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「カルタグラ~ツキ狂イノ病~《REBIRTH FHD SIZE EDITION》」の感想

https://www.youtube.com/watch?v=IFpSptT_wZM

・2024年1本目は前々からやりたかったこちら。
イノグレ作品はずっと気になっていた、今作が初プレイ。ブランドとしても処女作で18年の時を超えてリメイク発売となれば新年最初にぴったりかもーと思い購入。エロゲ界の未来に思いを馳せて今年も新作を買って経済を回していく。
余談、ゲ謎の沙代が好きになって横溝作品や京極作品っぽい和風美少女ゲーやりたいと思ったのも理由の一つ。

・エロゲの箱はやたらデカいしミニマリストでなくても昨今はDL版購入が多数派だと思うけどイノグレはパッケージ版購入推奨だなーと思った。カルタグラのパケ版は鮮やかな青(といっても目に刺さるようなブルーではない)の上品な装丁ケースでコレクション欲を刺激される。特典小説も同梱されていた、これは初回限定盤のみらしい。
読了した今だからさらに思うが、雰囲気のある作品なのでパケ版を買ってとても良かった。嗜好品はパッケージが凝り性だと嬉しい、紅茶や菓子と一緒。

・初代から様々な追加要素や加筆修正がされているようだが、わたしはリメイク版の今作しか知らないのでその印象のみで感想を記す。


Copyright Innocent Grey/gungnir All Rights Reserved.『カルタグラ~ツキ狂イノ病~《REBIRTH FHD SIZE EDITION》』

・結論

面白かったね。雪降る2月の寒さと冷たい屍と艶めかしい女体の熱。舞台が戦後日本の時代なのに加えて陰鬱な惨殺事件の謎が中心なので決して明るい話ではないけど人々が切磋琢磨して生きている静かな熱を感じられた。
あとリアルに昨日関東が大雪でそこも実感を伴った、さみー。

ひとつの連続殺人事件がさまざまな人物や事柄に繋がっていくさまは吸引力があり続きが気になってドンドン読み進められたが、開いた風呂敷のわりに真相は結構拍子抜けだった。
真犯人の有島はまだしも、前座の犯人の赤尾は割りと後出しジャンケンでミステリー要素はそんな「あ!」と驚くどんでん返しではない。でも面白かった。
カルタグラにおけるミステリー要素は「狂気」を描くためのエッセンスで、メインディッシュではないと個人的に思ったので上記は満足。

自分は主人公があまり合わなかったが(その点は後述)、ヒロインやサブキャラの魅力はよかったし世界観は好きだし特にグランドED、今回のリメイクで追加されただろう(技術が令和のエンドロール)由良と娘のカットは感動した。やっぱビジュアルノベルって最後がとてつもなく良ければ加点方式で全部最高になる。
カルタグラが開始した時点で和菜と由良の仲が良くなる世界ってのはありえないもの、要するに詰んでいて、物語のどのエンドでもその未来はない。でも由良√グランドエンドの由良と瓜二つの娘との再会はちょっとその再演も含まれているのかなー思った、ビジュアル的な意味だけでね。IFを叶える意味も込めて。

なにより、由良が秋五にのみ向けていた依存とも呼べる強い愛を、最終的には子供へ向けることが出来る未来があったのが良かった。それと同じくらい、由良が腹の子に嫉妬した末に入水するENDもあるのが良かった。
由良がどちらを選んでも彼女のパーソナリティ的に納得するし、そういった複数の選択の未来を見れるのがビジュアルノベルゲームという形式の利点でもある自分がノベルゲームをやっている理由のひとつなので。


このシーンは「狂気」のネタバレではない。詳細はゲームを実際にプレイしてください。
Copyright Innocent Grey/gungnir All Rights Reserved.『カルタグラ~ツキ狂イノ病~《REBIRTH FHD SIZE EDITION》』

・狂気

カルタグラで注目したいのは「狂気」
祭り上げたテーマの通り、ひとりの女が哀しく壮絶な生い立ちと狂気に呑まれて血塗られた道を歩む真相はなるほどね。事件を辿れば全ての犯人は由良の狂愛で、そうなるに至った彼女の過去もなるほどね。ゴアなスチルも本作の「狂気」を彩る。
ちょっと意外だったのは、いわゆるヤンデレヒロインが由良と七七くらいで、彼女たち以外は狂気に呑まれるBADが無かったのが意外。でも普通の少女といえる和菜や桜子が愛ゆえに他害へ豹変するIFが思いつかないし、初音は遊楽育ちだけど雨雀姐さんの愛で曲がったところがなく育ったから同上だし、冬史や凛は病みに堕ちるタイプじゃないってのはなんとなく思うから、無いのも「そうだよなー」なので納得。

あと、本作の「狂気」は読んでてまだ理解できる系統の「狂気」で、混沌と混乱ではなく整頓されていたと個人的に思った。
三島由紀夫の好みや著作は男性を強調したものが多いけど「鍵のかかる部屋」という本は□リータへの倒錯的感情を計算で書いたものだと思っていて、本作もそんな感じを彷彿。

