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必読bengal先生のブログ全文解説

bengal先生による鬼作「cristaseya クリスタセヤのデニム、BLEACHED DENIM PLEATED TROUSERS」が公開され大きな反響を呼んでいる。まずはご一読いただきたい。



私は文系であるからにして、ついつい読みながら筆者の気持ちを考えてしまう。でもこのブログは違った。他の読者の気持ちを考えてしまったのである。これ、ハイコンテキスト過ぎて注釈がいるんじゃないの、と。

私は世話焼きな性格なので、つい人様に偉そうに説明をしてしまう癖がある。男の子はスキンケアどうしたら良いのとか、シティボーイってなあに、みたいなやつである。今回はbengal先生によるファッション文学の金字塔を徹底全文解説しちゃおうと思います♡



"about a aboutshirts"


彼女の事は以前から知っていたのだけれど、恋心を抱いたことは無かった。日仏ハーフで育ちは成城、国立の小中学校を経て今はシンクタンクで働く彼女。お嬢様でありながら、大雑把な振る舞いで、時に快活に振る舞う。いつもこざっぱりとした格好で、大学では男女分け隔てなく接していた。

恋心を抱くフラグがビンビンにおっ勃ちながら始まるこの物語は、プロローグの独白による静かなトーンとは打って変わって、日仏ハーフで育ちは成城だなんて、生まれも育ちも葛飾柴又、帝釈天で産湯を使いと同じ語感の口上<ベンガリズム>によって、読者を一気にグググと世界観に没入させる。東京生まれヒップホップ育ちと同じく、純血主義の正統性を背景に、わずかな単語で人物像を、つまり滝川クリステルとか美波みたいビジュアルと、小石川や田園調布でないあたり少しリベラルな家庭環境なのかな?みたいなバックグラウンドが一瞬で叩き込まれる。

国立には私学の小学校が3校あるが、国立学園は中学校がないから、どちらと明記はされていないけれども、残るは桐朋か国立音大な訳で、わざわざ世田谷のお嬢さんを国立まで通わせるからにして、なるほど音楽的な素養がある感じなんだな、とニュアンスが伝わってくる。まあ桐朋女子は中学から調布なんで答えは簡単に出るんだけどね。そしてここで読者は疑問に思う訳。え、高校は内部進学しなかったの?って。

そして僕も書いててハッ!とするのよ、これもしかして国立(くにたち)じゃなくて国立(こくりつ)なんじゃねえの、って。大変な勘違い。そうなると必然的に学大附属世田谷だろうねって事なんだけど、附高に行かなかったからにして、どうしてなんだろう、と伏線が張られている。お気付きだっただろうか。


何度か食事の席を共にする事はあった。枝豆を一粒ずつ静かに口へ運び、都度箸を揃えて置くような所作を自然にこなす彼女は別の世界の住人で、デートをするなどという予感が無かった。浅黒い肌はしなやかで、最低限の手入れを怠っていない健康的な艶がある。小麦肌で健康的な女性は好みであった。が、エスタブリッシュな人ではなく、好奇心旺盛で恐れを知らないアウトドアな人を追い求めていた私は、彼女とは縁がないと思っていたのだった。

修飾の強調、そして差異と反復の二項対立によって、人物像の境界線がくっきりと浮き立ち、主人公目線で固定されたカメラによって彼女の姿をカットインで繋ぐ小津安二郎のような描写が続く。白と黒。静と動。陰と陽。下記参照。

お嬢様→(大雑把、快活、こざっぱりとした格好、男女分け隔てなく接す)→枝豆を一粒ずつ静かに口へ運び、都度箸を揃えて置く→(浅黒い肌、最低限の手入れを怠っていない健康的な艶、小麦肌で健康的)

ここで主人公はエスタブリッシュ、つまりスノッブでクラス感のある支配階級層の彼女とは別の世界の住人であり、好奇心旺盛で恐れを知らないアウトドアな人がタイプであると語る。しかし、既に読者は例えば浅黒い肌といったフレーズ等から彼女がステレオタイプ的なお嬢様でないことを知っており、いやアンタ好みの女じゃん!というツッコミをもって序盤を読了する。



黒っぽいTシャツを脱いだ時にはもう朝焼けだった。

おめでとう、声に出して読みたい日本語選手権2022優勝です。カーテン越しに陽が差す情景が目に浮かぶ。ずっと二人は部屋に居たのだと思う。そして、その時間までTシャツが脱がれることもなく。しかし、最後には。あゝ、青春ですよ。

黒っぽいTシャツという天才的な表現。黒なら黒いTシャツと書けば良いのであって、少し色褪せたTシャツなのだろうか、朝焼けが色を溶かしたのだろうか、それとも光の靄が小麦色の肌とのコントラストを曖昧にして有機的な塊を表現しているのだろうか、なんてフラッシュバックするが如く追体験しちゃうんよ。枝豆の例や艶という表現からも、性的な行方を漂わせていたものの、いきなりの展開に思考回路はショート寸前。今すぐ会いたいよ。


