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OFF LABELのイベント「大学院オープンキャンパス:はじめての学会」へ!

 「ジンブンガクを、ジブンゴトに」がモットーのわたしたち。「研究や研究者のことをもっとよく知ってもらう」というモチベーションを共有する学生団体は他にもたくさん存在しています。

 そのひとつ、OFF LABELのキックオフイベント「大学院オープンキャンパス:はじめての学会」にお邪魔してきました。

 ウェブサイトによれば、

「学問をカジュアルに、日常をよりよく生きる糧に。」
「…実は研究や学問は、日常生活に密接に結びついており、何かを突き詰め、問いを深めることは、ある種のライフスタイルかもしれません。 」

 つまり研究や学問を日常に開いていこうという考えが下地になっている。単に大学院とは何かを説明するだけにはとどまらない、ユニークさを感じます。
 その反面、「カジュアル」ってなんだろうという問いも生まれます。学問に貼られているネガティヴなラベルを剥がすためには、「カジュアル」というテープ剥がしが必要ということでしょうか。これは行ってみるしかありません!

会場の様子

 会場は渋谷駅からすぐ、南平台の大通り沿いにあるSLACK BOX SHIBUYA。夕方ごろ伺うと・・・

 キックオフイベントにもかかわらずたくさんの人!会話の絶えない熱気ある会場に、幅広い年齢の来場者。高校生の姿もありました。この団体はプレスリリースからウェブサイトやチラシのデザイン、高名な研究者への声かけなど(パンフレットにはあの上野千鶴子さんからの応援コメントも)、広報に余念のない印象を受けます。名札を首から下げた来場者のあいだに活発なコミュニケーションが生まれていて、これぞ「カジュアルな学会」のあるべき姿かと、非常に感銘を受けました。

 イベント内の展示では、同じく学生団体UTaTanéのスペース、わたしたちUT-humanitasのスペースに、たくさんの院生や研究者が専門分野やそれを選んだ経緯を紙に書いて貼った「百人論文」というコーナーが用意されていました。

 ただそれ以上に力が込められていたのは、会場内のブースで行われるトークや学生発表だと思います。広すぎない会場というのが功を奏して、聴衆からの質問をふくめ密度の濃い対話が行われていたのが印象的でした。トークイベントの臨場感は、動かない展示からは得にくいものです。たくさんの人に何かを伝える上で、非常に的確な試みなのだと改めて思いました。(ジブンジンブンでもできないものかしら?)

(©︎chun / OFF LABEL)

トークショーの様子

 残念ながら学生発表には間に合わなかったのですが、この日最後に行われたトークショーを聴くことができました。在野研究者という肩書きを持つ荒木優太さんに、東大の教職という地位を持つ小野瀬宗一郎さん、ふたりの文学者の対談は非常に興味深いものでした。特に荒木さんのキャラクターの面白さが伝わってきて、「大学のなかだけにあるものを研究とするのではなく、その裾野を広げていきたい」というメッセージも明確でした。

(©︎chun / OFF LABEL)

 どうしても出演者の設定上、「在野」対「大学」という構図が生まれてしまうのは致し方ないことでしたが(お二方とも自分と相手を比較して話そうとしていました)、荒木さんが「守るべきものがないから自由にできる」と正面切って言える反面、小野瀬さんの解答は「在野は在野で良いと思う」というような歯切れの悪さを感じてしまいました。わたしとしては、在野研究者も大学というリソースあるいは制度に依存した側面があるということを明確にして欲しかったという感想を持ちました。(そのような内容の質問をしました。)
 とはいえ「在野」対「大学」なんて対立を煽る必要は全くないわけで、お互いに良い意味で利用し合うのが健全だなと思います。

ライフスタイルとしての研究

 上述の荒木優太さん、彼の考えは話を聞く限り、OFF LABELの理念にぴったりなんだなと思います。人選の妙というところ。大学の外にまで研究の裾野を広げるというアイデア、さらに荒木さんが文学研究へと至ったエピソード(人から話しかけられないために本を読みはじめた、ひとりでいることが苦でなくなった)に、まさに「ライフスタイルとしての研究」をみた気がします。
 だからたしかに学問への入り口は、思わぬところに、日常のふとした瞬間に、あるいは抱える悩みの意外な解決策として、転がっているのかもしれません。その限りでは、学問はカジュアル=何気ない、くだけた、不意の、ものとなりうるのでしょう。
 ただ荒木さんの「ライフスタイルとしての研究」は、同時にとてつもなくシリアスな意味を持っていることも確かです。とても印象的な言葉がありました。

「僕は自分のことがあまり好きじゃないから、生きていたくないときもある。だけど自分の書いた文章だけは素晴らしいと思うから、それがあるなら生きててもいいかなって思える。」

 この言葉を聞けただけでも、来た甲斐がありました。「何かを突き詰め、問いを深めること」は、決してカジュアル=うわべだけの、軽い、ものではないとわたしは思います。この不気味なまでの重さ(それは魅力でもあるのです)を、どのように感じられるかというところに、豊かな明日への鍵があるのかもしれません。
 もちろんOFF LABELの方々もこのことをよくわかっていらっしゃるでしょう。パンフレットに書かれた運営メンバーの「大学院に進学した理由」からは、それぞれの選択の重さがひしひしと伝わってくるからです。そんなところに、わたしはいたく共感したのでした。

終わりに

 もうひとつだけ。OFF LABELという団体は東京大学のIHSという博士課程教育プログラムの学生が主催しています。UT-humanitasは前回の駒場祭でこのプログラムに多大な支援を受け、やっとのことで展示を実現できました。推測ですが、このようなイベントを開き著名な研究者を招くにあたってOFF LABELも金銭的な助成を受けたのだろうと思います。
 今後も活動を継続されるはずですが、経済的な面でどのような計画があるのか、わたしとしては気になっています。このような行儀の悪い話をわざわざするのは、UT-humanitasも同じ問題に苦しんでいるからです。企業からの協賛、大学からの助成、様々な選択肢はありますが、組織がアカデミアやビジネスとどのような距離を取るのか、都度問われることになります。

 このような点も含めて、OFF LABELの今後にとてもとても注目しております!!
 (わたしたちも協力して何かできたらとてもうれしいです。)

(伊澤拓人)

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