Main Story - 001 (Case of VALIS)

移動式サーカステント。その中はすでに狂乱の予感に満ちていた。
人々のざわめき、時に上がる歓声は叫び声のよう。
それを真っ暗な舞台袖で聴いていた6人の少女達。
暗闇に浮かぶ12の瞳。その色は違えど、込められた熱意と喜びは同じだった。
真っ暗な舞台袖から、輝けるステージへと飛び出す。

迎えるのは大歓声と、浮かんでは消えていくハートマークやコメント。いいね! という気持ちはアイコンやエモティコンに変換されて、彼女達の目に飛び込んでいく。
あふれる光と音、圧倒的な万能感。
それを見て恍惚の表情を浮かべる者もいれば、当たり前だという顔をする者も。だが、一様にその口角は上がっている。
うれしい気持ちを抑えきれず叫ぶもの、闘志に変換してより一層の気合いを内心でする者も。
あるいはそのまま打ち返すように、みなに向かって手を振り歓声を返す者。
サービスとばかりに投げキッスをしたり、煽るように手を振り上げたりする者。
高ぶる気持ちのままに、ただひたすら飛び跳ねる者。
目の前のただひとりのお客に向かって歌を届けようとする者。
会場をずっと見回し、全員と目を合わせようとする者。
喜びにあふれるステージ上を見回し、仲間の笑顔につられて笑う者。
勢いあまって仲間に抱きつく者。それを冷静な表情で受け止めつつ、誰よりも高揚した表情で微笑む者。

「わたしを見て!!」


メンバーのひとりが叫ぶ。その声で、会場みんなの視線が集中する。
彼女はその快楽に、耳の先までぶわっと震えが広がったような気がした。


「独り占めとかずるい!」
「ステージはお前だけのものじゃない。そうだろう、みんな!」
「あたしを見てくれた子には、もーっとアピールしちゃうからね〜」


口々に出る挑発的な言葉に、客は獣の咆吼のような歓声で答えていく。
会場のボルテージはどんどんとヒートアップしていく。

興奮のるつぼと化したサーカステント。ステージと真反対の最後列で、彼女達を見つめる者。


「愉しいでしょう。愉しくていいのです。どんどん愉しみましょう」
「最高のステージをご用意します」
「愉しみのために捧げましょう。みなさんの愉しみ、想い、笑い、涙、肉も骨も、牙の先ひとかけらに至るまで、捧げつくしましょう」

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