ヘルスケア分野における「デジタルヘルス」領域の位置づけ

 前章で言葉の定義をしました。「ヘルスケア分野」を1つの産業分野として位置づけ、自動車産業や住宅産業、家電産業、食品産業等と並列するものとしてヘルスケア分野(ヘルスケア産業)を定義づけしました。なお、ヘルスケアは横串コンセプトでもあり、自動車産業や住宅産業、家電産業、食品産業等においてもヘルスケアというコンセプトは随所に取り入れられるようになってきています(いわゆる横串コンセプト)。なので、ヘルスケア分野は他の産業分野に比較すると非常に多種・多様・多層・多軸構造の産業分野だとも言えます。このあたりがヘルスケア分野の特殊性とも言えます。

 ヘルスケア分野とは、「健康・医療・看護・介護・福祉」すべてが包含された分野であり、さまざまな分野・領域、ヒト・モノ・コト等に密接に連携・関係しながら人々の健康寿命延伸に役立つことのできる製品やサービスを創り、供給する(提供する)産業分野であるとまとめました。

 では、そのヘルスケア分野におけるデジタルヘルス領域とは何をさすのでしょうか。これまで、ヘルスケア分野の中でも医療に関する部分については、いわゆる情報化が進展しており、電子カルテやレセプトを筆頭にRIS、PACSなどの医療画像系システムやオーダーリングなどの診療管理系システム、健診システム等が20年以上も前から大病院を中心に導入が進んでいました。では、そのようなシステムはデジタルヘルスの領域に入るのでしょうか。

 いろいろ他のレポート等も調べてみたのですが、含めているものもあれば、含めていないものもありました。どうも見えてきたきた事は、それがシステム化、デジタル化されていても、その存在(利活用モデル)がデータ駆動型か否かで別れる感じのようです。例えば、レセプトシステムであっても、それが単なる請求書発行システムのような位置づけであれば、手作業の合理化の1つであり、ハンコが無くなった程度といえるでしょう。一方、そのレセプト情報から新たに病院経営に資するヒントを創出するような分析や、それを受けてのアクション等がからんでいた場合、データ駆動型のレセプトシステムになっている、とう感じかな〜と思っています。この部分はいろいろ違ったご意見もあるかと思います。

 デジタルヘルスという言葉が、最近、バズワードのように使われ、メディア等の至る所に見受けられるようになってきていますが、デジタルヘルスって何?と尋ねられたら、ヘルスケア分野のさまざまな部分で、人々の健康寿命延伸に資するベネフィットを提供することができるデータ駆動型のサービスモデル、とでも定義しようと思います。なので、データ駆動型となってくると、Society5.0で提唱されているような社会で提供されることになるヘルスケアモデルという感じにもなってきます。第4次産業革命とも言われている今、デジタルヘルス領域はもっと広範囲になると思います。一方で、デジタルヘルス化ができない部分、いわゆるヒューマンタッチ領域は、これまで以上に価値の高いサービスとして再評価されるべきでしょう。例えば看護や介護など。

 あと、ビジネス開発に携わる方々に注意して欲しいことは、デジタルヘルスといっても、その成功ベンチャー企業とされる多くは、メディカル領域に立脚しているということですね。健康・予防医療が大切であることは間違いないのですが、実際に上手く収益モデル化しているのは医療に密接に関係している部分です。遠隔診療(オンライン診療)やデジタル治験など、医療・創薬関係のデジタルヘルス・ベンチャーの元気が良いように見受けられます。実際、この領域では医師の起業も増えてきています。

 また、デジタルヘルス領域の中にも、デジタルヘルス部門とデジタルメディカル部門、デジタルケア部門などの認識があっても良いのかもしれません。いささか乱暴な分類ですが、下記の3つに分類してみました。

(1)デジタルヘルス部門
 健康維持・増進・管理等、そのサービスモデルは何ら公的保険とは関係しておらず、個人の選択に基づいて提供されるサービスモデル。なお、最近では民間保険会社との連携モデルが注目されはじめています。

(2)デジタルメディカル部門
 創薬、遠隔医療、あるいは治験等、そのサービスモデルが公的医療保険の世界、創薬や医療機器等、従来からの医療産業の世界に深く結びついているサービスモデル。そこで活躍する職能者の方々に密接に関係しているモデル。薬や医療機器等、従来からの医療産業の世界に深く結びついているサービスモデル。そこで活躍する職能者の方々に密接に関係しているモデル。

(3)デジタルケア部門
 介護・福祉、見守り等、そのサービスモデルが公的介護保険の世界、そこで活躍する職能者の方々に密接に関係しているデジタルヘルスモデル。まちづくり系サービスとの連携も目立ってきています。
 
 頭の整理の仕方としては、例えば、ヘルスケア分野―デジタルヘルス領域―デジタルヘルス部門、ヘルスケア分野―デジタルヘルス領域―デジタルメディカル部門とかの考え方整理になります。こうして整理して考え、市場分析を重ねていくと、自分(自社)のアプローチは市場においてどの部門に属し、その現状はどのようになっており、今後どうなっていくのかが、分析し易くなるのではないでしょうか。

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