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河原町で “もうひとつのブラックホール” 感想

  tacicaのギターボーカル猪狩翔一さんとシンガーソングライター森田くみこさんによる弾き語りライブ。昨年も開催された公演の第2弾。会場は猪狩さんの弾き語りで馴染みあるsomeno kyotoで、こちらの会場の7周年記念イベント。
 10月半分ほど過ぎたのに暑い。真夏というほどではないが日差しが強かった。
三連休の最終日(スポーツの日)ということもあり京都には多くの人たちがいて非常に賑わっていた。特に外国人が多かった印象。

 以下は猪狩さんメインの感想となります。


感想① 森田さんのキャスパー

 18時スタート。前回同様にまずは森田さんから始まった。どの曲もパワフルで、綺麗で、そして常に笑顔で楽しそうに演奏しているのがとても伝わってきた。
「猪狩さんと一緒に来られるなんて凄く嬉しい」
なんて言葉が出るくらいに森田さんはtacicaのファンだった。
そんな愛が溢れるtacicaのキャスパーをカバー。
「生温い目で見てください」なんて謙遜していたけど後に猪狩さんも絶賛するほどの出来だった。
ピアノの音色は静かな夜を思わせ、そこにある寂しさといったものも表現されている気がした。
そんな幽霊の歌の後に「生きててよかった」が続くのは何だかメッセージ性がありそうだと深く考えさせられるような気がした。

「ありがとうございましたー!」と最後まで元気いっぱいでステージを去っていった。
 一瞬で終わったかのように思えたが時計を見ると18時50分。もっともっと堪能していたかったと思える素敵な演奏だった。

感想② 京都という街

 ステージの片付けが始まり、小休憩のあとにお待ちかねの猪狩さんの演奏が始まった。弾き語りにしては珍しくメガネをかけていなかった。
「猪狩翔一です。よろしくお願いします」
と丁寧な挨拶から初めの一曲は私服の罪人
森田さんのパワフルな歌と相反するようなしっとりとしたサウンドと歌声。先ほどまでの雰囲気をガラリと変えて一音、一音を丁寧に響かせるような演奏で心を掴まれた。
 その後、間を空けずに演奏されたのはゼンマイだった。今年3月の単独飛行でも演奏され、4月、5月とバンドで周っていたツアーでも演奏されていた楽曲。バンドサウンドだとドラムとベースのリズム隊が目立っているようにも思えるけど、1人だけでギターを弾いているとは思えないようなサウンドだった。
 
 「京都、人多過ぎない? 土地のキャパ超えてるよね」
相変わらずの猪狩さんらしいトーク。
そして頻りにsomeno kyotoの店長奥村さんへの感謝を述べていた。森田さんもそうだったけど、こういう低姿勢なところが人から好かれる証なのかもしれない。

 チューニングに時間をかけて軽く弾いたと思ったら何やら納得いかなかったようで首を傾げてうーんと声も漏れる始末。
その後も微調整したあとに夢中を演奏。
弾き語りでは定番な曲ではあるけれど、いよいよ今月末から配信されるアルバムに収録される曲。
バンドサウンドではどういった装いになるのかとても楽しみ。

そうだ そういえば
いつもいつでも
僕は僕が嫌い 


そうだ そういえば
いつもいつまでも
僕は僕に夢中

 嫌いだと言えるほどに僕は僕に夢中。僕のことしか考えていない。そんな歌詞が胸に刺さる。

「ここに来るのにタクシーを使ったんだけど。
住所をちゅうきょうくの〜って言ったら運転手さんからなかぎょうく、ってすぐに返されて。その後なんかもう詰まっちゃって話せなかったよね」
京都って割と難しい地名が多い印象がある。
先斗町とか太秦とか初見じゃ読み方分からないないよなと思う。

感想③ 溢れるたぬきち愛

 次に演奏されたのはオニヤンマ
弾き語りで聴いたのは恐らく初めてだった。
タッ! タッ! タッ! タッ!
のリズムが気持ち良い。でも歌詞的にはどちらかというと暗め。それでもそんな暗さを感じさせないのは猪狩さんの作り出す歌が魔法に近いからだろう。

「たぬきちのグッズ作るのが抑えきれない。次のグッズ用の写真もまだあって」
今回の弾き語りから新グッズの猪狩家の愛犬たぬきちのアクリルスタンドキーホルダーとクッションが販売されていた。これまでもステッカーや栞なども制作されており、弾き語りでは欠かせないグッズになりつつある。
「前にここに来た時にたぬきちのシールを店長の奥村さんが携帯のケースに入れていて。もしかしたら今日だけ入れたのかもしれないけど」

