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帯と都電と百葉箱【東京のりもの散歩~いちょうマークの車窓から24】

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 「都電で好きな車両は?」と聞かれたら、私は迷わず8500形と答えるだろう。1990(平成2)年に登場した8500形は、実に28年ぶりとなる新車で、都電の路線が荒川線のみになって以来の新車でもあった。その後2007年の9000形を皮切りに8800形・8900形・7700形が登場し、当時の新車は今では最古参の車両になった。9000形と7700形は外観がレトロ調で旅行をしたような気分に浸れるし、8800形と8900形は未来を予感させるデザインで、心がはずむ。どの車両も個性的だ。
 それでは私はなぜ8500形が好きなのか。これはもう個人の好みの領域になってしまうが、車体に「帯」の塗装があるからである。帯といえば、かつて運行していた7000形や7500形にも帯があった。7000形には、運転手と車掌が乗務していたツーマン時代には黄色い車体に赤帯が、ワンマン化にともなう更新車には青帯がついていた。晩年は車体がクリーム色に塗り替えられ、濃淡の緑の帯がデザインされていた。
 8500形は、クリーム色より白色度の高いパールホワイトの車体に濃淡の緑の帯をまとっている。色の配置や帯の形は異なるが、晩年の7000形をほうふつとさせる。私が8500形にひかれる理由は、車体に帯がつくことにより、荒川線以前からの都電の長い歴史に思いを馳せることができるから、なのだと思う。もちろん、9000形以降の斬新なデザインも魅力的ではあるが、都電と言えば帯、というイメージに慣れ親しんできた身としては、小学校時代に通った駄菓子屋が残っているのを見るようで、何だかホッとするのである。
 余談だが、8500形には車内にも懐かしさを感じる部分がある。運転席と客席を分ける仕切りに設置された板が、かつてはどこの小中学校でも見られた百葉箱のよろい板(一定の傾斜をつけた幅の狭い薄板を何枚もつけたもの)に似ているのだ。百葉箱と異なり木製ではないし、百葉箱とは機能が異なるものではあるが、もしもご乗車の機会があれば、運転席の後ろにも注目してほしい。一定の年齢以上の方には既視感があるはずである。
 平成初期に製造された8500形の5両は、令和の今でもすべて現役で走っている。できるだけ長く、これからも走り続けてほしい。一ファンとしての切なる願いである。

都政新報(2021年4月6日号) 都政新報社の許可を得て転載

【おまけ動画】都電荒川線三ノ輪橋電停の降車ホームから乗車ホームに移動する8500形(8503号車)電車。 https://youtu.be/Qv2hTkvWgD0