「圧倒的ショートカット愛」を持つ私が、美容師の夫にショートカット専門店を開いてもらうまで。
こんにちは。うつわ屋enの佐原です。
先日のイベント出店でスーパー井上さんとお知り合いになり、完全にタイトルが引っ張られています。笑
さて今回は、私の主人が営む「ショートカット専門店 ensemble hair desing」に関するお話です。
人生の8割をショートヘアーで過ごしているほど大のショート好きな私ですが、地元では上手に切ってくれるサロンがなく困り果てていました。
それはもちろん当時、普通の美容室を経営していた主人の美容室も含めの話です。だからこそ専門店を始めたわけですが・・
皆さんの予想を遥かに越える討論が繰り広げられていたことはここだけの話。
今日はそんな「ショートカット専門店ができるまで」のお話をしたいと思います。
先に言っておくと、美容師の方には気分の良い話ではありません。気分を害する人は読まない方がいいですが、読めば必ず役に立つと思います。
そもそも私がショートカット専門店を必要だと感じた理由は
SNSを使い始めたことでいろんな情報がキャッチできるようになった昨今。
都会で働く美容師さんの技術の発展はさすがなもので、おそらく私のような髪質でも、骨格に悩みを抱えている人でも、どんな人でも素敵なショートヘアーにカットしているではありませんか。
「美容師のカット技術も時代と共に変化し、どんどん可愛くなっているんだ!」と気づいたのです。
その素敵なショートヘアーに憧れ、写真を保存し地元の美容室へオーダーする。しかし出来上がるのは写真と似ても似つかないスタイル。
繰り返しますが当時、普通の美容室をしていた夫も含めての話です。
さらっと書いていますが、変な髪型になった時の気持ちを思い出してください。涙が出るほど辛い時はなかったですか?
「明日からどんな顔して仕事に行けばいいんだ・・」と思いませんでしたか?
ショートカットは短いので結ぶこともできません。ショートヘアーを辞めたくても髪が伸びるまで待つしかないんです。その間3ヶ月。
新しい洋服を買っても似合わない髪型。
いいことがあってもふと鏡に映った自分にため息が出る。ただただ暗い3ヶ月です。
田舎ってだけでそんな悲しい思いをしている人がこれからもどんどん量産される。
そんなとき頭によぎるのは、「都会に住んでいれば・・・。」
都会からこっちに嫁いできた人なら尚更です。
せっかく長崎に住んでいるのだから、せっかく長崎にきてくれたのだから、そんな思いをする人が少しでもいなくなってほしい。
そんな想いからショートカット専門店は始まりました。
しかし大きな問題が一つ
私は素人。美容師の技術のことはわかりません。
夫はスタイリスト歴15年以上、美容室経営10年以上のベテラン。
全くの素人が、ベテラン相手に「あなたのカットは下手だ」「あなたのビジネスはもっといい方法がある」と伝えることがどれだけの爆発力を生み出すか皆さんは想像できるだろうか。
そう、私vs夫との死闘です。笑
ショートカット専門店を始めたと言っても、スッと始まった訳ではなく、実際には数ヶ月におよび討論していました。
当時ショートカットがそんなに好きじゃなかった夫からすると、本当にそんなニーズがあるのかや、技術を身に付けたとして、お客様に満足してもらえるかの不安、専門店へと舵を切る恐怖など様々な葛藤があったようです。
しかも当時、なんの個性もない美容室を経営していた美容室は経営難。お客様が来店された動機は「なんとなく」や「近かったから」という意見ばかり。
お客様に求められていないことは目に見えていました。(昔の夫よごめん!)
一方私は、ショートカット専門店は間違いなく起死回生のホームランになると確信していました。
Instagramを開けばショートカットで悩んでいる人たちの悲痛な声が飛び交っていて、ショートカットが得意な美容師さんのアカウントは希望に溢れていたからです。
町を歩けばショートカットの人はたくさんいる。だけどどの人も昔風のダサいショートヘアー。(ダサいとか言ってすいません・・。)美容室への不満は友人からもたくさん聞く。
何よりも、夫にはお客様から求められる仕事をして欲しかった。どこにでもある、代わりはいくらでもあるような美容室ではなくね。
15年以上スタイリストとしてキャリアのある夫のプライドが傷ついてでも、挑戦する価値のあるものだと思いました。
そんなこんなでしつこく説得し、渋々承諾してくれた夫。しかしいきなり専門店にすることはできません。まずは専門店と呼べる技術を身につけなければ!
