集合2

LINEスタンプをつくったときの論文

以下、2017年の元旦に発表したLINEスタンプに関する論文です。

※収録されている内容は、文章の執筆年代・執筆された状況を考慮し、執筆当時のまま掲載しています。とくに「LINEスタンプの起源はラスコー洞窟壁画である」「日本でLINEスタンプを最初に使ったのは織田信長である」といったくだりは現在の研究ではほぼ否定されており、LINEスタンプは2011年10月にNHN Japan株式会社(現:LINE株式会社)によってリリースされたという説が有力となっています。

『相好を異にした犬と象を主とするLINEスタンプの制作及び考察』

目次

第1章 緒論
1−1 研究背景
1−2 研究目的
1−3 構成

第2章 LINEスタンプの概要
2−1 LINEスタンプの特徴
2−2 LINEスタンプの歴史
2−3 LINEクリエイターズスタンプ

第3章 制作
3−1 制作意図
3−2 制作方法
3−3 制作内容
3−4 LINE(株)側の見解
3−5 考察

第4章 総括

謝辞

参考文献

第1章 緒論

1−1 研究背景
 LINEスタンプとはLINE (株)が提供するSNSアプリ『LINE』においてイラスト、場合によってはイラストと文字で感情・意志を表現するツールである。LINEスタンプは誰でも制作・販売ができる。しかし、近年その数が増えすぎている。

1−2 研究目的
 歴史的観点から多角的に調査研究しLINEスタンプへの理解を深める。その後、数が増えすぎている現状を調査し理解を深める。調査結果を踏まえて、実際にLINEスタンプを制作・販売することによって、さらに理解を深める。その結果を考察し、理解を深める

1−3 構成
 1章では研究背景、目的についてほんのり述べた。第2章ではLINEスタンプの特徴、歴史、そして現状について述べる。第3章では2章を踏まえ実際にスタンプの制作を行い、考察する。第4章で総括する。

第2章 LINEスタンプの概要

2−1 LINEスタンプの特徴
 LINEスタンプ(以下、スタンプとする)とはLINE(株)が提供するSNS(ソーシャル・ネットワーキング・サービス)であるLINEで用いられるコミュニケーション手段の一つである。近年、LINEは私たちの生活における端末コミュニケーションにおいて重要な位置を占めるようになった。LINE利用者数は国内だけでも6800万人(※2018年現在は7300万人)を超えており、日本人の半数以上が利用するほど重要な位置を占めるアプリであることがわかる。スタンプはキャラクターのイラストや文字でコミュニケーションを行うことができるツールである。スタンプは特定の個人とメッセージのやりとりを行う本アプリにおいて重要な位置を占めている。

2−2 LINEスタンプの歴史
 歴史上最古のスタンプはラスコー洞窟の壁画と言われている。石器時代のクロマニヨン人たちは洞窟の壁に顔料を用いて馬や牛の絵を描くことでメッセージを伝えあっていた。当時の洞窟では特定の集団が決まった部分の壁にメッセージを描く暗黙の決まりが存在し、それが今日の「LINEグループ」の起こりになった。入学したての大学生が妙なテンションで知り合ったばかりの同級生と無駄なLINEグループを作ってしまう文化もこの頃からあるという。

 日本には16世紀半ばに始まった南蛮貿易によって伝わったことが判明している。伝わった当初、スタンプは職人の手でひとつひとつ手作りされていた。技術が浸透してくると線画、着色、筆耕の三職分業体制がとられ、生産の効率化が図られた。また、日本で初めてスタンプを使ったのは織田信長と言われている。織田信長はスタンプを大変気に入り、誰に対しても昼夜を問わず大量のスタンプを送りつけるため、家臣の間では大変不評だった。さらに、文脈に沿わないスタンプを大量に使う、そのくせ上洛のしらせをスタンプひとつで済ませる等、素行の悪さを老臣たちにしばしば諌められていた。とくに明智光秀は「酒宴の最中、その場にいない人間に(スタンプを)送るのは素面の相手を確実に不愉快にさせる」と痛烈に批判、信長を炎上させた。このようなことから尾張の大名や武士たちはスタンプにあまり良い印象を持たず、結果として国内におけるスタンプの流行は小規模にとどまった。送るためにかかる資金と手間も相まって不発に終わったスタンプの流行であったが、これは楽市楽座や撰銭令に次ぐ織田信長の経済政策だったのではないかとする説もある。

 スタンプは戦国〜安土桃山時代の長い揺籃期を経て江戸時代に漸く流行の兆しを見せた。その理由として、飛脚が登場したこと・紙の生産量向上による価格低減によって上〜中流階級の間でスタンプが使われ始めたことが挙げられる。スタンプの描画方法も絵師による手描きから版行(絵を掘った木に墨等を塗り、紙に押し付けて刷る手法。はんこの語源でもある)へと移行し、短時間でより多くのスタンプを送ることができるようになった。スタンプを刷った書状を運ぶ専用の飛脚は版飛脚と呼ばれ、江戸の町民にもてはやされた。スタンプが流行しだすと、江戸幕府は「キリシタン狩り」と並行して「未読無視狩り」「いつまで経ってもLINEスケジュールに何も書かない人間狩り」を施行し、数多くの該当者を処罰した。

