ミーム(meme)という単語

 現代社会において「ミーム」という単語はかなり一般的なものになりましたが、その原初的な意味と発展について知る人は非常に少ないです。かくいう私もきちんと調べたのは大学院に入る前後のことであり、「インターネット・ミームで論文を書くぞ」と心に決めた時のことでした。

 というわけで今回は「ミーム」の誕生からインターネット・ミームとの関係性について記していきます。なおこれは修士論文で自分でまとめた内容を再構築したものなので、何かの間違いで私の修士論文を読んだことがある人は多分同じ内容になるかと思います(調べても出てこないから多分初出)。


1.ミーム論

 「ミーム(meme)」という単語の起源はリチャード・ドーキンスの『利己的な遺伝子(1976=2016)』からです。彼はミームを文化伝達の単位、模倣の単位を伝える概念と説明しました。
 ミームは模倣という行為を媒介として、脳から脳へと渡り歩きます。例えば、何かしらの考えを誰かに口頭や文章などで伝え、それが伝えられた人の評価を得ることが出来れば、その考えは脳から脳へ広がります。模倣はミームの自己複製を可能にさせる手段ではありますが、すべてのミームが成功を収める訳ではなく、一部のミームが他のミームよりも大きな成功を収めます。その意味で遺伝子と同様にミームには競争と淘汰が存在するとドーキンスは考えていました。

 これ彼の書籍から引用しながらまとめたものですが、はっきり言って滅茶苦茶分かりにくいです。ドーキンスは基本抽象的に物事を説明しており、これは批判の対象にもなっていました。

 それからミームに関する研究や書籍は出版されました。しかし、結局その抽象性を打破することはできず、批判に対する回答もあまりよくはありませんでした。インターネット・ミームの研究者に「そもそも学術的な価値はあるのか」とボロクソに言われる始末です。言葉と概念は画期的だったけど、内容がついてこなかったのがこれまでのミーム論でした。

2.ミームの「ハイジャック」

 そういうわけでミームとは20世紀末に現れた言葉は面白いけど内容はたいして面白くはない「終わったコンテンツ」でした。そのまま言葉も消えていくようなものですが、なんとその言葉は「淘汰」されることなく、むしろ「繁栄」しています。ただ、ここで注意が必要なのは過去の「ミーム」と現代の「インターネット・ミーム」の連続性は非常に薄いものであることを認識しなければなりません。
 現代の「インターネット・ミーム」とはインターネット上に存在する、文章、画像、言語、動き、または文化的な「もの」の他の単位として提示された特定のアイディアであり、「特定の何か」を指す存在を定義するための言葉として用いられます。簡単に言えば、インターネット・ミームとは具体的な何かであり、これまでのミームとは全く違う存在であるのです。

 これはドーキンス自身もインタビューにて「ハイジャックされた」と表現しています。また「誰かがインターネット上で何かが流行ることについて話すとき、それはまさにミームとは何かということであり、この言葉はそのサブセットのために使われているように見える」とも述べています。「インターネット・ミーム」という言葉自体がもはや一つの「インターネット・ミーム」として存在しているのです。

 そういうわけで、現代の「インターネット・ミーム」とは具体的な何かを指し示すものであり、過去に議論されていた「ミーム」とは性格の違う存在です。

3.インターネット・ミーム論

 ここまでをまとめるなら「インターネット・ミーム論≠ミーム論」です。過去からの連続性という意味ではあまり接続はないものであり、「インターネット・ミーム」という存在をどういった側面から論じていくかを考えなければなりません。私は社会学メディア学が主体の人間なので、その方面からインターネット・ミームを紐解くことにしました。ざっくり言うなれば、「インターネット・ミームと社会」ということです。それによって人々の社会的な営みがどのように変化するのか、またメディア利用がどのように影響されるのかを考察していきました。

 私はそこから記号論に手を付けてインターネット・ミームという存在を記号的にとらえ、人々にどのように用いられるのかを分析しようとしました。ほかにも色々な見方があると思いますが、インターネット・ミームという具体的な事象をどこまで現代社会の現象と照らし合わせられるのかということを考察しなければなりません。
 直近でいえば『猫ミーム』が大きなムーブメントになりましたが、それをどこまでもっともらしく分析できるのかが大切なのです。かなり文字数が多くなってきたので、このあたりで一度筆を置こうと思いますが、次の記事では私が実際にインターネット・ミームをどのように捉えたかを少し記していこうと思います。

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