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老婆と虫

誰だ俺の頭を踏むのは!
しかもドシンドシンと力の限り踏みつけてる。
痛いような気もするがわからない。
と、ここで目が覚めた。

俺はカメムシになっていた。
記憶は人間のままだ。羽根があるな。飛んでみよう。

衝動のままに飛び始めると古い民家があった。
カメムシだからか古びた自然の残る家に引き寄せられたのか?
中に婆さんが1人いる。
俺はからかってやろうと二の腕にとまった。

「やだ!虫!」婆さんは払い除けるが反対の腕に着地。そして人間の言葉で話しかけた。
「よぉ、婆さん」
「私も歳をとったねえ、幻聴かい」
「違うよ、俺だ。カメムシ」

婆さんは目を丸くして俺を見ている。
「カメムシのくせにしゃべる奴か、年取るといろんなもん見つけるねぇ」
「あまり驚かないんだな」
「そりゃあ伊達に年寄りやってないよ」

俺が黙ると婆さんはとんでもないことを言いはじめた。
「おいお前、ATMで貯金おろしてきて」
「この足じゃ押せねーよ!」

役立たずと思われたくなくて力んだら臭いヤツが出ちまった。

「臭い!臭っ」
「悪い。出来ることはしてやるよ。羽根もあるしな」
なら話し相手をと頼まれた。
「あれは200年前のことだ」
婆さん、人間なのか?仙人か?

かくしてその信じられない話は始まったのだ。

【続く】

#逆噴射小説大賞2021

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