見出し画像

Blue 修業中

最近はテレビをオワコンとして馬鹿にする人もいるけれど、昭和生まれの私は生粋のテレビっ子だ。
今も面白そうな番組があればチャンネルを合わせるし、好きな番組をリアルタイムで見られないときは録画予約をする。

よく見るのはNHKのBSプレミアム。
特に気に入っているのが、2015年から不定期で放送している「京都人の密かな愉しみ」というシリーズだ。
ドラマパート(フィクション)を中心に、紀行、ドキュメンタリー、料理といった情報パート(ノンフィクション)を組み入れて構成した斬新な番組で、1stシーズンは2015年から17年まで放送された。(全5回)
京都の大学で教鞭を取るイギリス人教授 エドワード・ヒースロー(演:団時朗)の眼を通して、老舗和菓子屋の若女将・沢藤三八子(演:常盤貴子)の物語が綴られ、さらに、季節のうつろいとともに歴史を重ねてきた京都の生活文化の奥深さが描かれていく。
映像がとりわけ美しく、四季の風景は匂い立つよう。家にいながらにして京都暮らしを体感できる「VR的感覚」が楽しかった。

その後、17年から今年まで放送されたのが、2ndシーズンとなる「京都人の密かな愉しみ Blue 修業中」。
こちらは1stシーズンとはキャストががらりと替わり、5人の若者たちの群像劇だ。(引き続きヒースローが出てくるが、あくまでもドラマに連続性を持たせるための登場で、本編には絡まない)
庭師、陶芸家、板前、パン職人、農業——それぞれ一流の師匠の下で修業を重ねながら一人前の職人を目指して奮闘する姿が5年に渡って描かれた。(こちらも全5回)
途中から予期せぬコロナ禍に見舞われたから、撮影や放送の予定が狂って、やむを得ず5年がかりの大作になってしまったのかもしれないけれど、視聴者の立場で言わせてもらえば、長かった分、定点観測的に若手俳優たちの成長を楽しむことができてよかったと思う。
シーズン途中で陶芸家・宮坂釉子役のキャスト変更があり(演:相楽樹 → 吉岡里帆)、キャラクター造形にやや変更があったものの、長期間にわたる製作・撮影は、番組に企まざる深みを持たせてくれたのではないだろうか。

この「Blue 修業中」は、今年5月に放送された最終回「門出の桜」をもって大団円を迎えた。
月並みな表現ではあるが、完結後はちょっとした「京都人ロス」状態に陥り、この5年の間、若者たちの成長物語にいかに感情移入していたのかを改めて思い知らされた。
私は1stシーズンより2ndシーズンの方にはまってしまった口だが、その理由は、自分自身が今なお「青い」からかもしれない。
孔子によれば、40歳にして心に迷いがなくなり、50歳になれば天の使命を自覚できるようになるそうだが、私に限って言えば、その言葉は当てはまらなさそうだ。

この番組は毎回、主人公の庭師・若林ケント幸太郎(演:林遣都)による「僕らの青の時代はまだまだ続く」というナレーションが流れて終わるが、最終回では「僕らの青の時代は……まだ終わらない」とアレンジが加えられていた。
TV放送は終わるけれど、彼らの物語はきっとどこかで続いている(そして視聴者の物語もまだ続くのだ)——そう思わせてくれる心憎い演出だ。
私とて、いずれはその道のプロとして円熟の境地というやつに至ってみたいが、ただ老成するだけではなく、瑞々しい感性を保ち続けたいし、謙虚に学ぶ心も忘れずにいたい。
既に白髪だらけで肌もたるみ、外見の老化は容赦なく進行していくけれど、心の中身は死ぬまで成長し続けたいと思っている。
恥ずかしながら、いまだ青の時代を生きている私は、さしずめ「Blue 居残り中」といったところか。

京都人の密かな愉しみ Blue 修業中
門出の桜


【脚本・演出】 源孝志
【音楽】 阿部海太郎
【エンディングテーマ】「北山杉」 作詞 下条薫 作曲 山本勝 歌 JUON
【出演】
林遣都、吉岡里帆、矢本悠馬、趣里、毎熊克哉
団時朗、甲本雅裕、岡田浩暉、波岡一喜、田中幸太朗、品川徹、西田尚美、木場勝己
上杉祥三、本田博太郎、高岡早紀、秋山菜津子、石橋蓮司
【制作統括】 渡辺圭(NHK)、伊藤純(NHKエンタープライズ)、八巻薫(オッティモ)
【プロデューサー】 川崎直子(NHKエンタープライズ)、石﨑宏哉(東映京都撮影所)
出典 NHK|日本放送協会

追記
2ndシーズン製作中の2018年、ベテランらしい存在感で若者たちのドラマを支えていた江波杏子さんが逝去。作中では、大原で農業を営む松蔭タエを演じていた。
血のつながらない孫・鋭二(演:毎熊克哉)との寂寥感漂う暮らしや、師弟としての実直なやり取りがドラマに独特の陰影を与えていたと思う。
フランスの女優のようにかっこよく、凛とした江波さんの姿を記憶に留めておきたい。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?