彼女には右肩に刺青がある。明け方、彼女の口から漏れた”二十歳の誕生日に刺されたの”という呟きが今も忘れられない。

ビーーーーッチ!! ヤリマンじゃん!!!! ここで読者は泣く訳。このセンテンス読むまで勃起してたのに、彼女の過去を知って傷つくの。19の時の男を許さないぞ、そういう思いにもなるし、清純なのかななんて期待してしまった自分自身にもがっかりする訳。

その刹那、口から漏れたの箇所で、ああそうか彼女は後悔しているのだ、コンプレックスが、自責の念が、口に出す必要もないのに、呟かせたのだ、これは彼女なりの自己開示であり秘密を共有する関係性になれた印なのだ、と読者は理解する。現代文の入試であれば、さて彼女が呟いたのは事前でしょうか、事後でしょうか、140文字以内で説明しなさい、ということになる。そっかー。彫ったの、ではなく、彫られたのでもなく、刺されたの、かー。他にも色々と刺されてたなー、チキショー。とか感情がリフレインするタイミングで・・・


!?


え、待って? ナンバーガール?? ってなるのよ。文字のジェットコースター。



右肩、イレズミ、明け方、残像。TATOOありやん!お、俺らは向井秀徳の歌詞に興奮してたって言うのか?よみがえる性的衝動ってこういうことなの!? はっきり言ってパニックにならん方がおかしい。小津調かと思ったらDJがシームレスに曲と曲を繋げるようにフェードしてきて恋愛小説が突如パニックムービーになってしまったのだから。

点と点は線で結ばれる。伏線の高校を内部進学しなかった件、詳しい事情はわからないけれど、彼女はYOUNG GIRL 17 SEXUALLY KNOWINGが理由なんじゃなかろうか。ただし、シンクタンクという就職先からも、この物語の二人が出会う大学は大変に優秀な学校に違いなく、ドロップアウトを経て正規ルートへ戻ってきた過去と、ヘルシーでクリーンな彼女のイメージに振りかけられたスパイスによって、悔しいかな一段と魅力的に思えてきてしまう。だからこそ、どうして、どうして厳格なお嬢様は悪い男にハマってしまうんだろうと、我々は大いにパリピを憎む訳。あ、そうそう、てか、どんな刺青なのか気にならん? 答えは歌詞に出てきてるんよ、ハートの模様ですだって。マジか。


マノロの靴にツイードのワイドパンツを履き、大きい歩幅で歩く。でも、彼女の足音は控えめで洗練されている。

ここで物語の時系列はまた少し飛び、あの黒っぽいTシャツを着ていた少女は学校を卒業し、シンクタンクに就職した後へと移っている。マノロの靴とツイードのワイドパンツは自立した女性像を表しており、続く歩幅と足音はバリキャリだけど、それを鼻にかけるような嫌な女じゃないよと示唆している。もしこれが勘違いしちゃった様子を表すのであれば、表現としてはロッシもしくはチューになり、同じワイドパンツであっても光沢感がある素材のものを、一般職であればタイトスカートが比喩として用いられるであろうことは想像に難くない。これは山といえば比叡山、みたいなもんで勉強量が読解に直結する箇所ですね。


いつもランチの提案について即決する彼女は、あらゆる物事を即座に決める。よく銀座のいしだやへ行ったが、季節の魚について不味ければ不満を良い、美味しければ屈託なく笑う裏表のなさを備える。

この時点で、ディナーはどうなんだろうと真っ先に考えらるのであれば、センター試験程度の現代文読解について不安はないだろう。ふうん、そうなんだ、サバサバしてるのね、なんて感想では全くもって話にならない。ここは彼女の性格について述べているようで、実際は二人の関係性を示唆しているのだから。

ちなみに銀座のいしだやはランチだと1500円くらいで魚定食を食べることができる。普通23、24で行きつけにするのは余程じゃないと難しいと思われるので、夜に家族で来たことがあり、知っていた文化資本の恩寵なのではないかと想像できる。ちなみに、このランチってのは、お泊まりした次の日の話で、ベッドの中で話し合いが行われている訳。ついでに補足しとくと、主人公は彼女のことが好きだから夜ご飯のお店はまだ彼が選んでデートに誘ってるんだなってとこまで読み取れましたか?ここまで分かれば難関大学レベルの現代文も問題なく合格ラインに届きます。


なんとも思わなかった彼女のやや低めで荒がない声や、細く長く日に曝された、鋭い象牙のような指。気付けばそれらに触れたくて、会う頻度は増していった。彼女はいつも笑っていた。都会の少女はにっこり笑う。にっこり笑って、鋭くなって、風。

彼女が黒っぽいTシャツを脱いだ時、我々はへ?なに?いつのまに付き合ったの?それとも付き合ってないけどそうなっちゃった感じ?え?え?気になる、となりましたよね?これがランチの話へと続いたことで、お、いい感じなのね!と思ったのも束の間、ああ違った、あらゆる物事を即決する彼女が二人の関係性についてはすぐに答えを出さないという選択をしているのだ、彼女の笑顔を見れる関係は築けたものの、怒った顔を見れるようにはなれなかったのだ、と感情移入が故にグッと胸が締め付けられてしまう箇所がここ。もしかしてこれは個人的な経験が故に共感してしまっただけなのだろうか。。