 同じ時期に海外、とくにヨーロッパでは市民の日常にLINEが広く浸透し、人々の生活に寄り添うツールとなっていた。フランスではルイ14世が「グループLINEで誰かを退出させることで笑いを取ろうとするの、全然おもしろくないからやめたほうがいいよ」というオランダの苦言に逆上し宣戦布告、スペインや神聖ローマ帝国を巻き込むオランダ侵略戦争へと発展している。

 このように2000年にハンゲームジャパン株式会社(現:LINE株式会社)が設立される以前から洋の東西を問わずLINEの関わる歴史は事欠かなかった。そしてスタンプも同様に、国内外の混沌とした文化の中で醸成された産物であった。

2−3 LINEクリエイターズスタンプ
 LINE クリエイターズスタンプ(以下、クタンプとする)は利用者個人、法人でもオリジナルのスタンプ(以下、オタンプとする)を販売できる制度である。クタンプは「誰でもクリエイターになれる」というコンセプトの元、2014年4月に開始された。このクタンプによってLINEは「クタンプでオタンプを販売したい」というクリエイター層を取り込み、私たちの中でさらに重要な位置を占めた。

1−3 LINEクリエイターズスタンプの問題点

 こちらのグラフを見ていただきたい。

 そして、忘れていただきたい(とくに意味はないので)。

 さて、リリースから時間が経つにつれ、クタンプは利点と同時に問題点も露呈し始めた。それは「数が増えすぎている」という点である。開始当初のオタンプは500種類ほどで、あるクタンプで一個人が1000万円の利潤を生んだ、クタンプで生活が一変したといったニュースが巷を賑わせた。それを聞きつけ自分も甘い蜜を吸おうと人々が群蟻のようにクタンプ市場に集まり、その種類は爆発的に増えた。「誰でもクリエイターになれる」というクタンプの利点がそのまま仇となり、「下手うま」「シュール」の名の下、30秒で描いたようなオタンプ(以下、クソタンプとする)でクタンプ市場が溢れかえった。これが俗に言う「臭い(201)がゴ(5)ミ」の語呂合わせでおなじみの「クソタンプ飽和事変」である。LINE(株)側も制作・宣伝の部分をノーコストで抑えて利益が得られることもあり、不特定界隈から訴訟が来ないレベルの最低限の審査を通すだけでオタンプの質には関与していない。もちろんクオリティの高いオタンプ(以下、クオタンプ)も多いが、とにかくオタンプの種類は今や30万(※2018年8月現在は100万)を超え、クタンプ市場は玉石混淆の様相を呈している。この「クタンプ市場にクソタンプ、クオタンプが入り混じる状態」のことをスタンプの有識者(以下、ユタンプ)たちは親しみをこめて「クソ状態」と呼び、忌避している。ユタンプによるとこの「クソ状態」はここ2年間ほど続いているという。

第3章 制作

3−1 制作意図
 本研究でオタンプを作ることは私の手でクタンプ市場にオタンプという名の一石を投じることを意味する。つまり私は本研究で飽和したクタンプ市場に跋扈するクソタンプを一網打尽にするレベルのクオタンプを作り上げ、この「クソ状態」を打破し、クタンプ市場の質をクタンプ黎明期にまで引き上げる。

 というような働きかけは一切行わない。本研究ではただオタンプを作る。そして何かをいい感じに考察して、終わる。ここで言っておくと、オタンプを作る人間は3種類しかいない。ちょっとした小遣いが欲しい人間、承認欲求を充したい人間、そして本当に使いたいスタンプにまだ出会えていない人間である。私は全部である。よって制作目標は以下の通り。
「今までにないかつ自分が使いたいスタンプ(クソタンプでない)をクタンプ市場に売り出す」

3−2 制作方法
 スタンプの制作はAdobe Illustratorというソフトを用いた。制作期間はラフを描き始めてから完成まで2年と少しかかった。本ソフトを用いた理由はちゃんとした線を描きたかったからである。Adobe Illustratorというソフトは、仕組みはよくわからないがなんだかいい感じの線が引ける。

3−3 制作内容
 私が制作したスタンプ(以下、ワタンプ)は全部で40種類である。ここではその中から3章冒頭で述べた「今までにない」「自分が使いたい」スタンプを中心に10種類を紹介する。「今までにない」の基準はまったくの主観であり、推定である。そろそろ気付いている人もいるかもしれないが、この記事は論文の体裁をとった只の随筆である。客観性の介在する余地はない。

1.「肯定する犬」、「否定する犬」

 1セット40種類のスタンプには肯定と否定を示すスタンプの2種類が含まれているのが一般的である。意思表示の最小単位がその2つだからである。ワタンプも例に漏れない。しかし、従来のスタンプと違う点がある。画像を見て欲しい。そう、「OKとNGのポーズが一緒」なのである。両手で×印をつくりながら「OK」というスタンプは今までにないと思う。おそらく。

