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■【より道-3】葬儀屋

妻や母、姉からのメッセージを確認し実家に連絡をすると、慌てた様子の母が電話口にでた。「父さんにかわって」と伝え父にかわってもらう。

「おぉ、ジュンシロウか。さっき、大井町警察署の刑事が実家に来て、どうも、徹さんが亡くなったらしい。明日、身元を確認するため大井町警察署へいかないといけないんだ。お前、一緒に来てくれ」父は82歳の高齢者。認知症にはなっていないが、最近、忘れっぽく歩くスピードもゆっくりになってきており、1人では心配だ。

「しかし、大変なことになったよ。金もないし葬式の段取りやマンションの掃除などしなくてはいけない。徹さんは生前、誰にも連絡するなといっていたので、俺がやらなくてはいけないんだ。」年金生活の父は、それほど貯えがあるわけでもないので金銭的な援助も必要かもしれない。

「わかった。友人に葬式屋がいるから相談してみるよ。明日、大井町の駅で待ち合わせをしよう。」電話をきると、すかさず会社の上司に報告をし有休を申請する。上司は、杓子定規に了承してくれたので、一緒にサウナで汗をながした山崎さん、北田さんに事情を説明して一足早く家路につくことにした。

電車に乗ると葬儀屋で働いている親友の小野崎にLINEすることにした。ひと通りの事情を説明したあと、後ほど電話をするとメッセージを送り、いつものように、携帯を片手に暇をつぶした。30分ほどすると自宅の最寄駅に到着したので改札口を出て小野崎へ電話をすると、小野崎は、すでに品川区の斎場や火葬場、大井町警察署を調べてくれていた。

「費用は諸々で、ざっくり50万くらいかな」一番心配だった金銭面の概算見積を教えてもらう。50万円なら4人兄弟の子供たちがひとり10万弱ずつだせば、何とかなるだろう。予算の目処がついただけでも少しだけ安心することができた。長い一日が終わった。


翌朝、父との待ち合わせのため自宅マンションのエレベーターを降りると、見知らぬ電話番号から着信がきた。不審に思いながらも電話にでると「自分は○△葬儀の者ですが、小野崎さんからキャンセルの連絡があったのですがよろしいでしょうか?」

突然の電話に驚いてしまった。この方は、何を言ってるのだろう。。「そもそも御社とは、契約も何もしてないので、キャンセル云々もないとおもいますが、、それよりも、なんで自分の番号を知ってるのですか?個人情報もなにもありませんね」と伝え、話をつけた。

きっと、警察が囲ってる葬儀屋があるのだろう。しかしなんてスゴい業界なんだ。サービスを受ける側が依頼先を選べない仕組みになっている。自分は、たまたま友人に葬儀屋がいたから良かったけど、一般的にはナシつぶし的に葬儀屋が決まり、対応してもらうのだろう。

葬儀業界の闇を感じながら小野崎に報告するため、連絡をすると大井町警察署へ連絡をしたとメッセージがきた。「すでに出入り業者がスタンバイしているとのことだったので、キャンセルしといたよ。」「スゴイ業界だね」「警察出入りの葬儀屋が待機していて取り合いなんだよ」「そうなんだ。あと警察の見解では、死後、1か月くらい経っているのでは?といってたよ。検案はまだしてないと言ってた。医務院に行くか、行かないか確認しておいて。諸々準備が整ったら、俺も大井町警察署へ向かうから」

めちゃくちゃ安心するし心強い。小野崎は、自分が働いている会社の創業メンバー役員が起業した葬儀会社で働いている。まだ、葬儀会社ができてまもない頃、友人の小野崎をその役員に紹介し入社することになった。あれから10年以上経っているので、会社の社員数は数百人規模となっており、小野崎は創業メンバーのひとりとして活躍している。

しかし、人が亡くなって、しかも、遠縁の方の対応は、勝手もわからないし葬儀屋サービスの違いもわからない、費用も検証するまもなく言い値で支払う。ほとんどの人が、見知らぬ葬儀屋にお願いすることになるこの業界は、本当にグレーな業界だ。


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