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愛宕町ララバイ

ここ2、3年スナックに行く機会が増えた。

酒の場、というのが好きだからとても心地よい。

昼間偉い人もスナックのママの前では同じダメな人間だ。

ここでは歌って飲むが勝ち。


先日、これからツアー企画などでお世話になる旅行会社さんとツアーの一環としてスナックを訪れた。

あの日の夜のことが薄れてしまう前に文字に残さねば、という気持ちで今書く。書きたい。

失礼を承知で、ご本人が読まれていないだろうことをいいことに、ここではご一緒した方々を「3人の男」と言ってしまおう。

この3人の男の1人、若きクリエイター。スナックで歌うことに恐怖さえ覚えている様子で、しかしここで歌わないわけにはいかない…という葛藤の末、絞り出すように歌ったコブクロのさくら。画面に出てくる歌詞の文字を指でなぞりながら頑張って歌っていた。沁みた。

そしてもう1人の男、寡黙なできる大人。こんな人にも「歌ってよ〜」と言える姉さん方が頼もしい。ずっと歌う様子もなく、もういいよみんなそんなに言わないで言わないでと思った。尾崎紀世彦の「また逢う日まで」が流れるまでは。ムクっと立ち上がりおもむろにマイクを握ったかと思いきやスナックのフロアをまるでディナーショーのように歩き始めたのだ。まさか初顔合わせから今までが全部振りだったのか。全員に握手をしながら周り、歌い終えるとルンバのように自分の席にスッと戻っていった。最後の方はずっと「ふたりでぇ〜ふたりでぇ〜」という歌詞のみで歌っていた。感動した。

そしてもう1人、そんな男たちを束ねるここでは1番偉い男。これが1番驚いた。何を歌わせてもうまいのだ。いやうますぎる。そしてこの男も立ち上がる。吉川晃司を思わせる腰使い。松山千春の「長い夜」の長ーーーーーーいこと。ここまで歌い上げられたらみんなついていきます部長。歌い終わると静かに「隠し芸です。」と言っていた。


スナックとは。なぜにこうも人を可愛くさせるのか。

この町にはいいスナックがある。

それだけでたいがいのことは頑張れる、と言ったら大袈裟だろうか。

どの町にもきっと愛すべきスナックがあり、行けばきっと誰かいる。大人の公園みたいなもんだ。お金はかかるが。結構かかるが。

会わなくても事が進む時代に、それでも人恋しいわたしは通うだろう。


スナックは文化だ。



松阪偏愛ツアーをお楽しみに。




りえ

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