産学連携を考える(2)

 サービス系の産学連携といえば、当該分野のヘルスケアと観光が2本柱ではないでしょうか。特に、10年くらい前から、スポーツ系、健康・医療系、介護・福祉系の学部や観光系の新たな学部を設置する大学が非常に増えてきています。ここで言う医療系というのは医学部では無く、看護やリハビリ、臨床検査系の領域のことです。医学部の新設は現在、ほぼ無理と思われます。関西でもいくつかの私立大学が医学部新設を試みましたが、結局断念しています。神奈川県の特区にできた新設医学部などは極めてまれなケースであり、ほぼ政策がらみとも言えるのではないでしょうか。また、かつては薬学部設置ブームがありましたが、その後、看護学部の設置ブームが到来しました。大阪圏などでは看護学部の新設が多く、現状、学生や教師の取り合いともなっています。特に看護学部は私学にとっては大きな収益源ともされ、将来の経営基盤強化に向けて新設した大学もあるようです。

 また、かつては、十数年くらい前までは、経済産業省でも現在のような次世代ヘルスケア産業課はまだ無く、医療・福祉機器室といったものでありました。当初は健康サービス産業といっても鼻であしらわれた時代でもありました。初めて健康サービス産業として競争的資金(補助金)が公募されたのは、確か2002年前後であったかと思います。その当時と比較すると現在の状況は、よくここまで中央行政も変化してきたものだなと感慨深く思ってしまいます。現在は次世代ヘルスケア産業協議会なるものが創設されていますが、当時は確かNPO法人であったと思いますが、健康サービス産業協議会(確かそんな名称だったかと)通称:JAHIOという組織が経済産業省主導で設立され幾つかの大企業も会員として参画していましたが、今では、その痕跡さえ見当たりません。ネット検索をしても見つかりませんでした。

 ここでは、観光分野については触れませんが、ヘルスツーリズムなどは健康と観光の組み合わせであり、メディカルツーリズムは医療と観光の組み合わせです。特にヘルスケア産業を国が振興・支援するサービス産業の中軸の1つとして位置付けることで、医療・福祉的な要素も強まり、サービス産業分野における産学連携が萌芽し、成長するきっかけになったとも言えるかもしれません。

 サービス系の産学連携では、これまで工学部が中心であったモデルから、医学部や看護学部、そして文学部に配置されることが多い心理学科やその他の文系学部もクローズアップされるようになってきました。(余談ですが、心理学科が文学部等の下に設置されるのは日本独特のようです。米国では工学系に分類されているようです。)

 特に、モノづくり系ではない難しさとは、その知財の取扱いでしょう。前述したTLOが活躍しにくい領域である反面、フィールド実証をコーディネートしたり、附属病院との調整を行ったりする医工連携専門のコーディネーターの必要性が高くなってきています。連携する企業もこれまでのメーカー系だけではなく、フィットネスクラブや民間病院、調剤薬局グループ、旅行業、住宅産業、電鉄・まちづくり系デベロッパーなど非常に多彩になってきています。

 そもそも産業構造が自動車産業のようにピラミッド構造になっておらず、ジグソーパズルのように組み合わさっている為、単純な産学連携やビジネスマッチングでは解決できない課題が沢山あるのは当初から予測できていたとも思います。現在でもその傾向は悪い意味で継承されており、未だに、TLOとかビジネスマッチング、伴走支援等といったモデルでヘルスケア分野における産学連携や産業支援施策を方針として打ち出している地方自治体も多いのが現状です。これでは、たぶん10年やってもほとんど成果はでないでしょう。産業分野が異なるのはもちろんですが、そこに関わるヒト(様々な国家資格者、職能・職種等)の意識、メンタリティ、思い等を理解できない限り、産学連携やビジネス創出支援はエコシステムとして定着できないと思います。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?