最悪、会社員になればいいや
「最悪、会社員になればいいや」
おもってすぐにかき消した。
「それじゃ生活はどうするの?」
「いまの仕事はどうするの?ただでさえ迷惑かけているのに」
「会社員のキャリアが断たれたら、一生仕事ないかもしれないのに」
「やめてどうするの、なにかしたいことあるの?」
…..
就職してはじめての帰省。
金額を気にせず、家族におもう存分、お土産を買った。
会社員をがんばっていて本当によかった。
心からそう思えたのは、このときだけ。
いつも仕事にいきたくなくて、休日は溶けるように眠った。
部署異動があれば、これはこれでいい経験だと納得させる。
どこかで見聞きした言葉で、自分をコントロールしていく。
朝つよい粘着テープをはがすみたいに起きあがるときも、納得いかない会社の決定にいやいや手をうごかすときも、ずっとそうだったし、そのくりかえしだった。
わたしは運よく病気になった。
会社を休まざるを得ない状況になった。
いまは以前の生活とはかけはなれている。
だから当時のことを、心を殺していたと、とらえられる。
……
療養して2年半、心を殺すのをやめられるようになった。
なにをしたいか、どうおもっているか。
興味のあることもふえたし、やりたいことも自然とわかるようになった。
きれいな花をみて良いきもちになり、ごはんがおいしくて幸せをかみしめ、家族の帰りをありがたいと思い、ときには健康な一日に涙して生きている。
過去のじぶんに、いつかこんなことを感じられるようになるんだよ、と伝えても、嘘だというとおもう。
むかし「自然をみて感動した」という文章があった。
感受性の高いひともいるんだなぁと、他人事のようにかんじた。
いまは、本当に感動したんだ、と心でおもえる。
理性はこころの麻酔だ。
ビリビリ痺れて麻痺させる。
「あと1日でお休みだから。」
はじめは、ほんのすこしの麻酔からはじまった。
麻酔の回数はふえていく。
だんだん効きづらくなってくる。
麻酔をうつのもうまくなっていく。
より強い麻酔をうてるようになっていく。
そうして心は麻痺していく。
心に麻酔をうつことは、もうしたくない。
社会生活には、理性は必要不可欠だとおもう。
でもそれと引きかえに、心の豊かさを失いたくない。
だから「最悪、会社員になればいいや」とおもっている。
偶然にもそうおもえる生き方をえらべて本当によかった。
本当に運がよかった。
このまま豊かな人生を生きていきたい。
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