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第101回目天皇杯決勝戦-敗戦備忘録

※試合後に書いていますのでできるだけリプレイや速報を確認しながら書いていますが情報に齟齬があったら申し訳ありません。私の気持ちの備忘録です。

我々は皆勝ちに飢えていた。

ヴァンフォーレ甲府、現在J2で18位。J2残留を争い一戦一戦に緊張感がある。降格を控える21位とは勝ち点8の差という降格争いをしているチーム。
かたや、サンフレッチェ広島。過去天皇杯を決勝で5度逃している。1月1日に何度も辛酸を舐め、6度目のチャンスをやっと手にした。

とはいえ、私が応援するサンフレッチェ広島は天皇杯決勝のみならず、ルヴァン・カップ決勝を一週間後に控え、なお、J1リーグ3位という好成績を2022年10月現在維持している。リーグの差もあり、ちょっと好カードなのではという期待が脳裏の片隅を過ぎる。

しかし、ヴァンフォーレ甲府だって負けていない。ここまで天皇杯の相手カードはこれまでの決勝までJ1の4チームに勝利して勝ち上がってきたチームだ。前試合では鹿島を1-0で破り広島戦に臨む。天皇杯決勝はクラブ史上初、初めての天皇杯優勝を目指す。J2クラブの天皇杯制覇は10回ぶりになる。

試合前講評として是非よんで欲しいnote
クラブの歴史や最近の試合のことがとても詳細に書かれているし、とても興味深かった。

私は、正直サンフレッチェのサポーターになってやっと10年くらいの浅さと、サッカーの知識はほとんど全くと言ってもいいほどない素人だ。天皇杯は今までテレビでしか観戦したことない。そもそも盆正月に実家に帰る習性ができてしまっていて、国立競技場に行こうとすら想わなかった。
それが今年、カタールW杯の調整もあって幸運にも天皇杯決勝戦の予定が元旦から変更されて、好運にもサンフレッチェ広島が勝ち上がってくれた。
今回行かなきゃもう2度と天皇杯の決勝戦を見に行くことはないかもしれないと思ってチケットを取った。

コロナが蔓延してから、スタジアムでの声出し応援は禁止となった1年以上の期間、発生と鳴り物は禁止で、やっと太鼓が解禁された。サッカーの野球も一緒だ。みんなで応援歌やチャントを歌うのが楽しく、選手に声を届けたくてスタジアムに行くのにそれがなかなか叶わなかった。

天皇杯の決勝戦は、声出し可能な席が売り出された。私も三年ぶりの声出し応援が可能になった。

14:00の試合開始、1時間ほど前に最寄りの駅につき、ヴァンフォーレ甲府の青とサンフレッチェ広島の紫のユニフォームを着て駅に着いたサポーターたちがぞろぞろと歩く道を、前に倣って歩いていく。ここにいるファン全てが今日の勝利を心待ちにしている。
どちらか一方は負けてしまうのだ。帰り道は必ず勝ったチームのサポーターと負けたチームのサポーターが入り混じる。無言の悲壮や、落胆だったり悔しさだったり、喜悦だったり批評だったりいろんな声が聞こえるけれど、スタジアムに向かう道はみんな期待に満ちていて好きだ。みんながサッカーを楽しみに歩く道には、ススキやアワダチソウの咲いていて秋の色に溢れていて嬉しくて心が躍った。

開始30分以上前に着いた会場のゴール裏は、一席飛ばしではあったけれどほとんどいっぱいだった。二階の影になっている一階席に座る。
辺りを見回す。紫一色の人だかりが、大きな声を出してスターティングメンバーの選手をよんでいる。それだけで嬉しい。歌が始まる。新しいチャントや懐かしいチャントの合図が聞こえる。思い出す限りを歌う。知らないものは、歌詞を聞きながらなぞらえる。
毎年やってきた当たり前の応援が嬉しい。

