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額縁越しに安全を見る【東京のりもの散歩~いちょうマークの車窓から6】

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<日暮里・舎人ライナー330形車両>
2015年10月に営業運転を開始した日暮里・舎人ライナーの330形車両。従来の300形車両とはデザインが大きく異なり、異彩を放っている。


 子供のころ、鉄道関係の職業に憧れた。運転士をしていた親戚に乗務ダイヤを教えてもらい、彼の働く姿を乗務員室の仕切り越しに何度も見学しに行った。普段は「冗談好きなお兄さん」として認識していた親戚の姿が仕事に入ると突然きりっとして大きく見えた。大勢の乗客の安全を担うその背中は、小学生の目にも十分すぎるほどの輝きを放っていた。
 日暮里・舎人ライナーは、日暮里から見沼代親水公園までの13駅、9.7キロを、コンピュータ制御による自動運転により運行する新交通システムである。2008年3月に開業し、荒川区の主要乗り換え駅である日暮里と、それまで鉄道の空白地域であった足立区北部との移動を容易にした。日暮里・舎人ライナーが開業する以前は、両区間を結ぶ交通機関は都バスしかなく、道路が混雑すると1時間以上かかる場合もざらにあった。それが現在では20分で移動できるのだから、画期的と言わざるをえない。
 日暮里・舎人ライナーには乗務員室の仕切りがない。前述した通り、基本的には自動(無人)運転であるため、通常の鉄道であれば運転士が座るであろう座席に、特別な許可なく座ることができる。このことは何を意味するか。答えは簡単である。運転士に憧れていた私のような「かつての子供」が、気軽に運転士気分を味わうことができるのだ。
 とはいえ、先頭車両の最前列の座席(左側1、右側2の合計3席)は世代を超えて大人気である。もしも「今の子供」が乗りたがっていたならば優先させてあげたい。最前列の座席が比較的確保しやすいのは、(勤務の関係で難しいかもしれないが)平日昼間の上り方面(日暮里行)である。始発の見沼代親水公園から最前列に座り、移りゆく風景を眺めていると、扇大橋から足立小台にかけては急な勾配があらわれる。
 この区間の軌道桁を建設するにあたっては、「地上28メートル」「首都高速をまたぐ」「荒川を超える」などの条件に対処するため、首都高速を深夜に通行止めにしたり、荒川の渇水期(11月~5月)を選んで作業をするなど、難工事だったそうである。このような先人の苦労に思いをはせつつ、運転士気分に浸っていると、あっというまに終点日暮里に到着する。
 舎人ライナーの車両は通常の鉄道車両よりコンパクトで、最前席から見える窓枠が私には額縁のように見える。まるで絵画を見るように、安全技術の粋を見るのも悪くない。

都政新報(2018年3月2日号) 都政新報社の許可を得て転載
【参考資料】
・日暮里・舎人ライナー秘話 私の見てきた三十六年間 三原將嗣・著 (産経新聞出版)
・新交通システム建設物語 日暮里・舎人ライナーの計画から開業まで 「新交通システム建設物語」執筆委員会 編著(成山堂書店)
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