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大蛇天狗のおはなし

旧土佐山村と土佐町を跨ぐ工石山はかつて不入山とされていた。

あるとき、土佐山村高川の医学生とその友人の学生2人で山を散策したら、祈祷札と見目麗しい大振袖が森の中にあるのを見つけた。

振袖は着古された様子がない真新しい物だったが、雨に濡れたように水がしたたり落ちていた。


よく見れば、何やら血の跡が付いている様子で、その下には大きな蛇のウロコが落ちている。

これを人に見せてやろう、と拾って帰ることにした3人は

「確かに不入山と言われ恐れられるだけの事もある」

と口々に言いながら拾った。

やがて医学生と別れた学生2人は森郷(現土佐町土居)まで行き一晩の宿を取り翌日、また来た道を帰ることにした。

その日は朝から霧が深く見通しが悪かった。
やがて峠の途中まで来るとわずかに霧が晴れた。
2人はそこで昼食を取ることにし、弁当を開いた。


弁当を食べている最中、昨日立ち入った山の方から何やら笛の音が聞こえてきた。

かと思いきや、今度は自分たちのすぐ近くの木の上あたりから笛の音に応ずるかのごとく、太鼓の音が鳴り響いた。

2人は、これはいかん、と慌てて弁当をしまい早歩きでその場を去った。

急いで山を降りるが後ろから追うように笛と太鼓の音が聞こえてくる。

しまいには走るように山を降り、医学生の家が見えてきたので駆け込んで助けを求めた。

医学生の父は事の次第を聞いて驚きを隠せない様子だった。

先程自分も山に入ったが、同じように笛の音を聞いた。という。


これは天狗か大蛇の仕業であるとされている。

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