試合開始14:04
大歓声の中、桜柄のボールが蹴られる。試合が始まる。前半は、堅牢な守備の甲府のプレースタイルに随分と苦労させられる。
そもそも、ボールがなかなかピッチの内側に入らない。サイドであればゴールの近くまで行くのに甲府のDFがうまくブロックしてシュートまで持ち込めなかった。ボール支配率は悪くないはずなのに、沸くほど良いシーンが全くない。仲間同士の連携もなんとなくうまく噛み合ってないように見える。
そうするうちに前半26分、甲府はCKからクロスボールに合わせて髪型が気になる三平選手がゴールを決める。先制点だ。ゴール向かって左側から反対側に向かって華麗な低いボールが入れられる。申し分のないゴールだ。うまく決められたと思う。文句のつけようもない。
広島はその後いいところがなく、不安を煽られながらもアディショナルタイム+2分で試合は折り返し。ただ、終盤にはパスがかなり通り攻めの姿勢ができてきたので不安半分、まだ期待は捨て切らない。

休憩を挟んで後半開始
コートチェンジをしてサポーターがいる側に今度は攻める。後半もシュートまで持ち込まれたりFKを与えるプレイもあったが、前半よりかたさはなくなり相手側のゴール前まで攻める回数が増える。確実に風は広島に吹いていることを感じる。まずは一ゴールでいい。1ゴール入れば負けることはまずない。その願いとともに、歌いながら選手たちのチャンスを待つ。広島はDF野上を入れて、ベテランDF塩谷を前に出す。

チーム定番チャントの入りが始まる。広島ナイト。
Saturday Nightのリズムに合わせて私も10年ずっと歌い続けている終盤定番の応援だ。
久しぶりの歌に涙が出そうになる。いつも、この曲を最後にみんなで口ずさむ。
残り15分、一点が入らなければここで負ける。
会場の歌う声と手拍子が大きくなる。何度もボールは甲府側のゴールに近づく。

大声の応援と重なるように、試合時間83分、後半38分。エゼキエウ選手の股抜きで会場が湧くと、そのパスを受け取った川村拓夢がゴールに向かって右側の位置から鋭いボールを放つ。ふわっとしたGKが取れるボールではない明確な意志のシュートはそのままゴールの右上の方へ吸い込まれサイドネットあたりを揺らした。

川村拓夢選手は広島ユースの出身で、去年までは愛媛FCにレンタル移籍として所属、今年広島に帰ってきてつい2ヶ月前にJ1初ゴールを決めた選手だ。準々決勝で決定打を放った彼が同点となるゴールを決めた。若い選手がまた活躍した。

スタジアム右側、サンフレッチェ広島のサポーター席はわいた。大声でみんながゴールを喜んで軽いハイタッチをした。応援チャントは終わるどころか遮られることなく勢いを増した。まだまだ勝機はあると確信していた。風はまだ広島に吹いている。惜しいシーンは何度もあった。その度に甲府のDFとGK河田選手に阻まれた。アディショナルタイムは+6分。決めきれずに延長にもつれ込んだが、落胆の声はなく、更なる熱狂にサポーター席は包まれていた。

延長戦は休憩を挟んで前後半各15分ずつで休憩はなし。前後半でコートチェンジをして通しで30分が経過したところでアディショナルタイムが加わる。
延長戦前半は、後半から続いた流れのまま攻めの姿勢を崩さずいいところにシュートを放つもゴールポスト横を抜けて中々点数が決まらない。確実にゴール前にボールが通るようになっている。それでもゴールがきまらない。それでも誰も諦めない。勝利がすぐそこまで迫っている気がする。

そして、コートを再度入れ替え延長戦後半
甲府は延長前半終わりかけに出てきたベテランの山本英臣選手がハンドを取られ、痛恨のペナルティーキックを広島に与えてしまう。広島サポーターのボルテージはここで本日最高まで上がる。勝ちを確信する。甲府側はわっと落胆の声が上がる。