2.「肖像権の尊重を訴える犬」

 自分の写真を勝手にLINEグループで流されたことはないだろうか。このスタンプはそのようなケースにおいて絶大な効力を発揮する。満面の笑みで「肖像権」と書かれた半紙を掲げる犬のスタンプは「私の写真を勝手に貼るのはやめてね」「出るとこに出てもいいんだよ」「次に会うのは法廷だよ」というメッセージを相手にさりげなく伝えることができる。

3.「地下の研究所で緑色の液体で満たされたカプセルに入った犬」

 ついに突き止めた敵アジトの地下研究所、そこには謎の液体の入った巨大なカプセルが林立していて───。そんな状況を示すためのスタンプを制作。物語の終盤ではガラスを突き破って中からかつての味方が……。そんなスタンプ。「睡眠」「休息」「養生」を示すのに適している。

4.「17という数字に驚く犬」


 そういえば17という数字に驚くスタンプって見かけないな?と思い作成。使えるタイミング:「急で悪いけど17日でお願いします」「今日、男側の参加者17人らしいよ」「帰り31行かん?」以上。

5.「愛を必要としない象」

 ユタンプが実施、集計を行った「困るスタンプランキング2018」男性部門堂々の1位、「意識されていない異性から送られるハートのスタンプ」。(ハートが)かわいいからという理由で何気なく使われるスタンプは、時として思春期の青少年を悩ましい懸想の迷宮へ陥れる。そこに特別な感情は一切込められていないことを知り少年はひとつ大人になる。人間はメールの絵文字の時代から、もしかすると壁画の時代から同じことを繰り返している。
 このスタンプは相手から放たれたハートをひっつかんで容赦なく打ち捨てる。愛など必要ない、ここにあるのは戦いだけ。常在戦場の気構えを持った戦士のためのスタンプである。

6.「出家した犬」

『家を出た』を『出家した』に言い換えるの、どう?
ん?どう?

 そっか。


7.「アフタヌーンティーを楽しむ犬」


 優雅な午後のひとときを楽しむ犬のスタンプ。腕時計を確認していることから、遅刻する相手にプレッシャーを与えるために送るものとして使える。また、自分が遅刻する際にこのスタンプに「遅刻します」という文言を添えてもよい。

8.「通信ケーブルを持参する犬」


 友人の家へ遊びに行くときに欠かせないものはなにか?それは通信ケーブルである。モンスターを交換したりレースで競い合ったりと通信ケーブルはなにかと入用である。通信ケーブルを持つ者は仲間たちから一目置かれ、賞賛を浴びるだろう。

9.「これなーんだ?」


 影絵。その名の通り、影絵に「これなーんだ?」という問いかけを添えたスタンプ。「わかる」「それな」といった脊髄反射で言葉を投げつけあう脳死コミュニケーションのスパイスとして使用すれば会話が実りあるものとなるだろう。

これなーんだ?
うーんなんだろう。うさぎかな?
ブッブー。ちがいまーす。
えー。ねーねー答え教えてよー。

10.「パーム」

 パームの握りである。

 パームとは変化球の一種で球速が遅く縦に大きく沈む球種である。パームの握り方がわからない人にもこのスタンプを送れば「元ソフトバンクの帆足が投げてたやつだな」「速めのインハイと併せるのが効果的だろうな」と一目で理解できる。たいへん便利なスタンプである。

3−4 LINE(株)側の見解

 クタンプではオタンプ販売開始前に必ず審査が行われる。その際に不適切なものが含まれていた場合リジェクト(修正要求)され、対象のスタンプを手直しなくてはならない。リジェクト対象となるものはガイドラインに明記されている。その筆頭は「日常会話で使用しにくいもの」である。
 前項では10種のワタンプを紹介した。これらは日常会話で使用しにくいとLINE(株)側が判断しそうなギリギリを攻めてみた。わざとそうしている。ワタンプの中でリジェクトされたもの、そうでないものをここで紹介したいと思う。これからオタンプを作りたいと考えている方々は制作の目安にしていただきたい。それではワタンプ40種に対するLINE(株)側の見解を述べる。



「宗教要素が強いの(6.出家した犬スタンプ)はNG」

以上である。

3−5 考察

 困る。純度100%の冗談でつくったスタンプが軒並み通ってしまった。リジェクトくらったときのために再提出用の無難なスタンプまで用意したのに。
 リジェクトしてくれ。「おつかれ」とか「おめでとう」とか無いじゃん。考察は「LINEの人は寛容」とかでいっか。ちなみに出家した犬スタンプは「元気よく返事をする犬スタンプ」という超無難なものになった。

第4章 総括

 本研究ではLINE(株)の審査は結構ゆるいことがわかった。
ともあれ一生懸命つくったスタンプなので以下のURLからぜひご覧いただきたい。価格は120円。キャベツ太郎が5、6個買える値段である。かなり強気の価格設定なので油田を掘り当てたら買ってほしい。


https://store.line.me/stickershop/product/1366338


謝辞

買ってくれたひと本当にありがとうございます。
キャベツ太郎を5、6個おごります。

参考文献
『LINEスタンプの歴史』民明書房 (2006)


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わたし「っていう卒論なんですけど」
教授「だめです」

(おしまい)

犬のおやつ代