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上級ってどんなレベルじゃ~

これからはnoteに書きます。

Twitterで、類似表現をいくつも覚えるより、使いこなせる一つを使って内容のあるアウトプットをしたほうがいいという趣旨のことを書いたのですが、それじゃ、まるで初級だ、そんなことでは上級は目指せないという反論がありまして。

Twitterは文字数も決められていて意図が伝わりにくいので、考えをnoteに書いてみようと思います。私の考えや実践が何かのヒントになることを願って。

「まるで初級!」という指摘はピンとこなくて、例えば「~たとたん、~やいなや、~が早いか、~なり」のように似たような使い方をする表現のすべてを同等に使いこなせる必要はないんじゃない?ということなのですが。
この中なら「~たとたん」ができればよい?
若い子はそれも使わないか。

もちろん古い文章の中には出てくる可能性もあるので理解することは必要だと思うし、日本語オタクみたいな人が、「あのガキども、ワシに恐れをなしたのか、ワシの顔を見るが早いか逃げて行きおった」とか使ってもいいんです。使い方を分かっているなら。周りの日本人には引かれると思うけど。

もう一つ気になったのは、上級をどんなレベルと捉えているんだろうということでした。

JLPT―N1の勉強をするのが上級?
「まみれ」と「だらけ」の使い分けができるとか、「~をおいて」とか「~ものを」等の機能語が使えるのが上級?

初級や中級のことはたまにSNSで議論になっても、あんまり上級については聞いたことがない。そもそも世界規模で考えると日本語学習者のほとんどは初級だし?


上級レベルとは?

で、上級とされるレベルについてどのように記述されているか見てみた。
まずCEFRのC1レベル。

・いろいろな種類の高度な内容のかなり長いテクストを理解することができ、含意を把握できる。
・言葉を探しているという印象を与えずに、流暢に、また自然に自己表現ができる。
・社会的、学問的、職業上の目的に応じた、柔軟な、しかも効果的な言葉遣いができる。
・複雑な話題について明確で、しっかりとした構成の、詳細なテクストを作ることができる。その際テクストを構成する字句や接続表現、結束表現の用法をマスターしていることがうかがえる。

これはかなりレベルが高い。日本人でもみんなできてる?って思う。(特にわたし)C2はもっと上で、「聞いたり読んだりしたほぼすべてのものを容易に理解できる」レベルなんですぅ。(無理、涙)

次にJLPTのN1
「幅広い場面で使われる日本語を理解することができる」
読む
・幅広い話題について書かれた新聞の論説、評論など、論理的にやや複雑な文章や抽象度の高い文章などを読んで、文章の構成や内容を理解することができる。
・さまざまな話題の内容に深みのある読み物を読んで、話の流れや詳細な表現意図を理解することができる。
聞く
・幅広い場面において自然なスピードの、まとまりのある会話やニュース、講義を聞いて、話の流れや内容、登場人物の関係や内容の論理構成などを詳細に理解したり、要旨を把握したりすることができる。
 
まあ、これはこんな感じかな。
 
さらに
OPIでは上級は「主な時制の枠組みの中で叙述したり、描写したりすることができ、予期していなかった複雑な状況に効果的に対応できる。」となっています。OPIにはこれより上の超級もありますね。
 
国際文化フォーラムの「外国語学習のめやす」にも言語運用能力指標があるので、その一番上のレベル4の記述をみると「・自分が想定していない状況においても、ある程度創造的なやり取りがきる。(対人)・より広い範囲の事柄について、少し複雑かつ抽象的である程度まとまった内容を、より正確で適切な語句や文を使って表現することができる。(提示)・ある程度まとまった内容を理解することができる。」となっています。
 
これらから分かることは?
キーワードは「複雑」「抽象的」「幅広い話題」「まとまった内容」「明確でしっかりとした構成」などでしょうか。

アウトプットについてはC1に「自然」な「自己表現」とか「効果的な言葉遣い」とあるので、もちろん表現は豊かな方がいいんだろうけれど。やっぱり重要なのは言語形式じゃなくて内容だと思うのよね。料理のたとえで言うと、少ない材料でも組み合わせていろいろ作れる人の方が料理上手って感じしません?そこにスパイスなどを効果的に使えれば更によいのはもちろんですが。


