糸
きれたのか、きったのか、ほどけたのか、からまったのか、それともはじめからそんなものどこにもなかったのかい、と。
いとのないとい。意図のない問い。糸の名、糸、い……。
紡いでいくのは物語、結ばれないのは赤い糸、蜘蛛の糸なら垂らしておこう。糸は、どこからやってきて、意図は、どこまで行くつもり。
いといといと、うとうとうと。ねむる。おきる。ねむる。ほどける。目をこすり、おきる。おきる。いきる。ボビンケースはころころころと転がってもう針のことを忘れてしまった。
アリアドネは糸の端っこを握ったまま、迷宮から出てこない。ミノタウロスは案外優しくて、ここで暮らしていくのも悪くないかもしれない、と思う。
神さまに巻きつけた糸はするするすると伸びていき、三輪山に辿り着く前にあなたの手からするりと逃げてしまった。そういえば、あのときの風船から垂れていた糸だって、するりと手から離れてしまったのだった。
ボタンをつけた後の糸は余りすぎるのに、肝心なときはいつも足りない、糸。
いといといと、うとうとうと。
きれたのか、きったのか、ほどけたのか、からまったのか、それともはじめからそんなものどこにもなかったのか。
糸のゆくえは誰も知らない。