「嘘」

私は嘘をつく

悲しくないという嘘 辛くないという嘘

相手に嫌われたくなくて嘘をつく

相手の負担になりたくなくて嘘をつく

わたしの本当のために、だれかが嫌な思いをすることが嫌だから


そう言うとなんだか聞こえがいいけれど

結局のところ、「本当の私を否定しないで」ということなんだと思う

思う というのは、自分でもよくわからないからで

よくわからないということは、認めたくない ということなのかもしれない


だれも読んでいないであろうこの場所においても

わたしは嘘をついている

かもしれない とかそういう曖昧な表現で煙にまいて、

直視しまい、直視させまいとしているように思う

わたしはどこまでいっても、本音を認めたくないのだろう


わたしは昔から口が達者だった

よく生意気だと笑われたり、叱られたりした

冗談で言ったことを冗談と捉えてもらえなかったことも多かった

3、4歳やそこらの人間が、冗談をいうなんて考えが

まわりの大人にはあまりなかったのかもしれない

中には狙った冗談ではなく、わたしの思考回路のおかしさが生む

理解できないような発言もあったかもしれない


母が運転する車で、お腹を空かせた私がぐずり、

それに気を取られた母が誤って畑に突っ込んだ。

日頃から父が母に対して「運転が下手だなぁ」と言っていたので、

わたしは「ママは運転が下手だね」と言ってしまった。

馬鹿にするとか、そういう意味は全くなくて

父がそうしていたから、そう言ったのだ

父がそういうと母は笑っていたような気がしたから

そういえば母は笑ってくれると信じていた


母と二人で出かけた時に、母が駐禁を切られてしまい、

「パパには言わないでよ!」と母にいわれた

母はずっとイライラとしていたので、

大丈夫だよ言わないよだからイライラしないでねという気持ちで

「そんなにイライラしてたらお父さんにばれちゃうよ」と言った。

だって様子がちがったら、人は何かあったのかな?と思ってしまうから

このときも「そうだね、じゃあイライラしないよ」ってなるんだって、

そうすればこのことはお父さんに知られないですむんだって

そう本当に信じていた


教育実習性の先生が大好きだった

私だけがそうなのか、みんな以外とそうなのかはわからないけれど

小さい時、男の子も好きだったけど、女の人のことも好きだった

恋愛感情ににているようなものだったと思う

ショートカットでピアスをつけた、かっこいい女の先生だった

みんなで粘土遊びをしていて、何かを注意されてもやめなかったわたしに

(たぶん気を引きたかたんだと思う)

「お前は本当に話を聞かないな」というようなことを言われて

「わたしの耳はパンの耳だもん」と答えた

「そらぁ立派な耳だなぁ」と言われて、なんかショックだった

今こうやって字面にしてみると素敵なコントのようなのだけれど

当時は急に冷たくされたような気がして、悲しかった


昔のことを関係があると思って書いてみたけれど

もしかしたら本筋には全く関係のないことだったかもしれない。




細かくは覚えていないけど

私がなにか言うたびに、大人たちは「生意気だなぁ」と笑った

今思えば「かわいいなぁ」みたいなニュアンスもあったのだろうけど

わたしはその度にはずかしくて 馬鹿にされたような気がして

本音を言うことは恥ずかしいことなんだ

わたしの本音はおかしいんだ そう学んだ


大人たちは時にわたしの本当を聞きたがった

わたしはいつも本当のことを叫んでいたけれど聞いてはもらえなかった

それでも「本当はどうしたいのか」「本当はどう思っているのか」聞いてきた

普段から受け入れられなかったわたしの本当を突然求め出すことがあった


あんなに叫んできたのに それでも聞いてもらえないから

そうじゃないフリとか、強がりとかで、ないということにした本当のことを

なんで急に聞きたがるのか、不思議で仕方なかった

あんなに叫んできたのに なんで聞こえなかったことになっているのか


ああ、そうか

わたしの「本当」は この人たちにとって「わたしの本当」ではないんだ

そう思った

そうなってしまうと もう「外に出していい」私の本当なんて どこにもない

これ以上 出していいものなんてないはずなのに

そんな時に限って 大人はわたしを逃がさない

いつもわたしに背を向けているのに いつもわたしを見てはくれないのに

こういう時だけ真正面で わたしの顔をまっすぐ見て

時には抱きしめたり、泣いていたりする

だからわたしは なかったことにした本当を

決死の思いでなんとか絞り出す

言葉にしたいのに先に涙が出てきてしまったり

その嗚咽で過呼吸になってしまったりして、

言いたいことの半分も言えなかったりするのだけど

ここで頑張れば、何かがかわるんじゃないかって

苦しくてもしかしたらこのまま死んでしまうかもしれないけど

(今思えばたぶん過呼吸じゃ死なないけど)

これで世界が変わるならって そんな望みを持っていた


もしかしたら これでわたしもわたしの目の前にいる人も

なにか救われるんじゃないかって思った


何度かそういう場面があって、

次の日起きたら世界は変わっているんじゃないかって

期待して階段を下りていくのだけど

昨日あったことがまるで夢だったみたいに

世界はなにもかもそのまんまで なんにも変わらなくて

やっぱり わたしの本音なんて あってもなくても変わらない

取るに足らないものなんだって 何度も再確認した


世界が全て思い通りになってほしいだなんて思わないけれど

今幸せそうにしているこの隣の人に、

さらに注がれているその笑顔の一つでも

わたしの方に溢れてきてくれればいいのにと思った。


笑わない人の前で 笑う勇気がなくて

うまく笑えなくなったわたしに 笑わない人はまたイライラして

でももう勇気なんて残ってなくて

笑ってくれなくてもいいから 怒らせないようにしようと

あまり関わりを持たないようにした


わたしと関わることで イライラしているということがわかったから

わたしがいることで苦しんでいて 二人の時の母はとても辛そうだったから


「産まなきゃよかった」「こんな子じゃなかった」

「あんたのせいで」「このまま死にたい」

「どうしてこんな子になっちゃったの」


褒められもしなかったし 何か言うとトゲトゲの言葉が返ってきた

笑ってるとバカにしてるって怒られて 好きなことは否定された

一昨日怒られなかったことが昨日怒られて

昨日怒られたことを今日しなかったらなぜか怒られる

そんな毎日だったように思う


何が正しくて 何が間違っていて

どうすると人を不快にさせて どうすれば笑顔になってもらえるのか

なんにもわからなかった


ただ わたしがわたしのままでいることはいけないんだ

という思いはあって

でも 喜んでもらえるわたしを見つけることもできなくて

だから部屋で自分の世界にいることが

お互いのためだと思っていたのだけれど

そうでもなかったみたいで





わたしの本音なんて価値がないけれど

だれかがそれを求めるから

その人がほしい本音を用意しよう

それで相手が幸せになるなら

わたしはそれで構わないし

幸せになった相手は わたしを悪いようにはしないだろう

そうすればたぶんわたしも幸せになれるような気がする


もっと簡単に言えば

あなたのいて欲しい私でいるから、

わたしが生きていられる世界を作ってね


わたしが生きていられる世界を守るために

わたしは嘘をついている

悪者にされない自分を作っている

時々それを失敗してしまうのだけど

ただ大切にされないというだけで、

わたしが嘘をついていられる限り

世界はわたしを完全に見て見ぬ振りはしない

上手にやるに越したことはないのだけれど


時々息苦しくなってしまうけど それくらいは仕方がないんだと思う

わたしが嘘をついているんだから 息苦しさくらい受け入れるべきなんだ

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