上級Ⅰの教科書


では、自分が上級レベルを担当した時のことを思い出してみます。
その頃(約25年前)上級向けの教科書は本当に少なくて、日本の高校の現代国語の教科書を使ったりしていました。ようするに読解。他に聴解や語彙は市販教材を使ってた。
上級って日本人が読む文章を普通に読んで理解できればいいという感じだったんだけど、なんか、ちょっと違うなぁと思ってました。
その後、学内で中級Ⅰ,中級Ⅱの教科書を仲間と共に作って、上級Ⅰの教科書も作れることになったので、私たちが上級レベルに必要だと考える内容を入れました。(教科書はいろいろ作りましたが、実はこの上級Ⅰが一番気に入っています)

まずこだわったところは、1冊の中に四技能全部入れること。
これは学生の経済的負担も考えて。
「読む」に関してはまず「速読」を入れました。それまで精読はやってきたのだけど、精読しかやっていないと、分からない言葉があると先に進めない学生が多く見られたので。スキミングとスキャニングの練習。
新聞を読んで見出しをつける練習とか。
エッセー、文学作品を読んで、味わう、評論を読んで主張を理解することも。

そして「書く」は、箇条書きの練習、メモの取り方、新聞記事を選び、内容をまとめてハンドアウトを作る練習。評論文を読んで要約する。自分の主張を入れた小論文を書く。ラジオドラマのシナリオを書く等
好きだったのは写真やイラストを見て描写する。とか、ぱっと見なんだか分からないものを言葉で表現する。とか。
今ならLINE等チャットの書き方もやりたいな。

「聞く」はニュースの聞き取り、ちょっとした表現の聞き取り(動物を見て「ぶらさがってる」「つかまってる」を選ぶとか)、ある程度長い物を聞く等

「話す」は独話と会話。独話はスピーチや発表など一人で話すこと。会話に関しては相手との関係にも配慮したコミュニケーションの仕方。

文法も入れましたが、授業のメインではなくこれまでの総復習のような形でした。重要なのはそれを使ってアクティブな活動ができることだと考えました。

日本語学校の上級って本当はその先を意識して授業をしなければならないと思うのです。
つまり進学する学生なら進学先を、就職する学生なら、会社に入ってからのことを。ですから上級の基礎のところまでは同じように勉強してもその後は進む進路に合わせてクラス分けをするのがいいと思っています。幸いなことに私がいた日本語学校の上級レベルは進学クラス、一般クラス(特に進学も就職も考えていない人、生活者等)、ビジネスクラス、観光ビジネスクラスに分かれていました。ある程度学生数がいて、そのようにクラス分けができる学校はそれが理想だと思います。それができない場合も、週のうち何時間かだけでも進路別の授業をやるなどすればどうでしょうかね。

私、実は上級クラスではあえて板書を乱雑に書いたり、普通に日本人と話すようなスピードで話したりしていました。だって日本語学校を卒業したら、絶対にそんな場面に遭遇するから。でも午前に初級1のクラスを担当し、午後、ビジネスクラスだった時、それを忘れて初級1の話し方で授業を始めてしまったら、学生に「先生、どうしたんですか?」って言われてしまいました。

上級での活動

上級レベルでは様々な活動もしました。
・グループで何かを調べて発表する。(これは授業時間内にグループで学外に出ることも認めました。私は携帯電話を持って教室で待機)
・(私は実際にはやっていませんが)グループでコマーシャルを作るという活動もやったようです。
・自分たちでシナリオを書いてラジオドラマを演じる。
・1冊の本を少しずつ読む。(本は学生からのリクエストで決めました。芥川龍之介だったり浅田次郎だったり、筒井康隆だったり)
・ブックリポート。自分が読んだ本の内容をまとめて発表する。それぞれが好きな本、興味がある本、専門の本を読んできました。「菊と刀」を読んだ学生もいた。
・ビアス「悪魔の辞典」の留学生版を作る。これは面白かった。

ビジネスクラスや観光ビジネスクラスでは、新商品企画発表会やツアー企画発表会もやっているので、上級というと本当にアクティブなイメージなんですよね。

私が上級クラスでやっていたことは、こんな感じ。
優秀な学生も多くてね~、ある学生のあまりに素晴らしい作文はこっそりコピーして取っておきました(笑い)
そういえば思い出したけど「日本語が上手ですね」って言われなくなったら上級だよ。と学生には言ってたわ。

長文、お読みくださりありがとうございます。

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