3つの課題
美容師としての仕事云々のことは私にはわかりませんでしたが、「お客様としてどうして欲しいか」は明確でした。でもこれはビジネスをする上で何よりも大切なこと。
当時の夫に足りていないことは、3つ。
ヒアリング力
オーダーする際、こうなりたいなぁという理想があるとして、「前髪は邪魔そうだからこれの前髪ありバージョンで!」なんてオーダーされる方が多いのですが・・
ショートカットの場合、その意見を鵜呑みにしてしまうととっても危険なんです。
なぜなら、ロングヘアーと違って全体のつながりを大切にしないといけないから。
しかしお客様はプロではないので、バランスがあることなんて知りません。「前髪を切っても可愛くなれる」と思っています。
利便性とデザイン性のどちらを優先するかや、違うスタイルで利便性を確保するかなど、メリット・デメリットをプロとして伝えた上でお客様とすり合わせしなくてはいけません。
この時間が何よりも大切。
「”切ってと言われたから切る”のはプロの美容師ではない」ということを夫には散々言いました。
これはどのビジネスにおいてもそうですよね。
最終的な判断はお客様ですが、お客様が「最善の判断」をできるように「提案」しないといけないんです。
かく言う私はこのヒアリング力に乏しく、いつも失敗します。
主人はこれが得意で、相手をよく見ているし、聞き出すのも上手。言いたいことはズバッと言い、自分のペースで提案できる。
ノロケではなく純粋に素晴らしいスキルを持っているなと羨ましく感じます。
観察力
私は必ずなりたいヘアスタイルの写真を見せてオーダーするのですが、これまでの経験上、「こんな感じですね、はいわかりました。」とそそくさとカットに入る人がなんと多いことかと感じています。
「本当にさっきの一瞬だけで伝わったのかな?」と不安になりながらも、「美容師として働いているプロなんだ、大丈夫大丈夫!」と自分に言い聞かせ待つこと15分。
切っている途中とはいえ、なんだか雲行きが怪しい・・。
私が伝えた長さはそれだったか?
なんだかもっさりしてないか?
いや、この後調整してくれるのかも!
いろいろと不安なまま、終盤に差し掛かる。
そしてトドメの一撃。
「後ろはこんな感じです。(完成しました!問題ないですか?ドヤァ)」
あれ?もう終わりだったの?と言いたいところだが相手はプロ。
プロが完成しているというのだから、これ以上施しようが無いのだろう・・・。
「自分の髪質のせいかもしれない」「骨格のせいかもしれない」そんなことを考えながら『大丈夫です』と無理に笑顔を作り帰ってしまう。
こんな経験がある人って、意外と多いんじゃないかなって思うんです。
いろいろ疑問はあるけど、何がどう違うとかプロじゃないからわかんない。
自分のせいなんだろう・・と言い聞かせつつも、「もっとこうなりたかったのにな」という理想だけがポツンと残る。
なんてことが毎回でしたがこれは、お客さんの髪質の問題ではありません。
「一枚の写真から同じ情報量を拾えていない」だけです。
例えばこちらの二つの写真。
興味のない人からすると、『左の方が少し襟足長いかなぁ?』とあまり違いのないように見えています。
でもたぶん、Instagramを使って都会の美容師さんの写真を見慣れている人は"歴然の差"があるように見えているはず。
実際には髪の量もえりあしとトップのバランスもなにもかも違います。
しかしそれをほんの一瞬で、しかもすり合わせもなしにわかるわけがないですよね。
実際、当時の主人も違いがわかっていませんでした。すぐにカットに入る人はおそらく、長さの確認くらいしかしていません。
だからまずは、上手な人のショートカットと下手な人(下手とか言ってごめん)のショートカットを見比べて、違いがわかるようにすることから始めたのです。
観察力を鍛えた結果、最近では同じ情報量を拾えるようになり、それがそのまま仕上がりのクオリティの高さへ反映されるようになりました。
違いが見えるようになってからは結構楽しかったみたい。
技術力
これに関しては流石に私がどうこうアドバイスできるものではなく。
上手な人のインスタを観察して、私やお人形の髪をカットしては、私がチェックしてもう少しこうじゃない?と試行錯誤する毎日。
例えば、一口に「髪の量を減らす」と言っても、ただ減らせばいいだけじゃないのが難しいところ。
スキバサミにもいろんな種類があって、まずはどの道具がいいかを選んだり、人の骨格や髪質によってどこにハサミを入れるかも違う。
ちなみに私は直毛多毛で、間違ったすき方をされるとピーーン!と真上に髪の毛が立つ。
主人へは何度も怒ったし、涙した日もあった。
「ごめん」と謝る主人に対し、「髪の毛はしばらく伸びないんだから!!」と怒鳴りつけ、しばらく口をきかない日もあったような。
やりすぎだったかもしれないけど、それぐらい責任重大なことなんだということを理解して欲しかった。
お客様の頭では絶対に同じことがあってはいけないと。
そんなスパルタ嫁のせいでメキメキと上達して行った夫。
幸か不幸か、私の髪質はショートカット向きではなく、かなり難しいらしい。いきなり高いハードルにはなったけど、その甲斐あってかどんなお客様が来ても「嫁の頭よりマシ」と思えるんだとか。
都会の美容師さんに比べたらまだまだですが、長崎の中ではだいぶ上手くなった。そのタイミングでショートカット専門店へと変更したのでした。
変わりはたくさんいる美容師から、オンリーワンの美容師へ
ショートカット専門店へと変更してからと言うもの、「お客様の反応が全然違う!」と主人は言います。
来店された理由は「専門店だったから」や「他店で失敗したから」「他店では断られたから」「写真を見て上手だと思ったから」etc...
