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【シャニマス】福丸小糸さんと少女書類偽造詐欺事件について

はじめに

※このnoteは福丸小糸W.I.N.Gコミュのネタバレを含みます。
こんにちは、ときわというものです。一生グレ5-6を往復してますマジで助けてください6で残れません。

ところで皆さん、2022年4月のエイプリールフールの謎解きゲームを覚えていますか?(唐突な導入)
雪山の山荘に集結した25人の探偵のうち誰かが天井努を何らかの方法で殺害したとされる事件で、シャニPになって誰が犯人なのか、どのような方法で殺害したのかを推理するあのお話です。
283プロの25人の探偵さんの一人に、あの福丸小糸ちゃんももちろんいます。

書類偽造詐欺事件?

ここで名探偵小糸ちゃんの解決した主な事件(という設定)で、『少女書類偽造詐欺事件』というのがありました。
もちろんこれは、小糸のW.I.N.G編『ガラスの嘘』にて、小糸が両親に何ら相談することなく親の同意があったかのような外観を作出した履歴書等の書面を283プロに差し入れて、そのまま無断でアイドル活動を実施していたことがシャニPによる福丸家への電話での問い合わせで発覚してしまった話に着想を得たものでしょう。
まさに自分自身の事件であったというわけです。

このコミュの中ではちゃんと親御さんに話していこうねっていうところで丸く収まっていましたが、当時このコミュが出てから現実世界で「福丸小糸 私文書偽造」などというサジェストが出てくるようなお話に発展していき、上記のエイプリールフール企画で公式が「お前達を見てるぞ」というメッセージも兼ねて逆輸入したのだろうという顛末を辿ったと思われます。

頼むからちゃんと相談しようね😭

ところで私、少しばかり法律をかじってきた人間として言いたいことがあるのですが(唐突な自分語り、詳しくはプロフに貼ってあるnoteの他記事を漁ってください。)、文書偽造詐欺なんて名前の犯罪は無く、あるのは有印私文書偽造罪とか詐欺罪なんだということです。それから、少なくとも本件の事案だと詐欺罪(刑法246条1項)が成立するなどという謂れはさすがにないだろと思っている次第です。以下少し書かせてください。

本題

有印私文書偽造について

1.有印私文書偽造(刑法159条1項)・同行使(161条)

(1)構成要件
まず、有印私文書偽造罪(159Ⅰ)の構成要件を確認してみましょう。
条文はなかなか読みづらいのですが、以下のように整理できます。

①行使の目的で・②(偽造した)他人の印章or署名を使用して・③他人の権利義務又は事実証明に関する文書or図画を④偽造する

ことによって成立し、これらの私文書を⑤行使することによって161条の行使罪が成立するという仕組みになっています。なお、偽造罪と行使罪との関係は牽連犯(犯罪の手段又は結果である行為が他の罪名に触れること、ざっくり言えば目的と手段の関係です・54条1項後段)となります。

(2)「偽造」と「虚偽の記載」の違いについて
「偽造」とは、また後述してはいますが、作成権限がないのに、名義人と作成者の人格の同一性を偽ること(後述する無形偽造との対比で有形偽造と呼んでいます。)をいいます。一方で、「虚偽の記載」(刑法160Ⅰ・虚偽作成ともいいます。)とは、文書の作成権限を有する者が内容虚偽の文書を作成することをいいます(こういうのを無形偽造と呼んでいます。)。
有形偽造は、公文書・私文書問わず処罰されるのに対して(154・155・159条)、虚偽作成は、公文書については広く処罰される(156・157条)一方で、私文書については例外的に虚偽診断書等作成罪(160条)という行為主体が医師に限定されているもののみが処罰の対象となっています。

以下、私が受験生時代に内容全部叩き込むつもりで読み込んでた本に書いてある有用な設例を引用しながら、偽造と虚偽作成の違いを抑えておきましょう。

【設例1】Aから10万円を借りたBは、「私はAから甲年乙月丙日を返済期日として10万円を借りました B」というB名義の借用証書を作った。
【設例2】Xは、10万円貸したCが借用証書を書かないので、Cに無断で、「私はXから甲年乙月丙日を返済期日として10万円を借りました。 C」というC名義の借用証書を作った。
【設例3】Xは、Aから100万円を借りていたにも関わらず、借用証書に「私はAから甲年乙月丙日を返済期日として10万円を借りました。 X」と記載した。