素直に嬉しいとか言わずに茶化すのはとても猪狩さんっぽいなと思えた。会場も思わず笑い声が。

「今回クッションを作って。どうなのかなと思ったけど圧縮袋もあって嵩張らないし大丈夫かなとか思ったら、段ボール6箱分もあってこれは……となった。奥村さんでさえも流石に驚いているような量だった。
だからみんな1人二頭ずつどうぞ。俺の家に大量にあるかも。そこに本物も混じっているかも」

「帰りに物販立ちます。目が合ったらもうダメだと思ってください。1人二頭まで買ってください」
こんなにグッズの販促をする猪狩さんは珍しかった。とはいえさすがに私は二頭は迎えられなかったけど笑。

つぶらな瞳と目が合う

感想④ 金木犀と銀木犀と

 中央線は久しぶりに聴いて泣きそうになった。
この曲が収録されているアルバムpanta rheiはとても好きで思い入れのアルバムなのにライブで演奏される頻度がとても低い。もっと聴きたい。

絶対 今日の延長線でまた歌える保証もない
しょうもない悩みが今の自分にどれ位
大切かなんて
僕以外 知りたくもないか

今日のようには歌えなくなるかもしれないと思いながらもこんなしょうもない悩みなんて知りたくもないよなと隠す。そんな本音を曝け出すような歌詞に胸を打たれた。

「ようやく涼しい。金木犀の香りもね。京都はまだなのかもだけど。銀木犀もあるみたいなんだよね。同じ時期くらいに。
なんか自分が何とか木犀だったら銀がいいのかなぁとか思ったり。レアでしょ? でも銀だったら5個集めないと金と交換できないのかなとかあるのかな」
猪狩さんの考えていることが全くわからなかった笑。

 お次の群青も意外な選曲だった。群青とは少し深めの青色のこと。真夏のような明るい空ではなく、夜明け前のような薄暗い色。いい意味でtacicaに似合っている色だと思う。
tacicaの音楽は日常を切り取るような普遍的な歌詞が魅力の一つであると思うがこちらはまさしくといった感じ。
体温が上がったり下がったり、つまりモチベーションやテンションといった自分の内側部分は常に一定ではなく一喜一憂しながら日々を過ごしている。良い日もあれば悪い日もある。そんな当たり前のようなことを当たり前のように歌ってくれる。

奇跡も魔法もないから 
僕達の歩みは右往左往するのだろう
もう一回 笑う
その一瞬の為

「京都でまさかブラックホールができるなんて思わなかった。
森田さんのキャスパーめちゃくちゃ良かったよね。あげたいなとか思っちゃった。どうやるのかとかわからないけど。現実的には著作権とかか」
と絶賛するほどのカバーだったキャスパー。好きなアーティストの曲が別の人に歌われるとまた雰囲気が変わるし、カバーする側もそのアーティストのことを好きでいる人なら尚のこと素晴らしいものになる。

「キャスパーって映画のタイトルからとってるから一応権利とか大丈夫なのかとか確認した覚えがある。
あと当時インタビュー受けた時に、この曲をカップリングにするのは勿体無いって言われて。でもこっちはほーんくらいとしか思っていなくて。
今日ようやくそれが分かりました」
カップリングだからアルバム曲だからといった遊びはtacicaにはないように思う。というかこの時代においてそもそもカップリングとは何だろうと思う。昔の名残でB面とも呼ばれたり、メインに対してのサブのような感じもするが、そのアーティストが作り出した曲であることは変わらないのだからそんな分け方をすること自体、今は意味ない気がする。要するにA面とかB面とか関係ないくらいどの曲も素晴らしいということだ。

 本編最後となったのは弾き語りでは定番のダンス。元々この弾き語りでずっと演奏されており弾き語りでやることがほとんどでバンドでやることは珍しくなってる曲。前回は森田さんがピアノとコーラスに入っていたが今回はソロ。伸びやかな声が会場を包み込んだ。

感想⑤アンコール セッション

 アンコールで猪狩さんはsomeno kyotoのTシャツに着替えて登場。森田さんも着替えてこそいないがシャツを手にして登場。
猪「僕が着ているこれがNirvanaのシャツにロゴとかすごい似てて。でも奥村さん曰く全然そんなつもりはなかったということみたい。でも、なんか最終的には"そのNirvanaの黒"って言ってた」
森「初めて来たんだけど店長の猪狩さん愛がすごいなって思った。コーヒーとかもね……」
あっ! と猪狩さんが声を上げる。
猪「そうそう。今日ね、美味しいコーヒーも用意してもらっててね。美味しいんだよ。それなのに触れていないっていうね」
森「コースターもね。うちの愛猫ゆきまろくんをたぬきち先輩にあやかって作りました」
猪「コースターみんな貰ったかな?」
と客席に問いかけていた。
コーヒー以外にもコーヒーカクテルも取り揃えていた。

