一歌談欒 Vol.1

こんばんは。はじめまして。かつらいすです。原井さんと、なべとびすこさんの企画「一歌団欒」に参加いたします。よろしくお願いいたします。

第一回は今橋愛さんの下記の短歌について、書きます。


おめんとか

具体的には日焼け止め

へやをでることはなにかつけること


一読して、共感できそうなんだけれど、えっ?「おめん=日焼け止めなの?!」という驚きがあり、不思議な魅力に惹かれました。

この短歌で作者が表現したいことは何だろう。おそらく、部屋(プライベートな場所)から外(他者と出会う場所)へ出るときの気持ちの在りようを表しているのだと思います。部屋の中では、すっぴんでいられるけれど、素のままの自分をさらけ出したまま外へ行くことはできない。部屋の外で人と会うときには、素の自分にうっすらとシールドを貼る。自分を必要以上に飾りたてたり、偽ったりするわけではなく、少し身を守るための準備をしてから、外へ出る。心持ち、おどけた表情で。

最後の「おどけた表情で」というのは、あまり自信がないのですが、おめんって、おどけたピエロのようなかわいらしいイメージがあるので、自分を偽る「仮面」とは違うのかなと思って解釈しました。

ためしに、もとの短歌を「かめんとか 具体的にはアイシャドウ へやをでることはなにかつけること」と変えてみると、自分を偽って戦闘態勢に入る感じになりますが、この短歌はそういうのとは違う。今橋さんの短歌は、改悪例よりも、やわらかい感じがする。

他人の目から見ると、部屋の中と外でほとんど変わってないようにみえる些細なことだけれど、自分の中では部屋をでるときには常に何かをつけている、ということを表現しているのかな。日焼け止めを塗る行為は、ただ紫外線から身を守るということではなくて、部屋を出るときに自分の気持ちを切り替える儀式のようなものなんだと思います。


私は、この短歌を読んで、部屋を出るときは必ず何かをつけるのってわかる!と共感したい一方で、「おめん」を「具体的には日焼け止め」だという心境がすごく不思議で、この人のことをもっと知りたい、と思いました。共感したいと思うのは、実際私も10代後半の頃は化粧をせずに、日焼け止めだけを塗って外出していた時期があり、日焼け止めを塗ることによって「これから外へ行くんだ」と気持ちを切り換えていたからです。でも、やっぱり「おめん」の部分が唐突で、それがこの短歌の魅力でもあるのですが(お祭りのシーンでもないのに突然「おめんとか」で始まるところがおもしろくて、すごく好きです)不思議で気になる短歌でした。


原井さんのブログ 「一歌談欒 Vol.1」 http://dottoharai.hatenablog.com/entry/2016/10/10/233037