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ズーカラデルの世界に触れて


ズーカラデルという、北海道出身のバンドがいる。


おとぎ話の世界にいるような、私が生きる世界とはひとつ違う場所にいるような、ふわふわしていて、暖かくて、一つひとつの言葉をたいそう大切にしているバンド。
2019年の3月、歌舞伎町の地下にて初めて彼らを生で見て、「zooから出てきました、ズーカラデルです」なんてボーカルの吉田さんが言うのを聞いて、ふふふ、と和んだあの空間をまだ私は覚えている。
ほわんとした自己紹介とはまた違って、演奏は迫力があってそれでいて軽やかで、ベースがぐいんぐいん効いていたことも。

初めてライブを観てから、事あるごとに音源を聴き、彼らが初めてアルバムを出した2019年夏にはいっそいでタワレコに走った。
いっそいでとは言うけど、大学4年夏の試験が終わってからその足でタワレコを目指したんだけど。
赤いジャケ写のアルバムを手にして、あぁ、嬉しいと微笑んだ7月。隅田川花火大会を1週間後に控えた頃だった。
当時の試験には無事に合格して、あの頃は考えもしなかった街で、あの頃は思いもしなかった人々と働く今の私がいる。



時は流れて2023の春。4月のある夜、あれは孤独感に押しつぶされそうな夜だった。
彼氏と別れて3回目の火曜日、ちゃんと悲しい火曜日を過ごして、自分には何もない、自分を気にかけてくれる人はもういない、とひたすら苦しくて、まあそれを選択したのは私なのに、自分の決断に後悔しかなくて、もうやってやれない夜が一晩だけあった。
苦し紛れにTwitterを覗くと、ズーカラデルが全国ツアーについて触れている。数日間自分のことで精一杯で、ライブ情報が目に入って来なかったようだ。
一次先行がそろそろ始まるらしい。まるで宇宙探索をするかのような名前を引っ提げて、各地を回るらしい。どうやらこの近くにもいずれ来るらしい。
私の住む街から車で片道4時間…と脳内でちょろっと計算してすぐに、(行かなきゃ…)という使命感に襲われた。
片道4時間かけてでも行かないと、私、夜の長さと一人の惨めさにやられる気がする…と直感的に思った。



ということでライブに行ってきた。


とっておきの4時間ドライブから始まる。海岸線に沿って走りながら、もちろん車内はズーカラデルのランダム再生。
きっとこのミニアルバムをベースに展開するだろう。
でも、あの曲を聴かなきゃ私成仏できないかも…。
なんてあれこれ想像しながら楽しくなる。
そして、普段よりも3割り増しで彼らの歌詞に注目して聴いているうちに、自分でもわからないタイミングでじーんとなったりもした。泣くのはまだ早いだろうよ。

ライブはあっという間だった。
吉田さんの口から生まれる優しい言葉と、軽やかで羽が生えたようなリズムと、3人が纏ったあたたかさに浸った。
(終わらないで…ずっと歌っていて…)と念じる私がいた。
ズーカラデルの魅力は一言では言えなくて、でも決して「一言では言えない」で片付けていいものではない。
彼らはきっと、社会の「輝き」と「輝かないもの」を両方見てきて、
「生きてて良かったと思える日」と「もう最悪な日」と「どちらでもない日」を生きてきたはずだ。
窓辺に花を置いたことがあって、後々枯れてしまった花を見て、花を飾る行為に意味なんてなかった…と打ちひしがれた日だってあるはずだ。
その上でこう言葉を紡ぐ。「歌うよ、意味ないけど」と。

ライブ中のMCで吉田さんが言っていた、「この世界で一番美しいのは、叶わなかった恋だと思います」というひと言。
その後に演奏したラブソングにはこんなサビがある。

グッバイマイガール
優しい人 忘れてもそのまま
あいも変わらず
またあなたの歌をつくった

ラブソング / ズーカラデル


「叶わなかった恋」で物語は終わらず、その翌日にも生活は続く。区切りよく映画みたいな綺麗なエンドロールなど流れない。翌朝からスッキリした頭で新しい人生をスタートできる生き方と、そうではない生き方がある。
そのことをよく分かっている。
大切な人を見失っても、相も変わらずにその人を歌う日があるのだ。
叶わなかった恋・届かなかった思いに触れながら生きていくその表情を「世界で一番美しい」と評する彼らの世界線が、たまらなく愛おしい。
pcの謎システムに翻弄されて時間を奪われたり、(ボスより前に出て対応してしまった…私がでしゃばるシーンじゃなかった…)なんて何が正しいのか分からない落ち込み方をしている私が生きる世界とは別の、きっとひとつ隣のパラレルワールドに生きているであろう彼らに、
(どうかそのままでいて…)と願う。

彼らの楽曲はひとつずつがまるで絵本のようで、歌詞を噛み砕いて噛み砕くほどに、音の重なりを聴こうとすればするほどに、優しい世界を感じる。
好きな曲がたくさんある。
たくさんあるうちの少しだけ、引用する。

今週末で終わらせよう
秘密の苦い論理
甲州街道飛ばしてよ
ヘイ!タクシー! どこでもいいから

どこでもいいから /  ズーカラデル

とても優しい人とは言えない
別に酷いやつってわけでもない
ただ 確かにあなたは美しい
見た目ではないところで

正しかった人 / ズーカラデル

裸足で蹴飛ばした靴の行方が
僕らの全てで あとは忘れた
あなたが溢した言葉が今も
僕を飼い慣らしている

ダダリオ / ズーカラデル

(この詩が素敵2023)


ライブハウスに入る時にドリンクチケット2枚を買い、2本のレモンサワーとすぐ交換した。
ライブが始まるまでに1本、ライブ中にもう1本のサイコ〜なペースで飲んで、音楽に触れて、ズーカラデルの懐の広さに目を潤ませた。
ライブが終わって適当に入った居酒屋のカウンターでまた飲み直して、翌日、また4時間ドライブで帰る。
晴れた海はとっても青くて、穏やかで。月曜日なのに知らない海にいるなんてもう逃避行そのものだった。


帰りの車内から流れる吉田さんの声を聞きながらふと気づいたこと。
風が吹かなくたって私、行きたいところに行ける人になった。
今回みたいに自分が望んだ場所までどこまでも行ける羽を、すでに持っていた。
(だから大丈夫だよ)っていう余韻を残して終わるスタンドバイミーも、ずっと前から好きな曲。
そんな曲を好きでいられる私なら、この先もやっていけるっしょ。お守りを握りしめるように心の中でその思いを抱きしめる。うん、なんか大丈夫な気がしてきた。

ほら どこまでも行けてしまうんだぜ
風が吹かなくたって

スタンドバイミー / ズーカラデル


乱筆で申し訳ないですが、ズーカラデルへ愛を込めて

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