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日本語教師的生活~スポーツと受身

Gooでやっていたブログをこっちにお引越ししました。その第1回です。
以前、読者からタイトルが日本語として間違っていると指摘されました。
すみません。でもここは私が日本語について、日本語教師の生活について思っていることを自由に書く場所にしています。規範的な表現からあえて逸脱することもございます。そこはご容赦を。

さて、タイトルは「スポーツと受身」
受身と言っても、柔道のアレ、ではなく日本語教師なら誰でも一度は教え方に悩まされたはずのアレの方です。
私はずっと、学習者ってうまく「受身」を使えないなぁ、どうやったらスッキリ理解して使いこなせるようになるのかなぁって考えていました。その思いから拙著「日本語文法ブラッシュアップトレーニング」を作ったようなものなのです。

受身の導入で、ちょっとうーん?と思っているのは、大抵の教科書で被害感を強調しすぎるところです。「叱られた、叩かれた、盗まれた、噛まれた」等。確かにこれもよく使われる受身なのですが、その意味的な部分ばかりを強調すると、学習者は、受身は自分が嫌な気持ちになったことを表す表現だと理解し、その結果、「させられた」等の使役受身との混同が起こるのではないかと思っています。

受身のポイントは、被害感ではなく、ある出来事を、影響を受けた側の視点で表すこと。その際、行為をおこなっているのは、影響を与える側です。つまり自分を主語にした受身なら、行為をしたのは“自分”じゃなくて“相手”。

その感覚を掴んでもらうにはどうしたらいいのかな~と考えながら、スポーツ中継を見ていると、聞こえてきます。そう、「受身」が。

例えば、昨年盛り上がったサッカー・カタールワールドカップ。日本のグループリーグ第2戦、コスタリカとの試合で後半81分、ちょっとした連携ミスからボールを「奪われ」、ゴールを「決められ」ました。事実としてはコスタリカ選手がボールを「奪い」、ゴールを「決めた」のですが、ここでほとんどの人は受身を使うんじゃないですか。何故なら、視点が日本チームになっているからです。そして「得点」という影響を受けたのです。当然、行為者は相手コスタリカ。

しかし、これが第3戦のスペイン戦の時は違います。三苫の1ミリでボールを残し、田中碧がシュートを決めたとき、私たちは誰も受身を使いません。何故なら日本は影響を与える側であるから。(この時、「嬉しいことだから受身は使いません」とか変な説明しないでね)もちろんスペインのファンはみんな受身を使ったことでしょう。スペイン語は知らんけど。

「ボールを奪われた」とか「ゴールを決められた」とか、やっぱり受身は被害を表す表現なんじゃないの?と思うかもしれませんが、そうとは限りません。例えば、「相手のミスに助けられた」とか「観客の声援に背中を押された」とか、「表彰された」とか、被害でない例もあります。

とにかく受身は影響を受けた側、それは、普通は自分なんですが、自分じゃなくても自分に近い側から出来事を表現するものなのです。自分対家族なら、自分の視点、でも自分の家族対他人なら家族の視点、自分がシンパシーを感じている人とそうでない人(これが日本チーム対コスタリカチームの例)なら前者、人間対動物や物なら人間の視点というように表すのです。そして何回も繰り返すけど、行為を行ったのは、視点の側の人物ではありません~。

昨年大活躍のヤクルト村神様こと村上選手ですが、実は私はドラゴンズファンなので、もう「打たれた~」です。絶対に「打った~」とは言いません。受身の便利なところは、主語とか目的語とか言わず、この動詞受身形だけで場面が理解できることです。
(下で紹介する「日本語受身文の新しい捉え方」では、文ではなく、イラストを見て動詞受身形だけを言わせる練習が紹介されていました。実際の使用場面もそうですよね。「AがBに~された」なんて言いません。)

さらにサッカーJ1ではガンバ大阪のファンなのですが、ガンバファンの自虐的な言い方に「三苫はガンバが育てた」というのがあります。どういうことかというと、川崎時代の三苫選手にドリブルで何回も「抜かれ」、ゴールを「決められた」ということです。グスン

どうですか?

スポーツの中では、このように本当によく受身を使います。敵味方がはっきりするので、視点という概念が分かりやすいのではないかと思うのです。学習者もこれを理解してスポーツ観戦の時などに使いこなせたらいいのになぁと思っています。というか、行動中心アプローチで、行動目標が「スポーツ観戦を楽しむ」なら絶対に受身を紹介してくださいね。

さらに、スポーツでは結構、使役受身の表現も使われています。たとえばですね、テニスでコートの左右にショットを「打たれ」(ここは受身)、「走らされる」。他にはサッカーでボールは保持できているんだけど、ブロックを「敷かれて」(受身)、効果的な攻撃ができない時、「ボールを持たされる」なんて言います。受身と使役受身では行為者が違うことがわかりますよね。そして使役受身の場合は「自分の意志に反して」という意味が加わります。なので使役受身の方は「嫌なこと」「やりたくないこと」って言ってもいいと思います。

さてさて、これを書いているのは2023年2月12日(日)の夜です。
明日の朝は?
そう、全米最大のスポーツイベント、スーパーボウルの日なのです!

今年のスーパーボウルは、歴史上はじめての黒人QB同士の対決とか、ケルシー兄弟の対決等話題もいっぱい。
私はチーフスファンなので、明日は、受身形は聞きたくないのよ。
「サックされた~!」「インターセプトされた~」「タッチダウンされた~」とかね。
そして相手イーグルスのQBハーツはめっちゃランもできるので、「走られる」のもいやだわ~。

まあ、何にせよ。心躍るイベントなので、楽しもうと思います!

最後までお読みくださりありがとうございます。
実はスポーツに関しては、自動詞他動詞もよく使われるので、次はそれを書こうかな。

受身についてもっとちゃんと(?)知りたい方は、最近出版された「日本語受身文の新しい捉え方」(庵功雄編著・くろしお出版)をお読みになることをお勧めします~。

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