【設例1】の場合、借用証書に「B」の署名があることから、借用証書から看取される作成者、すなわち名義人はBです。次に、借用証書に表示された意思は「BがAから10万円を借りたことを証明する」というもので、この意思の主体はBであることから、作成者はBであります。従って名義人と作成者の同一性に齟齬が生じないから、何らの犯罪も成立しません。
【設例2】の場合、借用証書に「C」の署名があることから、借用証書から看取される作成者、すなわち名義人はCです。次に、借用証書に表示された意思は「CがXから10万円を借りたことを証明する」というもので、この意思の主体はXであることから、作成者はXであります。従って、名義人のCと作成者のXとは別人物であって、名義人と作成者の人格の同一性を偽ったことになるので、「偽造」したといえます。
【設例3】の場合、これまでとは異なって借用証書を作成する権限をXは持っています。そして、単に借用証書に虚偽の内容を記載したに過ぎないから、かかる行為は「虚偽の作成」に当たるとしても、「偽造」ではありません。

大塚裕史ほか『基本刑法Ⅱ 各論(第2版)』396-400頁(日本評論社・2018)


以上の例を心に留めて以下のことを読み進めていくといいかなと思います。適宜わからなくなったら設例に戻ってみてください。

2.両親の許可なく勝手に履歴書等を作成した行為と、その履歴書を283プロに提出した行為にこの犯罪を成立させていいのか?

刑法の適用を考える作業というのは、先述の①~⑤の番号で振っている各構成要件の充足があるかどうかを見るものです。例えば②の構成要件に登場する「事実証明に関する文書」という概念にもいちいち定義があります。そうした各構成要件の定義に該当するかを逐一見て行く作業になります。

というわけで…

本件では、『福丸小糸さんが、両親の許可なく、履歴書の法定代理人の同意欄(履歴書の顔写真・氏名・経歴等を記入する欄がある書面と同じ書面上にある空欄で、名前 ふりがな と名前を書くスペースがあり、かつ欄の右端に印という印字があるものとする。)に両親の名前で署名を書いて、両親の実印を持ち出して押印し、正式な履歴書としてこれをシャニPに提出した。』とする状況を論考の便宜のために設定させてもらいますが、この事案でひとまず考えていきましょう。

(1)「他人の文書」・「事実証明に関する文書」
まず、「他人の文書」とは、公文書以外の文書であり、他人は自然人であると法人その他の団体であるとを問いません。そして、「権利、義務に関する文書」とは、権利、義務の発生、存続、変更、消滅に関係ある文書をいい、「事実証明に関する文書」とは、広く、実社会生活に交渉を有する事項を証明するに足りる文書をいいます。
では、本件での履歴書はどれにあたるのか。まず、履歴書というのは公文書以外の文書であります。それから、履歴書を単に提出しただけでは直ちに権利義務が発生変更消滅するわけではありませんので、広く、実社会生活に交渉を有する事項、すなわち福丸小糸という人間の人となりを証明するに足りる文書だとして、履歴書については「事実証明に関する文書」と考えて良さそうでしょう。

(2)「偽造」
次に、「偽造」とは、伝統的には作成権限がないのに他人名義の文書を作成すること(他人の名前を勝手に使って文書を作成すること)をいうとされてきましたが、近時の学説では、名義人と作成者の人格の同一性を偽ることと定義されることが多いようです。どちらも本質的にはあまり変わらないとされているところでありますが、司法試験との関係ではもっぱら後者の定義でゴリゴリ書いてくる人が多いと聞いていますし実務も後者の立場で話が進んでいるかなと思いますので、本件の考察でも後者の定義によることにします。
注意が必要なのは、その文書に虚偽の内容が記載されていたとしても、作成者と名義人が同一である場合は「偽造」ではなく、単なる虚偽記載、すなわち無形偽造という類型になります。

そして、名義人と作成者の人格の同一性を偽るという中で出てくる名義人と作成者にもそれぞれ定義がありまして、ここでいう名義人とは、文書から看取される作成者(文書から見て取れる作成者)をいい、作成者とは、文書作成に関する意思主体(文書に表示された意思・観念が由来する者)をいいます。
偽造の成否の判断は、まずは名義人を特定して、次に作成者を特定して、そうして名義人と作成者の人格の同一性の判断という3段階に分けて行われることになります。

じゃあ本件での履歴書は果たして誰が名義人で誰が作成者なのかというところの検討に入っていきたいと思いますが、正直ここが難しいところだと思います。
履歴書の本体部分(親の同意欄を除いた部分)の作成者については、その履歴書本体部分に表示された意思は「私はこういう人間です」というもので、この意思の主体は小糸ちゃんなので、問題なく小糸ちゃんが作成者ということになると思います。
むしろ問題なのは名義人が誰なのかというところでしょう。
ここからは、基本書に載っている話でもなく、基本書等に載っている基礎事項をもとにした私独自の私見となります。もし不正確だったらごめんなさいということになります。

