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ヒカリの街に立つキリン【東京のりもの散歩~いちょうマークの車窓から17】

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 小学生の頃、渋谷の宮下公園近くにあった東京都児童会館へ足しげく通っていた時期があった。ここは大型の児童館で、売店でキットを購入してプラ板などで工作が楽しめる場所だった。私は特に科学工作が好きで、はんだ付けのできるキットでラジオ的な何かを夢中で作っていた。埼玉の実家から電車に1時間ほど揺られて渋谷駅前に降り立つと、当時から人も建物も多く、「ここが大都会というものか」と子供ながらに興奮したものだ。様々な思い出の詰まった東京都児童会館は、残念ながら今はない。
 大人になると、昼だけではなく、夜の渋谷を歩く機会も増えた。夜の渋谷は、どこもかしこも光に満ちていて、さながらメリーゴーラウンドのようである。そして、駅前は「いつ訪れても工事中」の印象が強い。屋上にプラネタリウムのあった建物は解体されて商業施設ヒカリエに生まれ変わり、東急東横線は地下に潜って東京メトロと直通運転を始めた。駅前の再開発は今もなお続いており、その様子は、着工から130年が経過しても完成していない、建築家ガウディの代表作、サクラダ・ファミリアを連想させる。
 渋谷駅前のバスターミナルは西口と東口とに分かれており、多くの都バスは東口から発車する。再開発の進捗に合わせて都バスの乗り場の配置は柔軟に変更され、久々に訪れると、浦島太郎の気分を味わうことができる。
 多くの車両がひしめく仮設バスターミナルには、工事用の強力な照明が灯り、視線を上げると、キリンの首のような工事用のタワークレーンとビルの光が見える。鉄板の仮囲いで覆われたけっして広いとは言えないバスターミナルから、誘導員の合図でバスが次々と安全に発車していく。渋谷の風景がどれほど変貌しようとも、いつもの都バスが安心を乗せて人々を運ぶ日常は変わらないのだ。
 ところで、なかなか完成しない建物として有名なサクラダ・ファミリアが、ガウディの没後100年にあたる2026年には完成するらしい。その1年後、2027年には渋谷駅前の再開発も完了するという。その頃には仮囲いやタワークレーンは撤去され、バスターミナルも整備されるのだろうか。光とキリンに囲まれた手作り感あふれるバスターミナルから都バスに乗車できるのは今のうちだけかもしれない。これも思い出。

※都政新報 2020年1月17日付 都政新報社の許可を得て掲載