広島サポーターの大いなる期待をチャントとして浴びせられる満田がPKを蹴る。たまは悪くなかった。今日一大きな声が両サイドのサポーターからあがる。甲府のベテランGK河田がボールを防ぎゴールセーブ、得点は入らずにプレーは続行。広島はCKなどの機会を得たが、結局延長戦で点数は入らず、PK戦へと突入した。

試合経過が良かっただけに、私は延長戦までに試合を決めておいてしまいたかった。と思った。これだけ攻めているのに点数が決まらないことが少し不安だった。

PK戦は広島サポーター側のゴールで、先攻広島、後攻甲府。3人目まで両チーム順調にゴール。GKの動きを読んで何なく決めているように見える。三つの丸が両チームの名前の横に並ぶ。

応援しているチームの選手が蹴る前に彼らの名前をよんで手拍子をして、そして手を組んで祈る。入るとほっと胸を撫で下ろす。相手チームの一人が出てくる度に広島GKの大迫の名前を叫んでて手拍子を送り、相手チームへのブーイングと共にタオルを回す。

広島4人目のキッカーは川村拓夢。今日一ゴールを挙げている若い選手。蹴ったボールは読まれて甲府のGK河田の手が弾く。広島側から「あーー!」という声があがり、反対に甲府側からは歓声がわく。

甲府の4人目がゴールを決めて、広島は本日延長後半にPKを外した満田が出てくる。声出し応援席から大きな声で「満田!」と呼ぶ声が手拍手を挟んで4回上がる。2度目のPKはきれいにゴール内に収まり、決まる。4-4、次を止めればまだ勝機はある。

甲府最後のキッカーは、今日ハンドを取られた山本英臣。42歳のベテランで、20年甲府に貢献してきた選手らしい。蹴るまで広島サポーターはGK大迫の名前を呼んでいた。大丈夫!と前の座席の人が叫ぶ。外せ!という声も聞こえる。外せ、弾け、と各々が祈ったと思う。私も祈った。弾いてくれと。
最後のゴールは随分ときれいに決まった。横に低くとんだ大迫の上を通り抜け、ゴールネットの上方へと素早くおさめられた。

慣れたベテランのシュートだった。
甲府サポーターの歓喜がきこえる。甲府の選手は抱きあって勝利を喜ぶ。

PKの一本が二度決まらなくて、止められて、負けた。サンフレッチェ広島は6度目の天皇杯の決勝戦で、敗れた。

ゴール裏の動きは少なかった。いつもなら負けてすぐに動き出す人が大勢いるのに、今日は大半のサポーターが彼らがメダルを受け取り、会場から歩いて退場するまでずっと席から動かなかった。最後まで拍手で見送った。
甲府の選手やサポーターの興奮と世界が分かれるように、みんなが落ち込んでいた。本当にすぐ目の前にあったと思った優勝が手をすり抜けた。
いつもなら「次がある!〇〇がんばれ!!」と声をかけるサポーターも多いのに、今日はみんなが拍手で見送った。次はない。でもみんなが、今日の試合が悪い試合じゃなかったと思ってるみたいだった。選手が健闘したことを讃えているようだった。

川村選手と満田選手は泣いていた。会場内のカメラには甲府の選手と表彰式しか映らなかったので泣いている場面を見ることはなかったが、写真を撮るために登壇した二人の目は少し腫れていて、準優勝といえど選手の顔は暗く険しかった。

Twitterで多くの人が立ち上がれない。来週があると、前を見れないと呟いていたが、私もそうだった。日産スタジアムから立ち上がって去ることができなかった。試合への満足感と、悔しさと、いろんな気持ちが混ぜこぜになっていた。

選手を見送って一息つくと、サポーター席からどんどん人が去っていった。甲府の選手はまだ甲府側の左ゴール裏に集まっていた。チーム一丸で喜んでいる姿を見ることができなくて、漸く重い腰をあげて帰路についた。

