境界線でくちばしを【東京のりもの散歩~いちょうマークの車窓から20】
「橋上駅」という言葉がある。線路を川と見立て、その上にかかる橋の上に設置された改札口から入場し、各方面のプラットホームに階段やエレベータで下りる仕組みとなっている駅のことである。この言葉自体は広く知られているのではなかろうか。
都営新宿線の東大島駅は橋の上にあるが、いわゆる橋上駅ではない。跨線橋の上に駅舎がある一般的な橋上駅とは異なり、河川に架かる、本来の意味での橋の上に駅があるのだ。早朝から深夜まで多くの電車が安全に停車し、発車する場所は、一級河川・旧中川の真上。プラットホームの窓ガラス越しに外の風景を眺めると足元に水面が見え、「電車に乗ってきたはずなのになぜか河川の上にいる」という不思議な感覚に、一瞬浸ることができる。一般的な意味での橋上駅ではないものの、交通局の少々昔の広報資料には「河川橋上駅」の表現がある。まさに東大島駅にふさわしい言葉だと思う。
ところで、東大島駅は二つの区にまたがる駅でもある。旧中川が江東区と江戸川区の区境となっているため、プラットホーム上に行政区分標がある。このような特色から、鉄道の日記念行事として2000年に選定された「関東の駅百選」にも選定されている。
江東区側の大島口を出て左に進み、旧中川沿いの道を中川大橋に向かって歩く。左手には東京都交通局と書かれた門型クレーンの設置された施設が、右手には都立大島小松川公園が見える。門型クレーンは都営新宿線の新造車両などを地上から搬入するためのもので、地下には広大な敷地を有する大島車両検修場がある。地下部分を見学することはかなわないが、動画サイト「都営交通公式チャンネル」では、検修場から営業線に出庫する貴重なシーンを見ることができるので、お勧めしたい。
駅から離れて東大島駅を眺めていると、川沿いのコンクリートの上を大きな白い鳥が優雅に歩いているのが見えた。鳥の動きに誘われた私は中川大橋を江戸川区側に渡り、河川敷に下りてみた。後で知ったが、この鳥はダイサギといい、くちばしの色が冬は黄色、4月から9月頃には黒色になるという。そこにいたダイサギのくちばしは、初夏にもかかわらず黄色だったが、個体差で変色の時期がずれることもあるらしい。境界線の地で境界線のくちばしを見た私は、江戸川区側の小松川口から帰路についたのだった。
※都政新報 2020年8月7日付 都政新報社の許可を得て掲載