履歴書というのは、本人の氏名と顔写真、本人の住所やそれまでの学歴といったこと、賞罰歴、特技等を記載するものであって、その履歴書から看て取れる作成者、すなわち名義人は、親の同意欄の部分を除けば、名義人は小糸ちゃんになるので、少なくともその部分で名義人と作成者の同一性に齟齬を生じさせているとはいえないでしょう。
従って、履歴書本体の部分だけ取り出して言えば、そもそも「偽造」したというものではないといえるかと思います。

もしここで、福丸小糸の顔写真こそ貼ってあるものの、履歴書の名前と以下の経歴の部分が市川雛菜のそれになっているというように、本人の写真を使用しているが名前を偽っているというような場合には「偽造」に当たることになります(最決平成11年12月20日刑集53巻9号1495頁参照)が、本件でそのような問題は生じてないでしょう。

そして、小糸ちゃんが履歴書本体について文書の作成権限を有することは問題なく認められるので、その紙面上の保護者の署名の欄に自署して、保護者の同意が無いにも関わらず、同意があったとする虚偽の内容を記載したに過ぎず、それは単なる虚偽作成に過ぎないから「偽造」ではないというふうに考える立場も、ひょっとしたらあり得るんじゃないかとも思います。

もっとも、保護者記入欄の部分が、上記の履歴書本編(顔写真・氏名・経歴を記入する部分で小糸ちゃんが自分のことを書く部分のこと)とは別の私文書を構成すると考えることができるならば、話は変わってくると思います。

一見すると物理的に一つの文書でも、この部分とこの部分は法的に別の文書なのだというのは意外と存在します。

例えば、交通事件原票という6枚1組の交通違反切符の2枚目になる供述書というもんがあるのですが、これは告知警察官等が警察本部長への報告に用いる公文書でありますが、その下方にある供述書欄〔「上記違反をしたことは相違ありません」と印刷され、交通違反者が署名を求められる部分〕は、交通違反者を作成者とする独立の私文書とされています。

このように、保護者が同意の署名をする部分を履歴書本体部分とは別個の私文書だと考えたならば、この部分の名義人、すなわち同意書部分から看取される作成者は小糸ちゃんの両親となります。そして、同意書部分に表示された意思は、「私達両親は、福丸小糸が283プロに所属してアイドル活動をすることを確かに承諾したことを証明する」というものになるかと思われます。

そして、両親の同意を取り付けて両親の名前を署名する欄については、その性質上、名義人である両親以外の者が作成することが許されておらず、コミュの内容からも伺えるように、小糸ちゃんはアイドル活動をすることを一切両親に相談していませんでしたから、まずもってこの部分の署名・押印は小糸ちゃんの両親の意思に基づく署名・押印ではあり得ないことになります。

従って、当該両親の署名欄に表示された意思を名義人である小糸ちゃんの両親に帰属させることができない以上、作成者は小糸ちゃんとなってしまいます。
そうすると、先程の「偽造」の定義に当てはめていくと、名義人(小糸ちゃんの両親)と作成者(小糸ちゃん本人)との齟齬が生じてしまっていると考えることができると思います。

というわけで、保護者の同意欄の部分を別個の私文書だと考えていくと、少なくとも「偽造」したという誹りは免れ得ないのではないかなと私は考えています

(3)他人の署名
まあこれはいくら両親といえど、他人の署名を使っていることは明白でしょう。

(4)行使の目的で
アイドル活動をするために必須の書類を出して使おうと考えていることは問題なく認定していいでしょう、行使の目的もあります。

(5)「行使」した
161条1項にいう「行使」とは、偽造文書を真正な文書として使用することをいい、本件履歴書を「偽造」したといえるならば、「行使」したと言って差し支えないでしょう。

(6)故意
ここでいう「故意」(38条1項)とは、本件の場合、およそこれから出す履歴書等の保護者の同意欄の部分の署名欄に表示された意思を本人たる両親に帰属せしめることはできないだろうという名義人と人格の同一性を偽ることについての認識認容(有印私文書偽造について)。それから、かかる経緯で作成された親の真意に基づく同意がないまま作成された履歴書等一式を283プロへの加入という局面で、真正な文書として提出することへの認識認容(行使罪について)を言うと思いますが、問題なく認められると思います。

(7)小括
結局のところ、両親の署名押印の部分を単なる虚偽記載だと見て処罰の対象になってない行為とみるのか、そこの部分を別個の私文書だとみて「偽造」の定義にかかるのだと考えるのかで立場が分かれてくるとは思いますが、残念ながら有印私文書偽造・同行使罪が成立してしまうんじゃないかなというのが私見になります。

やめようね!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!


