見出し画像

暗号資産を保有するとは?

7月16日ネム(NEM;XEM)犯罪収益収受罪の裁判のニュースを機に、「Not your keys, not your coins」(鍵の所有者こそが、コインの所有者である)についての議論が話題に挙がっています。

このニュースをきっかけに、多くの方が暗号資産を保有することの意味について関心を持っていただけるとありがたいと思いました。

ここでは、資金決済法(資金決済に関する法律、平成二十一年法律第五十九号)において、暗号資産交換業者や電子決済手段等取引業者が、それぞれ暗号資産やステーブルコインを保有することをどのように定義しているかを紹介します。

Not your keys, not your coinsの議論

まず始めに、当該裁判の文書を紹介します。

NEMのネットワークに参加している者は、自らの管理するNEMアドレスに紐づけられている秘密鍵で署名しなければ、トランザクションがNISノードに承認されることも、ブロックチェーンに組み込まれることもなく、NEMの取引を行うことができないのであるから、秘密鍵で署名した上でトランザクション情報をNEMのネットワークに送信することは、正規に秘密鍵を保有する者によるNEMの取引であることの確認のために求められるものといえる。このような事情の下では、氏名不詳者が、不正に入手したA社のNEMの秘密鍵で署名した上で本件移転行為に係るトランザクション情報をNEMのネットワークに送信した行為は、正規に秘密鍵を保有するA社がNEMの取引をするものであるとの「虚偽の情報」をNEMのネットワークを構成するNISノードに与えたものというべきである。

正規の秘密鍵保有者でない者が不正に入手した秘密鍵で署名した上で、当該秘密鍵が紐づいているアドレスから他のアドレスにNEM等の暗号資産を移転させた場合、正規の秘密鍵保有者が暗号資産を移転させた者に対し、少なくとも不当利得や不法行為等を理由とした民事上の請求を行うことができることについても大方の異論のないところであろう。

(出所)https://www.courts.go.jp/app/hanrei_jp/detail2?id=93213

ポイントは、正規の保有者とそれ以外の者が区別されていることです。

  • 正規の秘密鍵保有者

  • 正規の秘密鍵保有者でない者(=不正に秘密鍵を入手した者)

しかし、「正規の」や「不正に」の定義が明確でないといった意見が見られました。

暗号資産交換業者の秘密鍵保有の定義

資金決済法では、他人(利用者)のために暗号資産を管理する場合は、暗号資産交換業のラインセスが必要であると定義されています。そして、「暗号資産を管理すること」の該当性については、事務ガイドラインに例示が列挙されています。

③ 法第2条第15項第4号に規定する「他人のために暗号資産の管理をすること」に該当するか否かについては、個別事例ごとに実態に即して実質的に判断するべきであるが、利用者の関与なく、単独又は関係事業者と共同して、利用者の暗号資産を移転でき得るだけの秘密鍵を保有する場合など、事業者が主体的に利用者の暗号資産の移転を行い得る状態にある場合には、同号に規定する暗号資産の管理に該当する。
(注1)略
(注2)上記③の「主体的に利用者の暗号資産の移転を行い得る状態」に該当するか否かについては、個別事例ごとに実態に即して実質的に判断するべきであるが、例えば、以下のような場合は、「主体的に利用者の暗号資産の移転を行い得る状態」には該当しないものと考えられる。
・ 事業者が、単独又は関係事業者と共同しても、利用者の暗号資産を移転するために必要な秘密鍵の一部を保有するにとどまり、事業者が単独又は関係事業者と共同して保有する秘密鍵のみでは利用者の暗号資産を移転することができない場合
・ 事業者が利用者の暗号資産を移転することができ得る数の秘密鍵を保有する場合であっても、その保有する秘密鍵が暗号化されており、事業者が当該暗号化された秘密鍵を復号するために必要な情報を保有していない場合
(注3)暗号資産交換業者が業務の一部を第三者に委託(二以上の段階にわたる委託を含む。)している場合において、以下に該当するような場合は、「主体的に利用者の暗号資産の移転を行い得る状態」に該当し、当該外部委託先は暗号資産交換業の登録が必要となることに留意する。
・ 利用者や委託者である暗号資産交換業者からの統制や指示、秘密鍵を復号するための必要な情報がなくとも、当該外部委託先あるいは再委託先と共同で利用者の暗号資産の移転が可能である場合

(出所)金融庁事務ガイドライン(16.暗号資産交換業者関係)
https://www.fsa.go.jp/common/law/guide/kaisya/16.pdf

また、「関係事業者と共同」の定義については、「コメントの概要及びコメントに対する金融庁の考え方」に例示があります。

例えば、事業者Aが、利用者から、当該利用者の暗号資産の移転に必要な秘密鍵について管理の委託を受け、事業者Aが当該秘密鍵の一部の管理のみを事業者Bに再委託する場合において、当該事業者Bが事業者Aの指示に従い秘密鍵を使用(署名)する場合などが「共同」と考えられます。

(出所)https://www.fsa.go.jp/news/r4/sonota/20230324-2/1.pdf

ポイントは、下記の観点を整理することで、判断することが可能です。

  • 秘密鍵の分散化(マルチシグ、断片化、暗号化と複合化キー等)

  • 移転の関与者(外部委託、再委託等)

電子決済手段等取引業者の秘密鍵保有の定義

電子決済手段等については、ブロックチェーン等で発行される電子決済手段(ステーブルコイン)についても、事務ガイドラインの記載内容から、暗号資産と同じ扱いになると考えられます。

④ 法第2条第10項第3号に規定する「他人のために電子決済手段の管理をすること」に該当するか否かについては、個別事例ごとに実態に即して実質的に判断するべきであるが、利用者のために、電子決済手段の移転を行い得る状態にある場合には、同号に規定する電子決済手段の管理に該当する。
例えば、以下のような場合には、利用者のために、電子決済手段の移転に関する業務を行うものと考えられる。
イ.ブロックチェーン等のネットワーク上で発行する電子決済手段を取り扱う場合であって、単独又は関係事業者と共同して、利用者の電子決済手段を移転でき得るだけの秘密鍵を保有する場合など、申請者が主体的に利用者の電子決済手段の移転を行い得る状態にある場合。
ロ.(略)

(出所)金融庁事務ガイドライン(17.電子決済手段等取引業者関係)
https://www.fsa.go.jp/common/law/guide/kaisya/17.pdf


この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?