました。(もらう相手)
友だちにチケットをあげました。(あげる相手)
日本チームはチャンピオンになりました。(変化の結果)

「に」にはまだまだ用法があります。
例えば「球場で飲んだコーラのカップをゴミ箱に捨てました」(物が移動する場所)もあるし、「トラウトに打たれなくてよかった」(受身の動作主)も。

まあ、「に」は格助詞の中でも用法の多いチャンピオンです。次が「で」でしょうか。
「で」にも行為・動きの場所を表すだけでなくいろいろな用法があります。

野球はバットでボールを打つスポーツです。(道具)
牽制でアウトになった。(原因)
送りバントでランナーを進めた。(手段)

もし、スポーツが好きなら、こんな風に一つの話題でいろいろな文を作ってみても面白いですね。またはやさしく書かれたニュース記事などを使って、文中の助詞は、どの意味を表しているのか学習者と考えながら読み進めてもいいかもしれません。私はよくNHKのNEWS WEB EASYを使っていました。

学習者にとっても助詞の習得は難しいと言いましたが、しかし助詞をあまり重視していないのでは?と思う学習者もいます。その理由は、ネイティブスピーカーである私たちが会話の際に頻繁に助詞を抜くことにあるのかもしれません。言っても言わなくてもいいんじゃない?ぐらいに思っているのか。
しかし、私たちは抜いていい助詞と抜いてはいけない助詞を無意識に使い分けています。

例えば
「何(を)してたの?」
「野球(を)見てた」は「を」を抜くことができます。(というかこの場合は、助詞無しの方が自然)
しかし
「どこで見てたの?」
「移動中だったから電車で見てた」の「で」は抜くことができません。「電車見てた」だと、鉄道オタクになってしまうからです。
この抜いていいかどうかは、名詞が述語に対して必須補語かどうかにポイントがありそうです。またこれらは会話の際のことで、書き言葉になると助詞を抜くことができません。

そこまで理解できるまでは、助詞を抜かないでね、と学習者には言っているのですが。

以上、WBCの解説を聞いて思いついた助詞「に」と「で」について書いてみました。場所を表す名詞につく「に」と「で」は使い分けが結構微妙なものもあるので、拙著「日本語文法ブラッシュアップトレーニング」でも取り上げています。ご興味おありの方は、そちらも是非。

ところで、数十年前、会社を辞めて仕事を探していたとき、たまたま求人雑誌で当時まだ東京にあった日本ハムファイターズの球団職員の募集があって、履歴書を送ったことを思い出しました。スポーツに関する仕事がしたかったのと、日本プロ野球連盟にいた詩人清岡卓行に憧れていたからです。しかし履歴書で落ちました。(涙)
あの時、もし受かっていたら日本語教師にはなっていなかったんだなぁと思います。(^^)

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