詐欺について

3.詐欺(刑法246条1項)
詐欺罪の条文を見ると、「人を欺いて財物を交付させた」ときに詐欺罪が成立すると書いてあり、めちゃくちゃシンプルです。
構成要件として分解するまでもなく、①人を欺いて・②財物を・③交付させたとなります。
2項の詐欺は財産上の利益を得た場合の話ですが、今回はどう考えても問題にならないので、見なかったことにします。
とはいえ、「欺」いて「交付させ」たといえるためには、a. 相手方を欺き b.それにより相手方が錯誤に陥り c. その錯誤に基づいて相手方が交付行為を行い d.その交付行為によって財物が行為者に移転するという一連の4ステップの因果関係を踏まないといけないという構造になっています。
そして、ここでいう a. 「欺」く行為、すなわち欺罔行為とは、財物の交付に向けて人を錯誤に陥らせることをいい、その内容は、その交付の判断の基礎となる重要な事項を偽ることをいいます。

4.あてはめ
そもそも小糸ちゃんは、親からアイドル活動をすることについての許可をもらったことについて虚偽の内容を記載した文書を283プロに差し入れただけであって、たしかに社会生活上一般にシャニPを騙していると言うのかもしれませんが、そもそも財物交付に向けられた行為がありません
従って、詐欺をやったなどという指摘は的外れだということになります。

結論

という感じで一通り見てきましたが、小糸ちゃんのやったことについては、有印私文書偽造罪が成立する可能性があったとしても、詐欺罪が成立するなどといういわれは無いと思います。

おわりに

ここまでちょっとした刑法各論の考察をしてきましたが、そもそも小糸ちゃんはアイドルを始める理由は、単に透や円香といった仲の良い幼馴染が283プロに所属したことを機に、このまま自分だけが置いてけぼりになるのはどうなのかという理由で入っているきらいがあり、アイドルとしてどういう自己像を追求していくのかを最初持っていませんでした。

みんなと一緒が志望動機


仲良しであることを指摘されると喜ぶけれど


こう聞かれるとどもってしまう

結局、幼馴染のことを抜きにして、福丸小糸という個人がやりたいこと、なりたいアイドル像が何であるのかを探し出すことをシャニPは最初の課題として与えたのでした。

なりたいものなあに

このW.I.N.G編の『なりたいものなあに』のコミュで、両親からの同意を取り付けることについては、小糸が自分でなんとかするというような雰囲気を出していましたが、実際は両親にアイドル活動のことを一切相談せずに、一人で同意書や履歴書を勝手に書いて提出していたのでした。

なりたいものが何かを見つけられないで、ただ仲の良い幼馴染から離れたくないという気持ちでここまでのことに手を染めてしまう危うさに両親は少なからず気づいていたのかもしれません。だからこそ、透や円香とは違って、中学受験をさせて地元の学校に通う幼馴染と離れることで、適度に自立してもらおうとひょっとしたら両親は考えていたのかもしれません。

北九州予備校の寮みたいな部屋やなと個人的に思ってます

努力しまくってようやく周りの人の普通になれる、そうした”普通”であるための努力を見せることは躊躇われる。けれども”普通”になるための努力だからこそそれは”当たり前”のことに過ぎない。「全然よゆーです」と突っ張っていかないと、壊れてしまいそうになる。そのような意味でなんとなく自分に居場所がない人、筆者なりに換言すれば、頑張って上へ行かなきゃならないことはわかっている、努力しまくっても勝てない自分の上位互換が上にいくらでもいる、自分がいなくっても社会って回るんじゃないかな…、それでも努力で上に行き続ける営為をここまで来たら辞められねえじゃんの繰り返しみたいなことをずっと思っている人たち(割りと筆者もこの部類の人間かもしれないと思ってる。)の居場所に小糸ちゃんはなってあげることができるんじゃないかなとも思うわけです。

そうした人の拠り所になれるとしたら、それはもう立派なアイドルでしょう。努力の中で、なりたいものを自分なりに見つけることができる強い娘だと私は思います。そうしたなりたいものを彼女なりに見つけられたのであれば、それで幸いです。

以上、拙い文章をここまでお読みいただき、どうもありがとうございました。

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