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戦争に反対する唯一の方法は


戦争に反対する唯一の方法は、
各自の生活を美しくして、
それに執着することである。

吉田健一(出典は曖昧ですが、この文が含まれるコラムは全集にしか入っていないようです)

私ひとり何をしていても、世界は何も変わらないような気がしていました。でもよく考えると、最初に何かが変わらなければ、大きな変化も小さな変化も起こらないはずです。どこかの国で蝶が羽ばたくと、いずれそこから遠く離れた島でハリケーンが生まれる。という話を聞いたことがあります。変化のはじまりなんて、どんなに大きなことでも、はじめはそんなものなのかもしれません。

 『世界がもし100人の村だったら』という本があります。タイトルの通り、世界中の人口を(刊行当時63億人)100として、その1%を100人の村の中の1人と置き換えてみるという、誰にでもわかりやすい方法で、淡々と世界の情勢が提示されています。世界には教育どころか、まともな食事すらとれない人がたくさんいるのだと聞いても、その人たちが見えない場所にいると、自分たちには関係のない出来事のように感じてしまいます。しかし実際にはそうではありません。

 たとえば、100人の村の人たちが、100人とも、ハンバーガーしか食べなかったとすれば、食べ物を売るお店はもちろんハンバーガーショップだけになり、飲食の仕事に就く人は、全員ハンバーガーショップで働くことになり、生産される食料は、ハンバーガーの材料になる小麦や野菜、牛肉などの農産物や加工品だけになります。人々が値段の安いハンバーガーを求めれば、値段の安いハンバーガーショップが増えることになりますが、コストを抑えるために、手間を省いて、コストを下げる方向に企業努力が進みます。 従業員の給料や原材料の仕入れ価格も据え置かれることになり、人々の収入も下がります。安い食べ物を買って節約したつもりでも、人々はかえって貧しくなる一方です。

 そんな風に考えてみると、私たちが普段、商店やスーパーで何を選ぶか、という何気ない行為にこそ、世界を変える力があることがわかります。 少しでも安く買おうとする買い手がいれば、少しでも安く作ろうとする生産者がいます。少しでも誠実な品物を求めようとする買い手がいれば、少しでも誠実な品物を作ろうとする生産者がいます。ただそれだけのことなのです。

 店に売られている物の向こうにある見えない人々の暮らしぶりを、少し想像してみるだけでも、何かが変わるような気がしています。
(2018.10.19 うずまき新聞コラムより)

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