猪狩さんは相変わらずチューニングに時間をかけていた。
猪「前回ギターの弦が切れちゃったからね。切れないように。練習してきています」
昨年行われたときには最後の最後で猪狩さんのギターが切れるハプニングが起きていた。その後もう一度張り直すも再び切れてしまい、森田さんのピアノを伴奏に歌うという珍しい光景が見られた。
猪「でもさ、練習しなきゃいけないのに。2人で雑談してたよね。ドラムとかマイクとか色々機材が揃っているなかで雑談しているのってすごい贅沢だよね」
森「無駄なことしてる。いやでも無駄じゃないかもしれないけど」
猪「練習してきた曲やりまーす」
 
 そんな猪狩さんの宣言からはナニユエが始められた。正式に森田さんに音源に参加してもらった曲。意外にもこうして2人でやるのは初めて。tacicaのライブでやっていた時は森田さんのピアノとコーラスは録音音源を使っていたけれど、生で入れられるとやっぱり臨場感とか迫力とかで別物になる。ナニユエだけでなくまた森田さんと曲を作って欲しい。

猪「ピアノの曲って楽しい。普段別に俺ピアノとかやらないし」
森「でも猪狩さんの曲ってピアノっぽいですよ」
森田さんの言うことが何となく共感できた。ギターのロックテイストはあるけどどこか繊細な部分もある感じはピアノっぽい気がする。

 猪狩さんがしきりに譜面を見ながら恐る恐る演奏と歌唱していたのが印象的だった森田さんの楽曲、星になってのカバー。弾き語りだと猪狩さんもカバーすることはあるけれど、本人とのセッションだからかより丁寧にしようとしていたのかなと思えた。森田さんがメインに猪狩さんがそれについていくように演奏する。2人のハーモニーがとても綺麗で美しかった。
演奏が終わった後にこの曲が森田さんが初めて作った曲ということが判明。観客の中にも驚いた人がいたようで声が漏れていた。

 そしてラストはまさかのホワイトランド
今年の3月に広島の弾き語りで、雪が降ったからという理由で演奏されていたがまさかまた聴けるとは思わなかった。開演前にまた聴きたいなと思っていたので最高に興奮していた。
バンドセットだとギターのファズが特徴的な曲。それはまるで豪雪のように思えるが、弾き語りだともちろんそれはないので森田さんのピアノとコーラスも相まってしんしんと降る雪のように思えた。締めも静かに音が止んでいく感じが、だんだんと降っていた雪が弱まっていくように思えた。

また笑い合って また笑い飛ばそうよ
 
大袈裟な事じゃなくていい
そういう夢をまた見よう

 静かに音が鳴り止むと、ありがとうございましたとステージを降りて行った。

セットリスト

  1. 私服の罪人

  2. ゼンマイ

  3. 夢中

  4. オニヤンマ

  5. 中央線

  6. 群青

  7. ダンス

  8. en.ナニユエ 

  9. en.星になって (森田くみこカバー)

  10. en.ホワイトランド

 終わったのは20時15分頃。森田さんのライブはMCも少なく、曲の間も余りなく続けて演奏されていたのであっという間に終わった印象があった。反対に猪狩さんは一曲ごとにチューニングしてMCもあってというカタチだったのでゆっくりやっているという印象はあった。

最後に

 一年振りの共演ではありながらもずっとやってきたかのような絶妙なコンビネーション。だけどどこか懐かしいような感じもした。今年はtacicaとしては共演していないということもあるのだろうか。毎年必ずやっていただきたいイベントだった。
あの空間でずっと聴いていたいという思いが強かった。しかし帰りの新幹線の時間もあり、走って会場を後にした。

 また開場前は鹿の仔と喫茶店で2時間近く喋り、その後散歩して、鴨川の河川敷でまたゆったり時間を過ごしていた。tacicaのことはもちろん、日常の愚痴などを話すこの時間が堪らなく楽しかった。素敵な時間をありがとうございます。

 ちなみに余談だがこの公演の前の公演では幼少期のバイブルだった「金色のガッシュベル」のOPのカサブタを歌っていた千綿偉功さんがライブをしていたとのこと。なんだか懐かしさがあったのはそういうことなのかもしれない。

たぬきちグッズが増えていく。
開演前に鹿の仔とゆったりと。食べかけで申し訳ない。

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