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日本語教師的生活~じどうし・たどうし

告通り、今回はスポーツを見ていて気になった自動詞・他動詞の表現について、思うことを気ままに書いてみたいと思います。

これぞ自動詞・他動詞の使い方だ!と思って、テレビ放送を見ている時に思わずメモしてしまった言葉があります。
それは、かなり前のサッカー日本代表の試合でした。
言葉を発したのは、辛口解説でおなじみのセルジオ越後さん。
確か香川選手がヘディングでゴールを決めた時のことです。それは、飛んできたボールがたまたま香川選手の頭に当たってゴールに入ったようにも見えたのですが、セルジオさんはこう言いました。
「あれは、当たったんじゃなくて、当てたんです!」
その時私は、やったー!日本1点取ったー!ということより、おおお、なんという素晴らしい自動詞・他動詞の使い方!!!でした。
主語も目的語もなく、自動詞と他動詞だけで、その状況を見事に表しているんです。
わおー!日本語すごいぞ。(すみません、自文化中心主義とか、そんなじゃありません。Cool Japanとかでもありません。他の言葉と比べてないから(汗))

ここで、もちろん、「当たった」が自動詞、「当てた」が他動詞でございます。(もし、日本語教師以外の方がいらっしゃいましたら)じゃあ、「当たった」と「当てた」は何が違うのか。これは意志性ですよね。「“当てた”んです」の「当てた」には明らかにボールを頭に当ててゴールに入れてやろうという香川選手の意志が感じられるわけです。
スポーツの話ではないのですが、私が好きなアイドルグループの歌に「始まるんじゃない、始めるんだぜ」というのがありまして、これを授業で扱い、この歌詞で何を表そうとしているのか学生に聞いてみたことがありました。学生はちゃんと「始める」の意志性を分かっていました。

一方、これも最近サッカーの試合を見ていた時ですが、センタリングしたボールがゴール前にいた選手の膝辺りに当たって、ゴールに吸い込まれたシーンがありました。その時、解説の方は、「あー、これは当てたというより、当たったんですね」と言っていました。こちらも自動詞と他動詞だけで場面を表す素晴らしい例だと思います。

他にテニスの試合で、相手が後ろに構えている時に、ネット近くにドロップショットを打つことがありますが、これは明らかに意図をもって「落とす」(他動詞)わけです。これはちゃんとした戦術。しかし、ボールが意図せずネットの上のコードに当たって「落ちて」(自動詞)しまった場合(コードボール)は、相手に謝ります。ポイントは打った側に入りますが。ここでも意志性が表れています。

日本語の動詞の分類はややこしくて、すべてが自動詞か他動詞に分類されることにはなっているんですが、文法項目として「自動詞・他動詞」という場合は「当たる・当てる」「落ちる・落とす」「始まる・始める」のように対応する(ペアがある)動詞のことを言います。
それで他動詞は、かならず有情物(人とか動物とか)を主語にとる意志動詞なんですよ~。でもって必須の補語が2個以上、簡単に言うと、「人がモノを~する」「人がモノにモノを~する」の形になるのです。(モノのところに有情物も入りますが、ここでは省略)

(意志動詞かどうか区別する必要がないという議論もあるようなのですが、その場合、上のような例はどう説明するのかなぁ)

だから他動詞が使われていれば、動詞だけでも、誰かが何かを(意志を持って)「どうした」ということが分かります。
「当てた」「落とした」「入れた」「始めた」「止めた」など
意志動詞の場合、「止めろ」「出せ」等の命令形、「始めよう」「入れよう」等の意向形が作れます。
関係ないけど、スポーツを見てるとどうして、口が悪くなっちゃうのかな~。アメフト見てるとき、相手の攻撃だと、「止めろ、止めろ!」とか叫んでるし、ラグビーとかで「ボールを早く“出せ”」とかも言ってる。不思議ですわね。おほほ。

他動詞が意志的な行為を表すから、じゃあ、自動詞は偶然起こったこととか、自然に起こったことしか表さないのかというと、そうでもなくて、そこが難しいところですが。
よく自動詞、他動詞を教える時、人が手でドアを開けているのが他動詞で、自動ドアが自動詞、人が木を切って倒すのが他動詞で、台風で倒れるのが自動詞みたいなイラストがありますが、あれば一部しか“真”でないのですよね。だって人が開けようと、自然に開こうと、開いた状態のドアを表現するのは自動詞「開いた」なわけですから。つまり、人と対象となるモノ、両方に視点を置いて言うのが他動詞、対象となったモノだけについて視点を当てるのが自動詞ということです。

大谷翔平がバットの芯に当てたボール、(この時は大谷とボールの両方に視点があります)がどんどん飛んで、スタンドに入るか、入るか、入ったー。という時には、ボールにしか注目していないから、自動詞「入る」を使うんじゃないかな。あえて大谷について言いたければ、力で「飛ばした」(他動詞)とか「入れた」(他動詞)を使うと思いますが。

例えばカンザスシティー・チーフスのエースQBマホームズが、レシーバーのケルシーに投げたパス、ボールの行方だけを見ているので、「ロングパスが通った~!」(自動詞)と言います。
日本語はこのように視点が移動すること、そして行為者を言うのではなく、結果だけを言おうとすること、それらが表現の面白さになっているのだけれど、外国人には難しいことの一つなんだろうなぁと思います。

と、ここまで他動詞の意志性について書いてきて申し訳ないのですが、他動詞を使っているのに自分の意志的な行為を表さない場合があります。それは、自分自身の行為に責任を感じている場合です。要するに自分が失敗した~と思っている場合。これはたいてい「~てしまった」「~ちゃった」をつけて使われます。

「うわぁ、当ててしまった。」(デッドボールを出してしまった場合)「当てた」だけだと故意だととられるかもですよね。
「自分のゴールに入れてしまった」(オウンゴール!)
つまり他動詞は、人の行為であるということを明確にしたいということなのですよね。ここで自動詞を使うと、自分は関係ない!ってニュアンスになり、無責任だ!と取られる場合も。

なので、ボールを当てて、おじいちゃんの盆栽を壊してしまったときは、「壊れちゃった(自動詞)」を使うと雷が落ちるわけで、自分の責任を感じて「壊してしまいました」って言わないとダメなんだよね。会社で「データが消えてしまいました」って言ったら、「おまえが消したんだろ」と怒られかねないので、ちゃんと「不注意でデータを消してしまいました」と言いましょう。

まとめ
自動詞はモノに焦点が当たっている。(無意志的な動きの結果でも、意志的な行動の結果でもよい)
他動詞は行為者と対象のモノ、両方に焦点が当たっている。ふつう行為者の意志的な行動を表す。ただし、「てしまった」をつけて、不注意など自分の意志的でない行動に責任を感じている時にも使う。

こんな感じ~。だいぶスポーツからは離れてしまいましたが。

さて、スーパーボウルも終わり(自動詞)、一息つく間もなく、Jリーグが始まりました(自動詞)。そしてヨーロッパチャンピオンズリーグの決勝トーナメントも始まっています(自動詞)。これらを見るためにWOWOWにもDAZNにも入っている(自動詞)私。しかもDAZNがまた値段を上げる(他動詞)と言っておる。お金がかかって(自動詞)しょうがないが、こんだけお金かけて(他動詞)るんだから、いい結果を出して(他動詞)くれないと困るのよ。

※自動詞には有情物主語の意志動詞もありますからご注意を~。

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