「死刑執行の命令は6ヶ月以内」と定めた刑訴法475条2項本文が訓示規定であるとされた裁判例

 たまたま見つけた,意外と知られていないけど興味深い判例を5分くらいで読めるボリュームで紹介するシリーズを始めます。シリーズ名は,まだない。

 初回は,「死刑の執行は法律どおり半年以内にすべきだ」みたいな主張によく援用される刑訴法475条2項に関する判例です。まずは条文を引きます。

刑事訴訟法475条
1項 死刑の執行は、法務大臣の命令による。
2項 前項の命令は、判決確定の日から6箇月以内にこれをしなければならない。但し、上訴権回復若しくは再審の請求、非常上告又は恩赦の出願若しくは申出がされその手続が終了するまでの期間及び共同被告人であった者に対する判決が確定するまでの期間は、これをその期間に算入しない。

 これを素直に読むと,法務大臣は判決確定の日から6ヶ月以内に死刑執行の命令をする義務があるように思われます。

 しかし,これについては,【東京地裁平成10年3月20日判例タイムズ983号222頁】があります(なお,本件は控訴なく確定しているようです。)。

第三 争点に対する判断
 一 刑事裁判の執行は、一般に、その裁判をした裁判所に対応する検察庁の検察官の指揮のみをもってこれを行い得るものとされているが(刑訴法四七二条)、刑訴法四七五条一項が特に、「死刑の執行は、法務大臣の命令による。」と規定している趣旨は、死刑執行という事柄の重大性に鑑み、特に慎重な態度で臨むため、その指揮を我が国の法務行政事務の最高責任者である法務大臣の命令に係らせたものであると解される。
 そして、刑訴法四七五条二項本文は、法務大臣の死刑執行命令は、死刑判決確定の日から六か月以内にしなければならないと規定している。
 思うに、同項の趣旨は、同条一項の規定を受け、死刑という重大な刑罰の執行に慎重な上にも慎重を期すべき要請と、確定判決を適正かつ迅速に執行すべき要請とを調和する観点から、法務大臣に対し、死刑判決に対する十分な検討を行い、管下の執行関係機関に死刑執行の準備をさせるために必要な期間として、六か月という一応の期限を設定し、その期間内に死刑執行を命ずるべき職務上の義務を課したものと解される。
 したがって、同条二項は、それに反したからといって特に違法の問題の生じない規定、すなわち法的拘束力のない訓示規定であると解するのが相当である。

 要するに,刑訴法475条2項の期間の制限は,法的拘束力のない訓示規定というわけです。

 個人的には,(死刑制度への賛否はともかく,)刑訴法の規定と運用とが余りにもかけ離れている上(再審請求等もなく40年以上拘置され続けている例もあります。),この条文を元に色々言う人が出てくるので,規定ぶりを改めて欲しいです。


 本文は以上です。以下,八百選的(=好事家向け)な視点ですので,読み飛ばしてもOKです。
・本件は,死刑確定者が国に対して,6ヶ月以内に死刑を執行しないのが国家賠償法上違法であるとして,本人訴訟で慰謝料5万円等を求めたものです。判決では,上記のとおり,訓示規定である以上,国家賠償法上違法とは評価できないとして,請求を棄却しました。
・原告の主張は「同条の規定は死の恐怖を不当に継続させないところにある」「死刑執行を命じないことが,幸福追求権・思想良心の自由を侵害している」「国際人権B規約6条1項の『何人も,恣意的にその生命を奪われない。』に反する」等というもの。いずれも排斥されています。死刑執行までの期間が確定者ごとにまちまちな現状からすると,国際人権B規約の指摘は一理あるようにも思われます。

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