上野千鶴子さんの東大の入学式での答辞への批判(2019.4)

2019.4.16のFacebookより

https://www.facebook.com/100000734393542/posts/2384391081595348/?d=n


上野千鶴子さんの東大の入学式での答辞が話題となっていますね。
私の感想は「うわーさすがw」。
この「さすが」は称賛の「さすが」ではなく、ちょっと引き気味の「さすが」
というのも、上野さんは社会の流行とか、聞き手が聞きたいことに合わせて話をするのがとてもうまい人だなと感じてきたからです。
マジョリティが自らの加害性に向き合う必要がない程度に軽く批判めいたことを交え、「社会問題考えた」感を引き出す感じw
議論もすこーしずつずらしていくので、マイノリティ側からの批判もうまく届かない。

特に私が「さすがw」と思ったのはここの部分です↓(強調しておきますがこの表現を批判的に使用しています)

「女性学を生んだのはフェミニズムという女性運動ですが、フェミニズムはけっして女も男のようにふるまいたいとか、弱者が強者になりたいという思想ではありません。フェミニズムは弱者が弱者のままで尊重されることを求める思想です。」

最近、フェミニズムやジェンダーの勉強をしたいと言ってくれる(私より)若い方たちの傾向を見ていると、「女は差別されている!」と声高に叫ぶことへの抵抗があるように思います。
(「抵抗」というか「恐怖」のようにも思えます。女の子が持つパンドラの箱みたいな。これに気が付いちゃったら後戻りできないみたいな)
「フェミニスト」は恐い人たちと思っていたけど、少し勉強してみたら自分が知りたかったことがたくさん出てくる!みたいに言ってくれる方たちの中でも、「でも男の人もいろいろ大変だよね」というように一歩引いて見てみる、「思いやり」に溢れる方たちが多い気がします...。
なので、「フェミニズムはけっして女も男のようにふるまいたいとか、弱者が強者になりたいという思想ではありません。」という言葉はフェミニズムへの敷居をさげる、まさに最近の若者たちが望んでいる表現だと思います。

問題は次です。
「フェミニズムは弱者が弱者のままで尊重されることを求める思想です。」
この定義は大問題だと思います。

私はフェミニズムはフェミニズムズである、つまり多様なアプローチがありうると考えていますが、
その核心は「性別や性的指向にかかわらず誰もが自分らしく生きられる社会を目指すこと」にあると考えます。
そのため、女性でも男性でもそれ以外の性を持つ方でもフェミニストになりうると思いますが、突き詰めて考えていったときにジェンダーをまとって暮らして来たこれまでの経験故、社会的にあてがわれてきた性別によってフェミニズムやジェンダーへの考え方が違わざるを得ないと思います。

ベル・フックスはフェミニズムを「性差別をなくし、性差別的な搾取や抑圧をなくす運動」(『フェミニズムはみんなのもの』14頁)と定義していますが、一見するとジェンダー中立的な定義とは裏腹に「性差別」を突き詰めていくと家父長的で男性中心的な社会の在りようと出会うことになります。
最近の本ではチママンダ・ンゴズィ・アディーチェ『男も女もみんなフェミニストでなきゃ』も人気ですよね◎

「弱者が弱者のままで尊重されることを求める思想」と、
「性別や性的指向にかかわらず誰もが自分らしく生きられる社会を目指す」もしくは「性差別をなくし、性差別的な搾取や抑圧をなくす運動」
よくよく見て、考えてみてください。前者と後者は一瞬同じように見えるかもしれませんが、実は全く異なります。
強者と弱者が存在する世界で「弱者」を「弱者」のまま放置することはフェミニズムの思想とは異なります。むしろそのような世界の在り方を問わないまま「弱者のままで尊重」することは、強者と弱者の社会的位置を固定化し、差別を温存・助長することにつながるように思えて仕方がありません。
(というか上野さんが大好きな「エイジェンシー」はどこに行ってしまったのやら)

さらに、前段の「女も男のように~」の部分と合わせて読んだとき、家父長主義的な方々がよく行う「フェミニスト」へのレッテル張りに、上野さん自身が加担しているように思えてなりません。

答辞としては良く出来ているかもしれないけれど、フェミニズムをジェンダー研究の大家と言われる人がこのような扱いをするということに、困惑を隠しきれない、というのが結論です。

(ちょこっと書こうと思ったらやたらと長くなっちゃった)

〇2冊とも入門書ですがおすすめです!
ベル・フックス(2003)『フェミニズムはみんなのもの』
チママンダ・ンゴズィ・アディーチェ(2017)『男も女もみんなフェミニストでなきゃ』
(TEDのスピーチがもとになっています →https://www.youtube.com/watch?v=S6ufvYWTqQ0)

〇上野さんの答辞も貼っておきます。
「がんばっても報われない社会が待っている」東大の入学式で語られたこと【全文】
https://www.buzzfeed.com/jp/saoriibuki/tokyo-uni

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