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唯一無二のエメラルド【東京のりもの散歩~いちょうマークの車窓から27】

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 日暮里・舎人ライナーは交通局が運行する新交通システム(動輪にゴムタイヤを使用し、コンピューター制御で無人運転を行う略称AGTと呼ばれる交通システム)で、日暮里から埼玉県境に近い見沼代親水公園までの約9.7キロを結んでいる。開業当初はクロスシート(進行方向に対して直角に設置された座席)が主体の300形車両12編成で運用が始まり、乗車人員の増加とともに300形は現在16編成まで増えている。2015年度には車体を軽量化して全席ロングシート(進行方向に対して平行に設置された座席)にすることで、乗車定員を増やした新車両330形の運行が始まった。330形車両は19年度にも増備され、現在では3編成が運行されている。
 さて、日暮里・舎人ライナーの車両にはもう1種類形式がある。330形と同じく全席ロングシートで、17年度にデビューした320形である。エメラルドグリーンのラインと黒い窓周りの配色が特徴的で、一度見たら強烈に印象に残る。エメラルドグリーンのラインは、当時の車両電気部職員による雑誌の記事を引用すると「荒川と隅田川の水辺と自然環境に恵まれた緑豊かな街を反映」しているとのこと。私個人の感想としては、外観の爽やかさと車内の床の鮮烈な青色との相乗効果で、「乗車するだけで特別な高揚感が味わえる」車両……と表現するのは大げさだろうか。
 何しろ、320形は他の形式とは異なり、1編成しか存在しない。交通局では22年度から300形を順次ロングシートの新型車両に置き換える準備を進めるとしており、未来のことは不確定ではあるものの、現時点では320形は世界に1編成だけの孤高の存在となっているのである。
 通勤通学で利用するお客様にとって、交通機関は空気のような存在であり、どの車両に乗車しても感慨はないのかもしれない。休日だけ利用するお客様にとっても、終点までの所要時間が20分程度の日暮里・舎人ライナーの車両がどの形式になるのか、興味は持たれないのかもしれない。だが、もしも万が一、この記事が誰かの記憶の片隅に残り、その方が偶然にも乗車する機会を得た時、「唯一無二のエメラルド車両に乗車できた」と幸運を感じることができたらよいなと思いつつ、私は今、この文章を書いている。

都政新報 2021年10月5日付 都政新報社の許可を得て掲載
【参考資料】
・『日暮里・舎人ライナーの新形式車両 東京都交通局320形』(鉄道ファン 2017年12月号 交友社)
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