近年広島を支えているGKの大迫敬介。天皇杯の決勝までチームの得点を稼ぎ、厳しいところで決定打となる一点を決めてきた満田誠と川村拓夢。3人とも——特に後者の二人は今年になって活躍が眩い若手だ。
会場にいる人たちも、Twitterでつぶやく人たちも誰も彼らのことを責めなんてしてなかった。
PKのあと一点が延長戦でも、PK戦でも足りなかった。経験がものを言った試合だった。でもそれはしかたなかった。

現地ではわからなかったが、若手の満田くんが延長戦のPKを蹴ると譲らなかったという。ここまでの立役者である彼が蹴ったこと、それをチームメイトが承認したこと、その上で止められたこと、全てが私は悪くなかったと思う。彼がそこまでこの天皇杯に賭けた思いがあったのは悲願の6度目の決勝だったからでもあると思う。それが素直に嬉しかった。
失敗した後に5人目の選手として最後のPKを蹴った勇気も素晴らしかった。その采配をしたスキっべ監督にも感謝している。蹴らなければきっと彼は精神的に辛かっただろう。
PKこそ止められた川村は、延長戦、PK戦へと持ち込む大事な一点を決めた選手だった。彼が出てなければそこまで競っていなかったかもしれない。彼が蹴ったことにも大いなる意味があった。

全員で挑んで負けた。足りないところはあったかもしれないけれど、選手もサポーターも一生懸命やった。プロスポーツだから勝たねば意味ないと言われると返す言葉はないが、良い試合だった。シュートが外れると落胆の声を出してしまったけれど、久しぶりに飛び上がってゴールを喜び、危険な場面を回避しては胸を撫で下ろした。PKの時は入ってくれと祈り、防いでくれとタオルを回した。本当にいい試合で心躍った。それだけは確かだった。

天皇杯、日産スタジアムまで連れてきてくれたことに、今日一日の試合に、選手、スタッフ、応援の統制をしてくださったサポーターの皆様にお礼を言いたい。本当に楽しくていい試合だった。だからこそ悔しかった。

長くチームに貢献してきた山本英臣選手とタイトルを一緒に取れてよかったという旨の言葉を、甲府GKの河田選手が言っていて、印象的だった。
私がサンフレッチェ広島をスキになったきっかけもそういう選手だ。佐藤寿人や森崎兄弟がタイトルを取った姿を見て嬉しかった。このチームで優勝を、という気持ちは痛いほどわかる。
ベテランが与えたPKをベテランが止めて、最後はその二人が要となって優勝杯を手にした。漫画みたいな話だ。帰り道、甲府サポーターのツイートを見て涙ぐんだ。きっと、サンフレッチェ広島が対戦相手じゃなければ手放しに私も喜んだしおめでとうと言えた。
敵だから、素直におめでとうと言えなかった。
でも、素直に感服した。優勝に値する試合だったし、優勝を手にして当然の戦いだったと思う。それは間違いない。

ヴァンフォーレ甲府のチーム、サポーターの皆様、優勝本当におめでとうございました。本当にいい試合をしてくださりありがとうございました。

まだ心から祝福はできない。
次、ルヴァン杯は頑張ろうとはまだ言えない。
でも、勝ちに値するのは確かなんだ。

次の試合では満田くんと川村くんのグッズを買いたい。きっとここ最近売り切れるくらい売れてるだろうけど、今日で購入を考えた人は私以外にも多いと思う。気長に買える機会を待つ。

今日応援に行った皆様も、テレビの前で応援してた皆様も、速報で確認した皆様もおつかれさまでした。
また、同じ舞台に彼らが立つことを私は夢見て止みません。

負けたからって行かなきゃよかった試合は今まで一度もなかったし、今回もそうだった。
サッカーは楽しい。サッカーの応援って楽しい。サンフレッチェ広島、最高。

#サッカー

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