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カバの下からさようなら【東京のりもの散歩~いちょうマークの車窓から38】

最後の運行を終え、上野動物園東園駅に留置された40形車両

 人生で自慢できるような出来事はそうそう起こらないものだが、ひとつだけ自慢させてほしい。2019年10月31日、私は上野動物園モノレールの上野動物園西園駅付近にいた。この日限りで営業休止が決定したモノレールへの惜別をするためである。
 上野動物園モノレール、正式名称は東京都交通局上野懸垂線。動物園の敷地内にあるが遊戯物ではなく、鉄道事業法に基づき1957年に開通したれっきとした鉄道路線である。流線形デザインが特徴の初代H形、車体軽量化と車内高改善が図られたM形、全面ガラス張りで初の冷房車である30形を経て、4代目である40形の車両が、上野動物園東園駅と西園駅とのわずか310メートルの距離を1分半で結んでいた。もともとは都電に代わる都市交通の実験線として開通したものだが、実験線としての役割を終えてもなお来園者から支持され、令和の初めまで運行が続いてきた。しかしながら、車両の老朽化にともなう更新の費用などの課題が大きいため、運行休止が決まったというわけである。
 17時の西園駅発東園駅行きが最終運行。ラストランへの乗車は事前抽選制で約40倍の倍率だったそうである。私は応募はしていないので、昼間のうちに1往復だけ惜別乗車を済ませ、最後の運行は地上から眺めることにした。そして17時。「それでは、上野動物園モノレール、40形のラストランです。行ってらっしゃい」。アナウンサーの掛け声とともに、多くのギャラリーに見守られつつ、動物のイラストが描かれた40形車両は滑らかに発車した。私はその動画を撮り、SNSに上げた。その直後、香港のニュースメディアから「動画を使わせてほしい」との依頼があり、無償提供した。その動画が14万回以上再生された。長くなったが、これが冒頭に書いた自慢話である。
 交通局は、休止中の上野懸垂線について2024年7月末で廃止することを公表した。現在、車両は東園駅に到着した状態のまま置かれているが、廃止が正式決定したことで、撤去されるのも時間の問題となった。時を経てほこりをかぶっているが、カラフルな車体からは、長年多くの来園者の笑顔を運んできた様子が見て取れる。車体を支えるアームのさらに上方に目をやると、駅舎にカバの絵があった。「カバの下からさようなら」という言葉が頭に浮かんだ。寂しいが、26年度中に供用開始となる予定の新しい乗り物に期待を寄せたい。

都政新報 2023年11月7日付 都政新報社の許可を得て掲載
【参考資料】
・鉄道ファン(交友社)1967年12月・85年7月・96年12月号
・文中にあります動画のリンクです。喜愛日本(Like Japan)のFacebookより) (11) 動画 | Facebook
・報道発表 東京都懸垂電車上野懸垂線における鉄道事業廃止日の繰上について 東京都懸垂電車上野懸垂線における鉄道事業廃止日の繰上について | 東京都交通局 (metro.tokyo.jp)
※文中に「2024年7月末で廃止」とありますが、上記の通り廃止日の繰り上げが決定され、12月27日となりました。