指を細く長く日に曝された、これはご存じ枕草子からのサンプリング。紫さきだちたる雲の細くたなびきたる。そうです、春はあけぼの。やっぱ明け方が良いんですよ、このブログをここまで読んだ人はもうみーんな知ってますからね。黒っぽいTシャツを脱いだ時にはもう朝焼けだった、だもん。そんで鉄風 鋭くなっての歌詞へと繋がり、どんなに察しが悪い人でも、ここでNUMBER GIRLじゃんと気付く、そういう構成になっています。



“真夜中は何くってもうまい”と笑いながら彼女は言った。

こっから先はほぼ向井秀徳さんが憑依してる訳ですが、ここもSENTIMENTAL GIRL'S VIOLENT JOKEの歌詞で、別にネタ食ってる訳でなし、ランチのくだりからの時間的なレトリックと、「笑うこと」に対する執拗なまでの強調に、主人公の狂気を表しており、幸せな日常の描写とかそんなんでは全くないです。


気付けば彼女と過ごす時間は増え、何が好みで、何をした時に笑うのか、無意識に彼女をほころばせようと行動が変容していた。出会った頃はこんなに多くの季節を彼女と過ごす事になるとは思わなかった。路上に風が震え、彼女は「すずしい」と笑いながら、夏だった。

ここでの季節は引っ掛け問題で、裸足の季節も、大当たりの季節もハズレ、透明少女が正解です。そして、更なる叙述トリックに皆さんはお気付きだったろうか、ほころばせよう?綻ばせ?よろこばせじゃなくて??

文字が入れ替わってても読めちゃうのをタイポグリゼミアと言いますが、これはなんて言うんですかね。完全に主人公はサイコパスのそれでして、どうしてこうなっちゃったかお分かりでしょうか。これはですね、私のシックスセンス、言うたら勘ですが、まだ彼女と例の右肩に刺した男との関係は続いていて、そしてそれについて猛烈に嫉妬していると推察します。あなたは素敵な人だけれども彼を手放すほどの魅力はないわ、お客さまの中でそのような感情に気付きつつ自らに嘘をつき関係性を継続したことがある経験をお持ちの方はいらっしゃいますでしょうか。はいはーい、私はありまーす。だからわかりましたー。わかるってか、知ってまーす。


私は服のメンヘラなので、あんたが全部私のものにならないなら、私、何もいらない、というわけ。

冒頭でのこのパンチラインは比喩でありつつも、彼女のことが手に入らぬのなら壊してしまえホトトギス系の、マーク・チャップマン・マインドを先述しており、シェイクスピアもびっくりの入れ子構造なので、読者は伏線を回収し続けていきます。

拙著エッチだってしたのにふざけんなよでお馴染みの私、あるいはずっと好きだよって言ってたじゃん。でお馴染み八月の大将ぐらいしか、こういうメンタリズム言うんですかね、繊細な心情の機微をお伝えするのが難しいだろうと、ならば解説せねばと決めた訳。これ素人さんが勘違いして模倣犯になったら危ないなと思ってね。服を擬人化するのは良くありますが、あとは歌詞とかプラスワンで合わせればバズる文章書けるんじゃね的な低俗な考えを排除。もうボランティアですよ、啓蒙ですわ、あなたの心の見守り隊みたいなもん。


(とにかく、オレは、気づいたら、夏だった!)彼女のことを好きなのかどうか、未だによくわからない。

彼女のことを好きなのかどうか、未だによくわからない。 これは反語ですね。いや、ない。というやつです。いや、好き。要はこの話ってラブアクチュアリーとかと同じ仕組みなんすよ、別々の話が最後で交差するやつ。そんで重要なのは、最後の一言が一体どの視点、つまりタイミングで語られているのかを見極めること。過去完了(omoide in my head)つまり回想文なのか、それとも現在進行形なのかによって意味合いは大きく変わってくるからね。繰り返される諸行無常 or not。まあ言うて森鴎外の舞姫なんかも述懐スタイルですがゴニョゴニョ。。


いつか慣れる、いつか解決できる、そう考えて伴侶を選ぶと大抵の場合、その一部がとても気になり始める。

この物語に希望があるとするならば、仮にその恋愛が成就したとしても、いずれ破綻してしまう運命と最初から定められている点にある。救いがない。痘痕も靨とはいかないと名言されてるし。最後の8万円のデニムはまっとうな人の感覚では〜と言う箇所からも、エスタブリッシュであることが気になり始めてしまうロジックであるため。ただし、もしかするとそうではなくTATOOあり(と、その背景にある異性関係)なところ、もしくは両方が故かもしれない、と読者に判断を委ねられている点こそがこのブログの文学性の高さであり、我々はゆっくりと味合わねばならぬのだ。


筆者の方とは一切コンタクトせずに執筆した内容となりますので、クレーム等はお受け致しかねます。以上。


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