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辻村深月さん 「傲慢と善良」を読んで

先月にある友人に「それは傲慢じゃないかな?」という言葉を言われて、
頭の中が「傲慢」という言葉で一杯になった。

そんな中で、違う友人が辻村深月さんの「傲慢と善良」を読んだというInstagramのストーリーがふとした時に目についた。辻村深月さんのことは知っていたのだが、実際に本を手に取ることがなくどんな作風なのかも分らないが試しに読んでみた。

婚約者・坂庭真実が忽然と姿を消した。
その居場所を探すため、西澤架は、彼女の「過去」と向き合うことになる。
生きていく痛みと苦しさ。その先にあるはずの幸せ──。

Amazon 商品ページ あらすじより

読んでみて思ったのは、
ストーリーとしての面白さというよりも、その過程での心理描写や登場人物の一言一言に刺さりすぎて、何度も息が詰まった。
臭いものに蓋をしていた。その壺をどこか目に届かないところに置いていて、存在すら忘れていた。そんな壺の蓋を目の前で開けられたような衝撃があった。

架が婚約者である真実の行方の手掛かりを探すべく、彼女の地元である群馬県前橋市に向かい出会った結婚相談所を営む女性の小野里。この2人の会話がとにかく自分は刺さった。

婚活がうまくいく人といかない人の差って、なんですか?という架の質問に対しての、

うまくいくのは、自分が欲しいものがちゃんとわかっている人です。自分の生活を今後どうしていきたいのかが見えている人。ビジョンのある人。(小野里)

「傲慢と善良」 p105

これは結婚だけではなくて、就職活動なんかでもいえるのだろう。
今まさに転職活動をしている最中なので、改めて自分には刺さった。


〜中略〜
「けれど、今は情報が溢れているせいか、どんな方でもまずは結婚の前提として恋愛を求める傾向が強いです。自分にはこの日じゃない、ピンとこない。
〜中略〜

皆さん、他人から理想が高いのではないかと指摘されるとたちまち否定されます。理想が高いなんてとんでもない。ただ、今回の相手が合わなかっただけで、自分は決して高望みをしているわけではない。自分が高望みできるような任っ限ではないことはわかっているし、と。とても謙虚な様子で、むきになられて」

「傲慢と善良」 p108

皆さん、謙虚だし、自己評価が低い一方で、自己愛の方はとても強いんです。傷つきたくない、変わりたくないー高望みするわけじゃなくて、ただささやかな幸せが摑みたいだけなのに、なぜ、と。

「傲慢と善良」p109

この言葉は、まさに自分のことを的確に言い当てられてしまった、というような感覚だった。けど自分への自己評価はに対して低いが、限りなく理想めいた幻想を持っている自分がいる。けれど、そこへ向かう歩を進めるのに自己愛の作用があまりにも強く、不都合な現実へと導いているという実感があるからだ。

そして続けて小野里は、現代の結婚がうまくいかないのは『傲慢さと善良さ」であるのでは、という仮説を続けてこう語っていた。

「現代の日本は、目にみえる身分差別はもうないですけど、一人一人が自分の価値観に重きを置きすぎていて、皆さん傲慢です。その一方で、善良に生きている人ほど、親の言いつけを守り、誰かに決めてもらうことが多すぎて、"自分がない"ということになってしまう。傲慢さと善良さが、矛盾なく同じ人の中に存在してしまう、不思議な時代なのだと思います。」(小野里)

「傲慢と善良」 p111

「その善良さは、過ぎれば、世間知らずとか、無知ということになるのかもしれません」(小野里)

「傲慢と善良」 p111


架の「ー婚活につきまとう、『ピンとこない』って、あれ、何なのでしょうね?」という別れ際の問いかけに対して小野里の言葉。

「ピンとこない、の招待は、その人が、自分につけている値段です」

「傲慢と善良」 p112

「値段、という言い方が悪ければ、点数と言い換えてもいいかもしれません。その人が無意識に自分はいくら、何点とつけた点数に見合う相手が来なければ、人は、"ピンとこない"と言います。ー私の価値はこんなに低くない。もっと高い相手で無ければ、私の値段とは釣り合わない」

「傲慢と善良」 p112

「ささやかな幸せを望むだけ、と言いながら、みなさん、ご自分につけていらっしゃる値段は相当お高いんですよ。ピンとくる、こないの感覚は、相手を鏡のようにしてみる、皆さんご自身の自己評価額なんです」

「傲慢と善良」 p113

架が「傲慢さ」の言葉が、改めて自分に突き刺さったように、僕も「傲慢さ」という言葉に串刺しにされた気分だった。

僕は本当に傲慢な一面を確かに孕んでいる。
そして真実のような善良さもとっても共感する。どちらも自分の中を否応なしに渦巻いている。

自分自身への卑屈に評価するわけでも、特別視する訳でもなく、今の現(うつつ)を受け止めようと思った。今の俺、こんなもんだ、と。

まずはそこからな気がしたし、なんだか楽になった気がした。
全然大したことないし、特別でもなければ、普通とかでもない。今の現実全てが今の僕。

良い、悪いではなく、
未来のこととかそんなの不確かなもの捨てて、今目の前にあることや人間関係を直向きにやろう。

自分のセルフイメージへの脱却を今回の転職活動でできたら御の字だ、とこの小説を読んで思いました。センチメンタルな自己愛を放り投げて、肩の力を抜いて正直でいられる回数をこれから増やしていこうと思います。

2024/02/10
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