そんな不安を抱えたお客様に対し、的確なヒアリング&提案をし、理想のショートヘアーにする。
お客様が心から喜んでくださっている姿に、夫もやりがいを感じているみたいです。
大村や平戸などの遠方から通ってくださるお客様も結構いて、「引っ越して少し遠くなったけど近所には上手なサロンがないから・・」とわざわざ佐世保まで通ってくださるのだとか。
今でももしかしたら「失敗した」と感じているお客様もいるかもしれないから、お客様アンケートはとるようにしていますが、回答してくださった人の中には今のところ嫌な気持ちになった人はいないみたい。ホッ。
ここだけの話、コロナ禍においても売上・客数は伸びていて、最近は私の髪を切る余裕もないくらい疲労困憊している・・。あわわ・・。
技術の差はどうして生まれるのか?
ここまでお話しして、不思議に思いませんでしたか?
なぜ同じ美容師なのにこんなにも技術が違うのか。よくよく考えれば普通のことなのですが、美容師の専門学校では「基本」しか習わないそうです。
私が通ったわけではないので詳しくはわかりませんが、多分こういったこと。
基本のカットする方法はわかるけど、その人の雰囲気に合わせて”髪の量をどれくらい減らすといい”だとか、”こういう生え癖のある人はこうカットした方がいい”など、人それぞれにあるお悩みの解決方法は、実際に就職して先輩から学んでいくものらしい。
そりゃそうだ。初めから全Q&Aを教わるなんて不可能だし。
うちの主人は都会の上手な美容師さんの動画を見ながら研究していたけど、やっぱりアレンジが入るし、今は自分で仮説を立ててトライ&エラーして、自分なりのノウハウがあるらしい。
ここまでくると素人の私にはもうわからん!笑
佐世保だからと諦める人が少しでも減りますように
長くなりましたが、これがショートカット専門店ができるまでのお話し。
そして最後に、これを美容師さんが読んでいたら伝えたいことがあります。
これは夫が見つけたお客様のクセのお話し。
「不安」「そうじゃない」「納得できない」と感じているお客様は、必ず美容師が切っているハサミを見ているそうです。
確かに私も、不安な時はみてたな。
「あ・・そんなに切らないで!」「もう少し長く!」「アッ!あぁ〜〜〜・・。」
みたいな。笑
だから、お客様が納得してくれているかは「お客様がハサミを目で追っていないか」を見るとわかるそうです。不安がなくなると見なくなるか、夫の独特なカットの仕方に質問してくる人もいるんだとか。マニアックだな。
なのでぜひ見てみてほしいなって思います。
いろいろあったけど今は楽しく仕事ができているようで本当によかった。
年下でも素人でも人の意見を受け入れられるその寛大さと、今でもコツコツと技術を磨いている夫は、私が尊敬する人の一人。
そんな主人が営むショートカット専門店。
が、できるまでのお話しでした。
ちゃんちゃん。
「地元には働きたい会社がない」という理由で地元を離れてしまう若者たち。そんな田舎で、「働きたい会社がないなら自分で作ってみよう」と思いうつわ屋さんを始めました。いつかは地元の「就職先」問題を解決するメディアを作りたく、サポート資金はそのメディア運営用の資金に貯金します!