・個人ルート

カルタグラの個人√は途中下車タイプ(ギャルゲーは基本的に「共通√→途中で分岐→各ヒロインEND」だけど今作はヒロインとくっつくと物語の途中で話が終わる。ヒロインによっては広げた風呂敷を無理やり閉じて終幕)で、和菜√もしくは由良√以外はそれが顕著。初音や桜子はかわいいけどシナリオは完全にサブ。

凛は死亡は告白された時点で死亡フラグを感じたけど、悪友みたいに親しい女性が容赦なく惨殺されるのはかなり悲しかったので生存ENDがあって良かった。というかリメイク前は無いの泣いちゃうよ。ショートカットと現代風服装と眼帯はシックでよかったなー。

冬史はかっこいいしかわいいひとだった。頭の特徴的なかんざしが伏線(ラストバトルの決め手)になるのは意外。

由良は冒頭の通り。
和菜は朗らかで徹頭徹尾良い子だった。なんか病むENDがひとつぐらいあると思った自分を殴りたい。

七七は個人√無かったの意外、謎ナース潜入プレイ介護ENDが個人ENDに当てはまるくらい。メガネを外さないメガネっ娘でボクっ娘で血縁妹で狂っている変人ってなんかニッチな趣味てんこもりだ。
血縁関係あるけど濡れ場への葛藤が主人公もヒロインも双方一切無い(というか秋五はそれどころの思考状況ではなかった)展開が新鮮。

あと√やENDは無いけど雨雀姐さん良かった。
かなり年齢が上、熟女に分類される女性を魅力的に描いていたのがかなり良い。エロゲって熟女モノとかじゃない限り、滅多に30代以上の女がピックアップされること無いので新鮮だし良かった。年上の包容力とエロシーンもよかったね。
カルタグラは大人の女の魅力がよかった。冬史との情事後のタバコスチルも印象的、大人の色気。

・グラフィック

鈍い色合いの淡い塗りとは裏腹に肉感の迫力のある生々しさ、グラフィックが良い。18年前の作品なので人物絵のギャルゲ塗りの質感とかは少し時代を感じたがそれ以外はまったく気にならない。追加されたスチルとかわからなかった、昔から絵がうまい。
濡れ場の女体がなまめかしくリアル調で、萌系デフォルメが主流なエロゲでこういった臨場感は新鮮。モザイクかかっているけど陰毛もしっかり書いてた。
抜きゲーぐらいエロが多いもののストーリーの本筋はブレずしっかり進み、実用性とシナリオゲーのハイブリッドだーと思った。

また、本作の特徴としてスプラッターなスチルが多い。エロシーンでそういうのはサブの双子のみで基本和姦しか無いわりに、目玉がポーンとか屍とか純粋なゴアにスチルがある。カルタグラのゴアは耽美寄りでそこまで露悪的なスチルではないとは思うけど、迫力のある絵のパワーはこちらも変わらずなので苦手なひとは苦手かも。
エログロが多いのは耽美で陰鬱な世界にあっていた。生と死、エロスとタナトスは紙一重だしカルタグラの纏う色気、官能さに調和。

・声優、音楽

和菜と由良という正反対の双子を演じた秋城柚月さんの演技は圧巻。ぜんぜん違って別人かと思う。和菜の溌剌とした話し方のイントネーションが独特で特にそこが好き。

あと主人公にボイスがついている、濡れ場でもボイスあるの新鮮だった。
それとほとんど出番無いけどサブの双子キャラがCV北都南なの嬉しかった、好きなので。本筋とは関係ないけど北都南最近何演じてるんだろーと調べて相当ベテランにもかかわらずあの特徴的な□リボを今でも維持してて声優さんってスゴいなーと思った。

音楽について、カルタグラという作品の完成度を増す音楽全般は全部良いし由良√の主題歌的存在の「恋獄」は良曲。


✕気になった個所、合わなかった点

・BAD
情緒がジェットコースターみたいなのでいまいち没入感が削がれた。説得力があるBADENDが好きなのでここはいまいち。
主人公のダメさ加減には説得力が出た。BAD√とはいえ教会といい宗教施設といい、ひとりで向かうのは…それは、BADだろ。ヒロイン√だとしても受けた依頼を葛藤あんませず途中で投げることがほとんどとか、20代後半設定で責任感が薄いのはうーん…になった。

・主人公、秋五。こいつはなんやねん。
ミステリーにおける探偵ポジなんだけどコイツが謎を解いていた印象がない、というか最後の真の双子トリックは七七が安楽椅子探偵よろしくやっていた。なんでだよ。戦闘は冬史が全部片付けてくれてた。おい秋五、おまえ戦争帰りだろ。

まあ、その辺は彼が中心じゃなくてもまだいいけど、計画性がなく悪い方向に衝動的であんま良い印象は無い。桜子√とかかなり年下の令嬢のケツ追っかけて依頼ぜんぶほっぽるな、と思っちゃったね。ボイス付きの主人公でこういうタイプは初めてかも、大体イイ男ばっかだったから。

出来ることが多くなくても堕落した一種の蠱惑さがあるとかダメだけど憎めなさがあるとかでもなく、前者を語るには善人に偏っているし後者を語るには固いし、なんか中途半端だった。ヒロインたちにとっては彼じゃきゃダメな理由は理解したけど、「秋五」じゃなくても良いんじゃね?と思ってしまった。ぼこすか書いてしまったが自分には合ってなかった、ということです。